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第17話「犯人」

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 鴉に変身していた暗殺者と戦った時、砕いたマスクから現れた顔は、誘拐事件の被害者であるラズィ・キルベルであった。

 一度しか見ていない顔だが間違いない。顔写真を見せてもらいながら経緯(いきさつ)を話すと、レミィの顔から血の気が引く。


「嘘だろ?」

「少なくとも、俺にはそう見えた」


 レミィはファイルを開いたままテーブルに置くと、固く目を閉じて眉間を摘む。


「お前を疑ってるわけじゃない。だが信じられない」


 指を退けるが、眉間に皺を寄せたまま目を開く。


「証拠は? たまたま似ているだけの可能性は充分にある。違うか」


 レミィの瞳には疑惑と焦りが見え隠れしている。確かに、ゾディアックがいくら自信を持っているとはいえ、憶測の域を出てないのも事実だ。

 だが、ファイルを覗いていたエリーが口を挟む。


「パーティメンバーが一緒……」

「え?」

「私が住んでいる所に、この人のパーティメンバーが来たんです。ファイルに書いてある職業と一致します」

「確かなのか」


 エリーは首を縦に振る。


「何があった」


 エリーが昨日の経緯(いきさつ)を説明する。要点だけ話し終えると、ゾディアックは顎に手を当てる。


「そいつらも共犯の可能性は?」

「あれが演技だとしたら相当ですよ」

「ちょっといい?」


 アイリが手を挙げて話に割り込んでくる。


「何かおかしいわ。もし、ラズィが犯人だとしてよ。どうして自分が行方不明になった、なんてニュースを流したのかしら」

「そりゃお前、行方不明の方が動きやすくなるからだろ」

「あんた本当馬鹿ね」


 レオンの発言に呆れたアイリは、嘆息して腰にてを当てる。


「いい? もし行方不明になって自分が動きやすくなるのが目的なら、”最初の被害者”になるべきでしょ。でもこの人は5人目」


 頬を膨らませているレオンの前に人差し指を立てる。


「おかしいじゃない。パーティメンバーがグルだったとしても、自分がわざわざこのタイミングで被害者になるなんて」

「……自分達に疑いが向かないようにしたんじゃねぇの?」

「被害者です、って言ったら注目を集めるのに? 上手く行けば疑れなくなるかもしれないけど、リスクが高すぎるわ。おまけに昨日エリーのいるお店で暴れたんでしょ。そんな気の短い連中が、そんな危ない橋を渡るとは到底思えないわ。暴れる意味すらないじゃない」


 アイリの言う通りであった。ラズィの行動には不可解な点が多すぎる。仮に犯人だとして、犯行がばれたから行方不明になるのが目的だったのか。

 だとしたら何故亜人街に戻ってエリーを攫おうとしたのか。楽な仕事だと思ったのか、かなりの報酬があったのか。


「おいお前ら。好き勝手言うのも大概にしろよ。そいつはラズィに似ているだけで、ラズィ自身は被害者かもしれねぇだろうが」


 度が過ぎる憶測の数々に、レミィが注意を促す。怒気の混じるその声に対しゾディアックは肩を竦める。


「そうだな。悪い。少し冷静になるよ。被害者が真犯人というのは考え……」


 ゾディアックはそこまで言って、口を開いたまま止まる。

 魔具、新しい被害者、白魔道士、暗殺者。一つの疑問が沸き起こる。


「……何故「透過幻影(インビジブル)」を使わなかったんだ?」


 ゾディアックに全員の視線が注がれる。エリーが疑問符を浮かべ声をかける。


「ゾディアックさん?」

「確かに暗殺者なら「変身」を覚える。だが、誘拐が目的なら、「変身」を習得する前に覚えなければならない「透過幻影」を使えばいい。あれは音も臭いも消せるから、そっちの方がいいんだ。変身を解く際も、それを使えば姿を暗ますことが出来たはずなのに……」


 アイリがその言葉聞いて、ゾディアックの代わりに言葉を紡ぐ。


「……使わなかったんじゃなくて、”使えなかった”?」

「待てよ。魔具を持っていたんだろ?」


 魔具には様々な種類があるが、どれもが共通している特徴がある。

 それは「使用者の魔力を増幅させる」というものだ。通常では高い魔力を持っていなければ発動できない魔法も、魔具をサポートとして装備すればいとも簡単に使えてしまう、ということは多い。


 半面、魔具は麻薬のような物であり、定期的に魔力を供給しなければ幻覚や幻聴に悩まされる、または破壊衝動に駆られるという危険性もある。


「じゃあ透過幻影ぐらいだったら使うの楽勝だろ。なんで使えねぇんだよ」

「覚えてないんだ。透過幻影を。本来覚えている魔法を覚えていない。……つまり犯人は冒険者じゃない」


 レオンの疑問に答えたのはゾディアックだった。脳裏に答えが浮かんだゾディアックは踵を返す。


「え、ちょっと待ってください! じゃあ犯人は誰なんっすか」


 足を止めレオンの顔を見ると、ゆっくりと口を開く。


「幽霊だよ」


 全員が顔を見合わせる。


「行くぞ皆」

「何処に、行くんですか?」


 エリーが小首を傾げる。


「俺の家に、だ」


 再び全員が顔を見合わせる。

 レミィはこの時ほど、冒険者じゃない自分を呪ったことはなかった。


♢ ♢ ♢


 集会所を後にした3人はゾディアックの背中についていく。自宅というがどんな家なのか、レオンは勝手に想像し始める。


「なぁ、どんな家だと思う? やっぱり豪邸かな?」

「Jランクだもの。装備品も超一級品なら、家も豪華でしょ」


 この世界には冒険者と呼ばれる者達が存在する。冒険者というのは名前の通り、世界を旅し、魔物の討伐やダンジョンの攻略を生業としている。剣や魔法を使い、おとぎ話に出てくるような戦い方をする。様々な能力を駆使してこの世界を生きている者達だ。


 訓練せずとも誰でも冒険者にはなれるが、そこには「ランク」と呼ばれる、いわゆる格付けが存在する。

 最初はGから始まり、F、E、D、C、B、A、S、SS、SSSとランクが上がっていき、その頂点に位置するのがJだ。


 Jを持つ冒険者は世界で7人しかいない。そのうちの1人がゾディアックである。このランクを保持する者達の実力は、神に匹敵すると言われている。


 反面、オーディファル大陸を荒らした闘神の化身とも言われており、人々と冒険者からは恐れられている存在でもある。


「……意外と普通だぞ?」


 ゾディアックは振り向かずに、言葉だけを後ろに投げる。


「またまたー。謙遜しちゃって」


 レオンはヘラヘラとした笑顔を崩さずに、背中についていった。


 馬車を降り、歩いて数分。たどり着いたのは、亜人街に近い住宅街に佇む、平凡な一軒家だった。2階建てで見てくれは立派だということ以外は、これといった特徴はない。


「あれ。なんか以外と普通のいい家?」

「そうね。裕福層が住む北地区でもないし」

「どうして亜人街近くなんですか?」

「……まぁ、色々とな」


 言葉を濁したゾディアックは魔力を手に集め、扉に触れる。瞬間、表面に魔法陣が展開し、鍵が開く音が鳴り響いた。


♢ ♢ ♢


 玄関でゾディアックを出迎えたロゼは、口元を両手で隠し、目元に涙を浮かべ震え始めた。謎過ぎる行動にゾディアックは目を丸くしてしまう。


「ロ、ロゼ? どうした?」

「ぞ、ゾディアック様が……」


 ロゼは瞼を強く瞑る。


「お友達連れてくるなんて……感無量です!!」

「お母さんか」

「だって今までボッチ貫いてて、野良猫に話かけていた時期もあったじゃないですか! 私はもう嬉しくて嬉しくて」

「野良猫じゃなくて野良犬だ」

「どっちでもいいですよ!」


 仲睦まじい様子を見せる2人を見て、レオン達は面食らう。金髪ゴスロリ美少女が現れれば、それも硬派だと思っていた冒険者の自宅から現れれば誰でも驚く。


「え、誰あの可愛い子」


 アイリは少し顔を引き攣らせる。もしかしてゾディアックはロリコンなのかもしれないと失礼ながらも思ってしまう。


「やべぇ。惚れた」


 鼻の下を伸ばしながらレオンが言う。アイリは無言でレオンの足を踏む。短い悲鳴が木霊した。


「そっか……」


 エリーは言葉を零した。ゾディアックと金髪の女性がどんな関係かは分からないが、雰囲気から親しい関係であることは伝わってくる。


 家族ではないだろう。妹や姉だとしたら似てないし、親というには若過ぎる。だとしたら、彼女、それとも妻か?

 疑問を頭の中で浮かべるエリーは、自分の中で何かが蠢く感覚に襲われる。


「……?」


 どこかもやっとした感覚に小首を傾げながら、胸元を軽く握る。


「ところで、どうして家に?」

「ロゼに聞きたいことがある」

「ふむ。深刻なご様子で」


 真剣な表情を一瞬見せると、ロゼは顔を明るくして3人の冒険者に笑顔で話しかける。


「とりあえず、中に入ってくださいな。美味なクッキーでも食べながら、話しましょう」

「は、はい!」


 足元を押さえながらレオンが元気よく返事をすると、扉が閉まり自動的に鍵がかかった。




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