殺し屋の弾丸
バァン‼︎
バァン‼︎
バァン‼︎
銃声が夜の街に響き渡る。人気の無い路地裏に一人の男が横たわり、男を中心に血溜まりが広がっていく。
「マイケル・H・ロジャー、年齢四十歳、職業サラリーマン、家族構成無し、ターゲットにされた理由は闇市場の金を横領した‥‥貴方も災難ね、私に殺しの依頼をされるなんて」
瞳に映る男の顔から感じる感情は…“絶望”。
ブーツを鳴らしながら男に歩み寄り、胸にしまったカメラを取り出し死んだ男の写真を撮る。しっかり撮れていることを確認するとまたカメラを胸にしまう。
私は路地裏から出ると、止めておいた愛バイクに跨り髪ごとヘルメットを被った。エンジンをかけアクセルを強く握りしめる。
「スノウ、返り血と汗かいたから風呂沸かして」
「ソフィア様‼︎何も連絡無しに外へ出てはいけませんと何度言ったらわかるんですか‼︎」
バイクのミラーから聞こえる怒鳴り声を無視してアクセルをいれ、勢いよく街を駆ける。
「帰ったわ」
少し重い両扉を押して入ると包帯に身を包んだメイドがやって来た。
「お帰りなさいソフィア様‼︎お風呂を沸かして、浴槽にソフィア様がお作りになられたバスボムを入れましたよ♡」
見た目に反してキャピキャピしたポーズで出迎える彼女はマリア・M・ラヴィーン、私の屋敷でメイドをしている。
「ありがとう、湿気で肌が荒れなかった?」
「それが全然‼︎普段なら腕一本落ちても可笑しく無いんですけどね〜」
ケラケラと笑うメイドの発言に人間が聞いたら絶叫するかもしれないけど、私達には当たり前過ぎて気にもしない。何故って?彼女は“ミイラ”だから。
八千年前、突如“天界”、“人間界”、“魔界”の三つの世界が一つになってしまった。彼等は己の私利私欲の為に五千年間“聖戦”を続け、終戦を迎えた。それから三千年後‥‥全ての種族が集うは“光と闇”と呼ばれるこの大陸で、全種族共に暮らし、平和に過ごしている‥‥表上はね。
闇市場では人間が奴隷として売られていたり、天使族が魔族を滅ぼす計画をしていると噂されていたりと平和とは程遠い裏社会もある。
この国は元はイギリスと言う名の国だったランジュエル王国である。魔力を上げる魔石や宝石が盛んで貴族達がよく高値で購入している。
その国に暮らす殺し屋一家に生まれた私は、物心ついた頃から銃やナイフを持っていた。有名な殺し屋であった両親は自身の殺しの技術を全て娘の私に叩きつけた。両親のような立派な殺し屋になる為、私は血の滲むような努力をし、今では亡き両親が居なくとも、一人で屋敷を支えられるようになった。
「はぁ‥‥殺しの後の風呂は最高に気持ちいいわ〜‥‥」
最新作のバスボムは疲労ストレス解消・美肌効果・リラックス効果がある。柚子のいい香りが鼻を擽る。
“日本帝国”と言う国では柚子風呂というものをしているみたいだし、今度柚子を買ってみようかしら。
疲れを十分に取り風呂から上がると、一匹の黒猫が私の着替えの服の上に座っていた。尻尾の先が僅かに動いているのを見るに何やら苛立っている様子。
「ビビアン、何か用?またアレックスに悪戯して追い出されたの?」
タオルである程度髪を乾かし、洗面台で化粧水と乳液などをつけながら聞くとキッと金色の目を開けて瞳孔を広げた。
「アレックス様にゃんか知らにゃい‼︎にゃによ‼︎少しは構ってくれてもいいじゃにゃい‼︎ニンニク料理で喉詰まらせればいいわ‼︎」
鏡に映る彼女は毛を逆立てて私の服をバシバシ右前脚で叩く、爪を立ててはいないものの、それはお気に入りの服だから大事にして欲しいわ。
「なら私が構ってあげるから、そこをどいて頂戴」
「うえーんソフィア〜」
ビビアンはにゃ〜んと鳴きながら足に擦り寄る。
彼女はよく自身のご主人様であるアレックスに、喧嘩や悪戯をして屋敷から出ては私の屋敷に転がり込む。だが最終的にはアレックスが迎えに来てくれるでしょうと思いながらブラウスの袖を通す。
「さ、着替えたことだし部屋に行きましょう」
フリルスカートを履いてコルセットでしっかり締める。ビビアンをそっと抱き上げ、浴室を出た。
「お前また来たのか‼︎ソフィア様の邪魔をしてないだろうな⁉︎」
「うっさいわねスニョウったら、アレックス様と同じこと言わにゃいでくれる⁈」
部屋に戻るとスノウはビビアンに突っかかって来た。真っ白な毛並み、額についたルビーと同じ瞳の色を持つスノウはカーバンクルと言う生物で私の使い魔。
「スノウ、そのくらいにしてあげて、ビビアンも」
これじゃゆっくりと紅茶を飲めやしない。仕事の資料を見ながら、マリアが焼いてくれたチョコクッキーを一つ食べる。
「ですがソフィア様‼︎貴女は最近過度な仕事を続けておられるんですから少しは休息をとって頂かねばなりません‼︎」
このようにスノウは私の体調や身を案じてくれるが少し過保護過ぎやしないかと思っている。
すると目を離した隙に変身魔法を掛け合って喧嘩し始めているので止めに入ろうと手を出した瞬間、テーブルに置かれた蝋燭が少し揺らいだ。資料を纏めないと失くしてしまうと思い急いで飛んでいきそうな物を片付けた。
バンッ‼︎
ビュウゥゥゥッ‼︎
突如部屋の窓が開き突風が吹き寄せる。スノウとビビアンは体重が軽い為吹き飛ばされまいとカーペットにしがみ付いて突風から耐える。突風で部屋の蝋燭が全て消え辺りは真っ暗になる。
「もう少し良い入り方は無いわけ?‥‥アレックス」
突風が収まり開いた窓を見ると、真っ黒なマントを羽織った銀髪の男が、眠そうに閉じた瞼をゆっくり開くとガーネットの瞳が私を映した。