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06

 三十分後。

 隆二たちは自動車くるまの中にいた。

 ガイガー計数管を

他の研究室から借りて来るやら

何やらで手間取ったためだ。

 大学所有にワゴンのハンドルは

隆二が握っている。

 他には大木、サキ。

 それに助手の空来そらき、月川の5人。

 現場は高速道路の高架下。

 東京湾はすぐ先のはず。

 五人はさっそくワゴンから降りた。

 「変ね、マスコミの人がいないは」サキ。

 「そうだね」大木。

 別に何か事件があったらしい。

 芸能関係の。

 後で分かった事だが。

 そこには巨大な穴が5つ。

 高架下の空き地に3つ。

 そしてその横を走る

片道三車線の道路には2つ。

 そのため一車線が丸々潰され

通行できなくなっていた。

 助手の月川がガイガー計数管を手に。

 「先生。たいしてないです。

 放射能は。

 これなら人体には」

 「そうか」大木も一応確認するように。

 もう一人の空来はスマフォで写真を

撮り始めた。

 「先生。細胞の一かけらでも

見つかりませんかね」隆二もそこかしこを。

 「そう思って探しているんだが。

 洗った後があるね」

 現場検証の後、

水で洗い流したような跡がある。

 近所の人か。

 「そうですね」

 「月川君。

 その穴の周りを特に念入りにね」

 大木もこうなれば

ガイガー計数管だけが頼りと思ったのか

月川の方へ。

 月川も穴の周囲を。

 反応の強弱を。

 「先生」

 「ん!」

 反応が強い。

 土がむき出しになっているところ。

 目を皿のようにして。

 細胞のカケラを。

 「これだ。採取してくれ」

 明らかに放射能がある。

 「その前に写真を。

 空来君、コレ」

 「先生。

 大木先生じゃありませんか」

 後ろから声がかかった。

 そこには例の刑事がいた。

 いつの間にかパトカーが止まっている。

 「先生。採取できました」

 「そう、ワゴンに積んどいてくれ」

 「はい」

 「雑誌社の方も一緒ですか」

 二人は近づいてきた。

 「はい。お話を聞きましてね。

 興味をひかれたものですから。

 何か不都合でも」

 「いえ、それは。

 もう検証も終わっていますし」

 年配の方。宿付しゅくつけと名乗った。

 「それで何かわかりましたか」もう一人の当庭とうにわ

 「いえね。我々もさっぱり。

 いつもは人間相手の殺人事件を

扱っとるものですから。

 しかし今回ばかりは。

 何せ相手はお化けサソリですからな」

 宿付が大声で笑い出した。

 「それでここへ来れば

何かわかるかとやって来たわけです」

 「そうですか。

 私たちも同じようなモノです。

 研究室の方では今サソリの。

 いえ、本物の小さい奴。 

 それのDNAを調べているところです」

 「ああ。あのAとかTとかいう」

 「ええ、ATGC」

 「いやーーー。

 失礼しました。

 何せ門外漢もんがいかんなモノでして。

 先ほどお教えいただいたのに、もう」

 目を移して。

 「それより先生。

 この穴。どう思われます」

 宿付は中を覗き込んだ。

 大木も。

 「中はどうなっています」

 だいぶ深く見える。

 「いえ、中は。

 ウチの若いもんが中へ入ったんですが。

 すぐそこで。

 5メートルほど行ったところで

崩れているそうです」

 「それでその向こうは」

 宿付はニヤリ。

 「それがそこまでは。

 それでです。背㎜性。

 その、サソリの穴というのは

奥までどのくらいつながっているものですか。

 例えば、崩れた土砂をどければ

その向こうにも穴が続いているとか。

 そこのサソリがいるとか」

 そうもそれが気になって

ここへ来たらしい。

 「どう思うね」大木は隆二に。

 「普通、サソリは岩や石の下にいますが。

 そこを掘り下げて隠れています。

 しかし-----今回は」

 「そうだね。

 それの土を掘ると言っても

穴を掘るなどという事は。

 まして、土の中をモグラのように

掘り進んで人を襲うなどという事は。

 地上を移動するはずですが。

 サソリなら」

 「はい。我々もその点は。

 方々の専門の先生にも聞いて回って入るのですが。

 それより先生」

 宿付は一枚の地図を取り出した。

 そこには例の殺人事件の起きた場所が

しるされていた。

 「どう思われます」

 「んー。これはとても一匹の仕業とは

思えませんな」

 「やっぱり」

 「それではあと何匹もいると

おっしゃるんですか。先生」サキ。

 「そう。生物が種を保存するためには

いったい何匹くらいの個体が必要かだよ」

 「じゃあ、先生。

 十匹やに十匹は」当庭。若い方の刑事が。 

 「まだそれだけのあんなサソリが」

 「いや、もっと。

 少なくともその十倍はいるはずですよ」

 「百から二百」宿付も青くなっている。

 「しかし先生。

 急になぜ今頃。

 この時期、突然こんな事に。

 こんなサソリが暴れ出すなんておかしいですよ」

 例えばですよ。

 どこかにサソリの卵が。

 昔の恐竜時代にいた巨大サソリか何かで。

 それが孵ったという事なんですか。

 ですが最近。

 この辺りでは地震も-----火山噴火もないですし。

 妙ですね」当庭。

 「コラ。くだらん話をするんじゃない」

 宿付にたしなめられ口をつぐんだ。

 「ニワトリでもなんでも

大昔の腐った卵が

火山噴火なんぞで孵るか」

 「卵が。例えばどこかで

冷凍保存でもされていてかね」大木。困ったという表情。

 「先生、それはちょっと」隆二も懐疑的。

 「しかし今は。

 ウシでもウマでも卵子を

凍結保存する時代ですから」サキ。

 「しかし-----」

 「はい。もちろんそんなことは

あり得ないと思いますが」

 「先生」

 ガイガーカウンターを手に

穴の周囲を探っていた月川が叫んだ。

 「どうしたね」

 大木はゆっくりとした口調で。

 「チョット、これを見てください」

 大木の顔色が変わった。

 ガイガーカウンターの針が振り切れている。

 レンジをあげる。

 「どんどん強くなっていきます」

 刑事たちもカウンターを覗き込んだ。

 「先生、これは」宿付。

 「出て来ますか。ここへ」

 「いや、まだわからないよ」大木。

 「しかし先生。

 あれが共食いの跡だとすると-----」隆二。

 「と言いますと」当庭。

 「エサを求めて

またここへ来るという事も。

 それに奴らは縄張り意識が強いですからね」

 「ですが先生。

 エサなら。人が-----。

 失礼-----。

 他にいくらでも」

 宿付は例の殺人事件を思い浮かべていた。

 「考えたんだがね。

 実際、食べられていたのは

例のサソリだけだったでしょう。

 人の方は」大木。

 「そうか。そういえば」当庭。

 「口に合わなかったとでも」隆二。

 「放射能を浴びて

突然変異した肉しか食べないとか」当庭。

 「ンー」大木。考え込んだ。

 「それは分からない。

 しかし奴ら生餌しか食べないらしいし。

 サソリの死骸を今さら。 

 それに人の方は」

 どうなる。

 考えることが多すぎた。

 「とにかく少し下がろう。

 ここは危険だ。

 空来君。こっちへ」

 カメラを持っている空来が

何やら硬直したように

穴の中を見詰めている。

 「空来君」

 大木の声に

ジリジリと後ずさりをはじめたかと思うと

腰を抜かすように一目散にこちらへ。

 「先生.眼が-----。

 出ました」

 見る間に巨大なハサミが

穴から姿を現した。

 「空来君。写真-----写真」大木が叫んだ。

 サキはスマフォで。

 空来はカメラを握ったまま動けない。

 穴の中から彼を睨み付ける

巨大サソリの眼を見た時の

恐怖が去らないのだろう。

 「かせ」隆二が奪うようにカメラを。

 穴から既に全身を現した巨大サソリへ。

 夢中でシャッターを切り続けた。

 サソリは何かを捜す風。

 毒針のある尻尾をピンと立てたまま。

 そうでなければ隆二たちも

命がなかっただろう。

 パトカーの中にいた警官が

慌てる手でピストルを握りながら

外へ出て来た。

 「当庭。

 本庁へ連絡を」

 数メートル先に奴はいる。

 体長は六メートルはある。

 「先生。危険です。

 下がりましょう」

 隆二はサキを抱えるように

大木たちと後方へ。

 パトカーの陰へ。

 「何をしてるんだ」宿付。

 巨大サソリは口から泡を吹きながら

周囲をきょろきょろと。

 宿付はピストルを。

 「捜してるんだは。

 仲間の死骸を」サキ。

 「そうか」

 相当動揺している。

 気が回らないらしい。

 「どうします」当庭。

 「先生。

やはりあの死骸は共食いですか」

 「はっきりとへ断定できないが-----

多分そうだろう。

 他にあの巨大サソリをエサにしそうなものは

考えられないしね。

 それよりあの死骸に

唾液でもついてなかったのかね。

 それをDNA鑑定すれば」

 「それは-----今やっているはずですが」宿付。

 サソリは急に怒り狂ったように

その巨大なハサミを振り上げた。

 「やっこさん。怒ったな」

 「先生。例の死骸。

 あのままにしておいた方がよかったかも」宿付。

 声が上ずっている。

 サソリの動きは素早かった。

 高速道路を支える橋脚をハサミで一撃。

 2メートルはあろう太いその柱は

一瞬のうちにその大半がえぐり取られた。

 サソリはその墜ちて来た

コンクリートと鉄の破片を口へ。

 バリバリと噛み砕いていく。

 動くものは何でも襲うらしい。

 「すごい」

 「撃ちますか」警官。

 パトカーのサイレンが近づいてきた。

 怪物は半分飲み込んだ

コンクリートを吐き出した。

 目が隆二たちの方を。

 パトカーが停止する音。

 周囲を走る自動車も

この光景を横目でチラリと見ただけで

通り過ぎていく。

 さほど脅威は感じていないらしい。

 映画の撮影か何かと思っているのか。

 宿付は怪物とにらみ合っている。

 襲いかかってくれば

いつでも撃てるというつもりで。

 二三発撃ち込めば

完全に射殺できるはず。

 この場の全員がそう思っていた。

 新手の警官も

恐る恐る駆けつけてきた。

 パトカーの数も数台に。

 「先生。どうも動きが」隆二。

 「そうだね。少し鈍いようだ」

 “いや、あんなものなのかな。

 巨大化した分”

 しかし、今までの様子は擬態だったのか。

 襲ってきた。

 ピストルの発射音。

 怪物の身体で数個の火花が。

 「そんな」

 「馬鹿な」

 全く効果がない。

 弾丸がはじかれた。

 巨大サソリは人には目もくれず

パトカーを襲った。

 その巨大なハサミでパトカーをはさみ

持ち上げた。

 尻尾の針を撃ち込む。

 エンジンごと押し潰されたように

切断され落下。

 毒液により溶けている。

 今までパトカーの陰にいた隆二たちは

慌てて逃げ出した。

 怪物は今度はパトカーをその口へ。

 猛り狂ったように

またもや吐き出した。

 すでに周囲は何台ものパトカーが

取り囲んでいた。

 一般車もすでに通っていない。

 ただ怒りにぎらつくサソリの眼が。

 「相当腹を空かせてますね」隆二。

 「食べ物がないんだ。

 口に合う」

 暴れる怪物。

 あたりかまわず壊しまくっている。

 パトカーを持ち上げ、投げつけ

アスファルトを引きはがし。

 警官たちの発砲にもびくともしない。

 「殻の部分はダメだ」隆二。

 「目だ。いや、口を狙え」宿付が叫んだ。 

 自らもピストルを構え、引き金を。

 「クソ!」弾丸がないらしい。

 怪物はもう手当たり次第。

 パトカーなどハサミの一撃で真っ二つ。

 巨大サソリに警官がに三人跳ね飛ばされた。

 逃げ遅れたのだ。

 宿付の声に警官たちも目や口を。

 「ダメだ」

 それでもはじかれるだけ。

 「そんな、馬鹿な」大木。

 「ピストルでは無理だ」

 怪物は道路を真っ直ぐ。

 やはり早い。

 隆二たちのすぐ横を通り過ぎ

彼らが盾にしていたパトカーを

軽々と弾き飛ばし

乗り越えていった。

 信じられない事に

どれほどの重量化

戦車が通った跡のよう。

 「助かった」

 生命からがらパトカーの陰から

逃げ延びた空来がポツリ。

 宿付も本庁へ連絡を。

 「そう。ライフル程度じゃ無理だ。

 ピストルでは全く。

 バズーカ砲でもなければ歯が立たない」

 怪物は道路に沿って

百メートルも走っただろうか。

 地下へ。

 早い。

 あっという間に土中へ。

 「逃がすな」当庭。

 しかしどうしようもない。

 アスファルトで覆われた地面が

信じられないほどの速度で

道路に沿って盛り上がっていく。

 「そう深くは潜っていない」宿付。

 「追え」

 しかし人の走る速さより速い。

 はるかに。

 そのアスファルトの盛り上がりはビルへ。

 水道管が地下で裂けたらしい。

 水がそこかしこで噴き上がった。

 だがこの状況でそれを気にする者もいない。

 ブルへ伸びた怪物の痕跡は。

 ビルの外壁が崩れ出した。

 下から上へ。

 人がパラパラと

ビルの裂け目からこぼれる。

 20階はあるビルの最上階あたりから

サソリの尻尾が弾き出された。

 「あの野郎」

 ビルが最上階付近から崩れ出した。

 ガラガラと。

 暴れまわっている。

 もがくように。 

 「苦しんでいる」隆二。

 まるで彼らには暴れ狂う怪物が

もがき苦しんでいるかのように見えた。

 跳ねるように

ビルの完全に崩れた最上階付近から地表へ。

 「どうしたんだ」大木。

 跳ね飛んでいる。

 「今頃、撃たれたのに気付いたかな」当庭。

 危なくて近づけない。

 暴れる巨大サソリ。

 祖の尻尾やハサミの当たった跡は。

 地面はえぐれ、ビルは壊され。

 高速道路、高架橋などは橋脚ごと

向かいのビルへ突き刺さった状態。

 「早くとどめをさせ」宿付。

 高速道路からこぼれた自動車が

付近に散乱している。

 警官たちが近付いて発砲を始めた。

 効果のほどは。

 怪物はブルブルと身を震わせたかと思うと

動かなくなった。

 「死んだかな」宿付。

 「まだ近づくな」

 「刑事さん。放射能が」隆二。

 隆二も手に持ったデジタルカメラで。

 シャッターを押し続けた。

 盛り上がったアスファルト。

 崩れたビル。

 もちろん怪物も。 

 既に死んでいる。

 ガイガーカウンターを持った月川も

気を取り直し

それを怪物へ向けている。

 その証拠に、あの特有の音が。

 隆二は目や口元を狙いシャッターを。

 望遠レンズのファインダーを

覗いている限りでは

目立った傷はない。

 会館たちも恐る恐る。近づく。

 「君。危険だから下がって」

 周囲の整理を始めた。

 「先生」大木のもとへ。

 「季崎君も。

 これは早く退散した方が」隆二。

 「ン!なぜ」

 「このままじゃ、事情聴取や何やらで。

 とにかくこれを」カメラを指した。

 「そうだね。

 ワゴンは」

 ワゴンは無事のようだが

-----ここからではよくわからない-----

あれではとても。

 壊れたパトカーやら何やらで

道がふさがっている。

 よくこの状況であのワゴンが。

 「無理か。とても」

 あのワゴンの中にはサソリの細胞が。

 「とにかくここを、さあ」

 隆二にせかされて大木はその場を。

 「星村さん。どちらへ」

 「季崎君は先生と。

 私はまだやる事が」

 そう言うとその場を立ち去ってしまった。

 



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