36
「幕僚殿」
連絡が。外から。
「何だ」
「ガドラです。
ガドラが現れました」
「何」
「どこだ」
ここから十キロとない。
堆沢はモニターの向こうで
スイッチ類を。
こちらの。
大木たちのいる部屋の
モニターが全て生き返った。
その一つにガドラの姿が。
「いた」堆沢。
陸峰たちも司令部に連絡。
戦車も何両か。
対戦車ヘリも。
このような時のため
空洞内へ運び込んである。
他の方面隊からの
応援部隊のモノだ。
「そこのモニターはレーザー砲の
照準に連動している」堆沢。
陸峰のもとにもドローンからの
映像が入ってきている。
偵察ヘリも飛んでいる。
「奴だ」
「東京を襲った。
ゾドスにやられた傷がある」
その傷ももう治りかけている。
「堆沢。
大丈夫か」大木。
「ああ。一発で仕留めてやる。
これで私の研究も。
この空洞もおしまいだ」
「砲はどこに」陸峰。
モニターからではわからない。
堆沢はスイッチ類を一心に。
モニターの一つの照準が。
照準用と思われる四角い点が
画面の中央に現れた。
「照準を合わせた。
コンピューターが追尾している。
他の恐竜たちはコンピューターに全て自動で
やらせたんだが。
こいつだけは私の手で」
画面に“レーザー発射OK”の文字。
「発射」
レーザーが。
妙な。
何とも表現しようのないような色の
軌跡を残してガドラへ。
レーザーはもちろん目には見えない。
しかし空気中のゴミやチリにあたって
その軌跡が見えることがある。
それが重力波ならば。
大気中の空気の分子にあたっても
光を発するのだろう。
「やった」陸峰。
「発射位置はあそこか」海川。
砲の位置を見逃さない。
これで完全な砲が。
完全な形で。
ガドラはもう。
巣にでも帰るつもりでいたところを
急に撃たれたのだろう。
正面から。
胸のあたりを直撃。
ガドラが低くうなった。
「そんな」堆沢。
重力波レーザーの当たった跡が。
皮膚が弾けて裂けただけ。
「風穴があくはずなのに」
ガドラは何が起こったのか
わからない。
ゾドスのような、
あるいは別の肉食恐竜に
攻撃されたと思ったのか
周囲を探るように。
空洞内ではよくあるらしい。
「もう一度だ」
レーザーが。
結果は同じ。
肉が弾け血がにじみ出す。
ガドラは。
今度は重力波レーザーの軌跡を
しっかりと認めた。
「奴は目がいい。
もう一度」堆沢。
慌てている。
ガドラの全身が。
生物レーザー。
砲のあるあたりを薙ぎ払う。
モニターの画面いっぱいに
ガドラの生物レーザーがひろがる。
モニターが消えた。
「やられた。
信じられん」堆沢。
「どういう事だ。堆沢。
ダメなのか」大木も心配顔。
「大木。貴様も見ただろう。
表の怪獣たちの死骸を。
一撃でガドラもそうなるはずなのに-----
わからん。
データーを。プログラムを。
重力波の波長の組み合わせを
間違えたかな。
もう一度チェックしてやってみる」
陸峰たちも気が気ではない。
「種類によって怪獣の細胞が。
重力波に対する防御機構も耐性も
少しづつ違う。
しかしそれでも。
それを間違えても
もっとダメージが。
確実に殺せなければならんのだ」
「出力不足という事は」海川。
「いや。確認した。
さっき。
二発目を撃つ時に。
これで良し。今度は」
別のモニターに
照準用の四角い点が。
「他にも砲が」
「ああ。もちろんだ。
残りは少ないがね。
ほとんどやられてしまったよ。
ご存知の通り」
モニターは別の角度からガドラを狙っている。
「照準。合わせた。
発射」
結果は同じ。
今度のガドラは
待ったりしなかった。
撃たれるやいなや。
そちらの方向へ。
生物レーザー。
画面が消える。
「またやられた」隆二。
「あいつ。頭のいい奴だ。
一度撃たれただけで-----もう。
しかしどういう事だ。
考えられん」
別のモニターに四角い照準マークが
現れた。
「まだあるのか」大木。
「ああ。
しかしあの位置を狙えるのは
これが最後だ」
「どうして効かないのか
わかりましたか」
「いや。砲の調子が悪いのかもしれん。
もう一度。
今度は連続発射する。
最大速度で。
一秒発射。二秒間欠。
砲が熱を持つのでな。
砲の冷却に二秒必要だ。
砲が強力だから
一瞬で貫通する。
あらかじめそれを見越して
コンピューターでコントロールしていた。
しかしガドラは貫通するはずが、せん。
発射時間を長く取った。
照準した。
発射」
重力波レーザーがガドラへ。
一秒間。
「ダメだ。貫通しない。
表面を貫いただけだ。
途中で止まっている」
何回目かの連続発射の後。
ガドラの生物レーザー。
破壊された。
ほとんどダメージを受けてはいない。
「-----」堆沢も声もない。
「考えられることは。
自衛隊の方。
ガドラにどういう攻撃を。
それでガドラの体質が。
防御機構が変化したとしか」
陸峰たちも急に振られて
詰まった。
「攻撃と言っても-----。
ミサイル攻撃、爆弾、大砲」
「それはテレビで見ていました。
そんなものでは。
他には」
「そうだ。
プルトニウムを、口の中へ。
飲ませました。
他にも青酸カリや酸などの毒物も。
それで」言いにくそうに空雲が。
「プルトニウム。
それに毒物、酸。
それだけですか」
「はい」空雲。
「放射性物質などは。
あいつ毎日食べている。
ここはそういうモノが多いので。
体内のエネルギー受け渡しにも
使っている。
ATP,ADPではなく-----。
アッ、イヤ。
そんなもので変わりはしない。
毒物も同じだ。
他には」
「他にと言われましても」内心ホッと。
「他には-----ありません」
陸峰が海川と顔を見合わせながら。
「しかしガドラの防御機構を
変化させ得るものは-----。
他に何が」堆沢。
「ここになくて-----外にあるモノ」大木。
「海底で別のモノを食べたとか」サキ。
「太陽-----光線」隆二。
その言葉に。
「太陽光線か。
それだな。
海の中や地上で何か食べると言っても
ここと変わらん。
とすると太陽か。
紫外線か。
いや。宇宙線かも知れん。
それを浴びて防御機構が
変化したのかもしれん。
ガドラのDNAにはもともと放射線を。
タンパク質や細胞を
破壊するようなモノを浴びた場合。
大量に浴びた場合に
それを防ぐような物質を
体表面や細胞内に造り出すような
機構がある。
そうなるようにDNAに組み込んだんだ。
ここは地下だから太陽光も宇宙線も届かん。
その中で育った第五周期生物をもとに
プログラムを組んだ重力波レーザーでは
効かんわけだ」
「何とかなりませんか」隆二。
「ゾドスの攻撃によっても。
生物レーザーの。
変化しているのでは」サキ。
「それは-----ないだろう。
奴はこの空洞内でも常に浴びている。
ゾドスはガドラの好物のようだ。
たいていはガドラが勝っていた。
しかし長時間浴びたとなると
わからんね。
調べてみないと。
まあ、ゾドスの生物レーザーの
波長もわかっている。
実験してガドラの防御機構が
どう変化したかを調べなければ」
「そんな暇は」
ガドラはゆっくりと歩いていく。
「どこへ行くんだ」陸峰。
「奴の群のところだろう」
堆沢はモニターの画面に
空洞全体の略図を出した。
「見てみたまえ。
ここが君たちが入って来たトンネル。
ここが今いるところ。
ここがガドラの現在位置。
そしてここが奴の群のいるところ」
「なるほど。真っ直ぐに」陸峰。
「ゾドスを仕留めたので
それを知らせにでも
戻って来たんだろう」堆沢。
「仲間がいたのか。
群で生活を」大木。
やはりという表情。
ハッと気づいた。
「それじゃあ堆沢。
もしかしてガドラの奴。
ゾドスの肉を仲間にも」
「先生。東京が」陸峰。
「ガドラが今度は群で上陸」海川。
「ゾドスの死骸は
まだあのままですから。
処理しようにも重すぎて動かせません。
動かせたとしても
放射性廃棄物の塊のようなモノですし
処分地もまだ決まっていません」陸峰。
「他の怪獣に横取りされる
心配はないのかな」多末。
「それは」大木。
「それは-----。
空洞内ではよくあるが-----。
たいていはガドラが追っ払っておしまいだ。
空洞の外へ-----。
東京にまで足を伸ばしたのは
初めてだろうし」
「そういう事か」
「それじゃあ-----
群で上陸という事は現実に」
「どうするか」
「ガドラの群の心配はいらない。
すべて処分した」
複雑な面持ち。
「そうか。そうでしたか」
陸峰にしろ
ガドラの群の死骸は見たわけではない。
「しかしガドラの奴」堆沢。
「何か」陸峰。
「何でもない。
奴の群の近くを狙える砲がある。
それを使って奴を」
「やれるのか」大木。
「わからん。
一度、重力波レーザーを撃ち込んで
ガドラの細胞の構造を。
反射してくる光のスペクトルを分析して
調べてみるつもりだ。
それをもとに重力波の波長の組み合わせを
変えてみる」
「それでわかるのか」
「完全ではないが
ある程度はな。
分析用の重力波レーザーがあれば
もっと正確にわかるんだが-----。
そんなものはない。
代用だ」
ガドラは群の方へ。
モニターには死んだガドラの群が
映っている。
堆沢の言う通り
他の第五周期の怪獣たちと同じように
風穴があいている。
やはりあのガドラは特別なのだ。
別のモニターにはガドラが。
「もう少しだ」
ガドラの位置は地図上に。
ガドラが足を止めた。
様子がおかしい。
「群の死体を見つけたな」大木。
「はい」隆二。
ガドラが足を速めた。
群のところへ。
「重力波分析装置をセットした。
レーザー砲照準」
二面のモニターに照準用の四角い点が。
「発射」
重力波レーザーがガドラを。
分析器にデーターが。
ガドラが怒りに燃えた眼で
モニター越しに隆二たちをにらんだ。
全身が。
生物レーザー。
モニターが消えた。
「やはりそうだ。
データーの結果が違う。
全く違っている」
「大丈夫か」
「今、コンピューターにかけている。
しかし-----理論と実際の結果は
常に一致するとは限らんしな」ニヤリ。
ガドラは-----。
怒りに燃えた眼で
周囲をグルリと見回した。
「レーザー砲で仲間が殺されたのが
わかったかな」陸峰。
「わからないわけがない」大木。
「じゃあ、どういう事に」陸峰。
ガドラの全身が。
生物レーザー。
周囲に向けて滅茶苦茶に。
砲のあったあたりの高さを薙ぐように。
空洞内で活動中の
自衛隊の一隊を見つけた。
それへ向けレーザーを。
一瞬にして消し飛ぶ。
ガドラはドローンを見つけた。
生物レーザー。
偵察ヘリもやられた。
陸峰のモニターが消える。
空洞の天井の一部が生物レーザーにより
バラバラと崩れ落ちる。
「堆沢。まだか」
「もう少しだ。
しかし大木。
逃げた方がいいぞ。そこから早く。
ガドラが本気で暴れれば
この空洞、もたん。
埋まってしまうかもしれん」
事実、ガドラは生物レーザーを吐きつつ。
隆二たちの入って来たトンネルの方へ。
師団司令部へそれを報告する。
撤退の準備を始めたようだ。
「先生も早く」隆二。
「いや。私は結果を見てから」大木。
「堆沢さん。まだですか」
「もう少しだ。
だまっててくれ」
「仕方ない。
対戦車ヘリに連絡。
ガドラの注意をひくように要請しよう」陸峰。
「待ってください。
そんな事をすれば天井が崩れて。
それこそ埋まってしまう」隆二。
「じゃあ、どうすれば」崎風。
十両ほどの戦車がガドラへ向かっているが。
あれではとても。
自走砲や重砲も丘の影から撃ち出した。
堆沢の作った無反動砲弾を
誰かが撃ったようだが
火花が散っただけ。
やはりガドラには。
「できた。これが最後の砲だ。
これでダメなら」堆沢。
モニターに例の四角いマークが。
「最後の一門か」海川。
「-----」大木たちも無言で見守る。
「発射」
レーザーの軌跡がガドラへ。
胸へ腹へ、顔面へ-----。
皮膚が溶け崩れる。
血が。
「やった」
「いや。ダメだ。
失敗だ」
連続発射されるレーザーの発射位置目がけ
ガドラが生物レーザー。
モニターがまた一つ消えた。
他のモニターに映るガドラの姿は。
「ゾドスにやられた時の傷くらいだ。
やはりこれではダメだ」堆沢。
陸峰は真っ青。
「他にもう砲は。
集中攻撃すれば」隆二。
「今ので最後だ。
空洞内には」
「空洞内?」大木。
「ああ。スペアはあるにはあるが。
ここにはない。
少なくとも奴を倒せるデカいのは-----。
それよりそこを早く出ろ。
そこも危ない」
気を取り直した陸峰たちと隆二たちは
外へ出た。




