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研究所までは二十キロ近くあった。
ヘリなら数分の距離だ。
慎重にヘリは降下していく。
もし舞い上がった木の葉などを
ローターで引っかけようものなら
たちまち破損してしまう。
事実そういう事故も報告されている。
いや、ヘリだけではない。
地上を走る装軌装甲車でも。
第五周期の草や木の枝によって
装軌部分にも転輪にも
破損が二度三度。
鋼鉄製の車体にも
引っ掻いたような傷がいたるところに。
ダイヤモンドよりもはるかに硬い
鋭利な刃物の上を走るようなモノだから
仕方がないが。
この事を予想して。
既にほかの隊がそのような目に
何度もあっていたせいもあり
スペアを用意していた。
そのため、どの隊も行動には
支障はなかった。
ヘリのローター(回転翼)も同様。
しかしこれではタイヤで動く
装輪車のパンクが続発するはずだ。
当初投入された化学防護車も
偵察警戒車、装輪装甲車も
タイヤのパンクのため
引き上げを余儀なくされ
今は装軌車両しか走っていない。
「ここです」
ヘリを降りた一行は
緩やかな坂道を。
見晴らしの良いところに
砲台を造ったため
高低差はどこも百メートル以上。
空洞の端。
垂直に切り立った壁までは
まだだいぶあるが
そこからは傾斜が急に大きくなっている。
砲台を設置するに当たり
あまり傾斜が急では
資材を運び込めなかったのか。
砲は壁から大分離れたところにある。
しかし傾斜が比較的緩やかとはいえ。
そこを窮屈な防護服とプロテクター、
重い空気ボンベを背負ってのぼるのだ。
大木もサキもバテ気味。
「これはひどいなあ」
砲が完全に破壊されている。
「これじゃあ。使える部品はないなあ」陸峰も。
完全に溶けている。
「入り口はどこだ」
「こちらです。
足元にお気を付け下さい。
下が溶けて危険です」
鉄製の小さなドアが
半分溶けて折れ曲がっている。
厚さは十センチはある。
自衛隊員がその溶けて固まって
開かなくなった扉を
なんとかこじ開けたらしい。
中には小さな放射能の洗浄室が。
しかしここも破壊されている。
他に小部屋が続く。
奥にテレビのモニターが十数台
置かれた部屋があった。
モニターは-----壊れてはいないようだが
何も映ってはいない。
「先生、あれ」隆二。
「監視カメラか」陸峰。
「生きてるんですかね、このカメラ」
向こうの研究所には
このようなモノはなかった。
「さあ」
見ただけではわからない。
ズームの部分も動いてはいない。
どこかで堆沢が見ているような気がして
仕方がないが。
そのままにしておいた。
内部の様子は。
陸峰たちがテレビのモニターのスイッチを
適当にいじってみるが
何も映らない。
「何のためのモノだ」大木。
「それにこの施設。
DNAの合成装置も電子顕微鏡もない」空雲。
「空洞内の監視所のようなモノですか」隆二。
「砲のコントロールルームか何かと
思ったんだが」
確かにその可能性はある。
「しかしこんな離れたところに」
隆二はスイッチ類をいじる陸峰たちを見ながら。
「例えば、怪獣が暴れ出した時の。
空洞内を探検中にでも。
その時の退避壕も兼ねた
サブコントロールか何か」海川。
「じゃあ、メインは」隆二。
「向こうの」
「向こう?
あの研究所にあったモニター」
「しかしこれじゃあ。
動かないのでは。
単なる推測ですから。
パスワードでも必要なのかな。
これも全部持って帰りましょう」
既に研究所内の資料も機材も
一部運び出しが始まっている。
すぐにでも専門家に見せて。
「研究資料はありませんか」
陸峰が大木に訊いた。
「見つかりませんねえ。
そちらの方はどうでした」
「え!ああ」
部下に。先に来ていた自衛官に確認する。
「なかったそうです」
ざっと探しただけらしい。
部屋もここまでで終わっている。
隠し扉のようなモノも
本棚もないようだ。
「砲のコントロールとすると
砲の操作マニュアルか何かが
あってもよさそうなものですが」隆二。
「そうだね。
もう一度よく探させてみるよ。
向こうの方の研究室も」
数名の自衛官が動き出した。
今度はクズカゴから何から。
向こうでも同じような光景が
展開しているだろう。
「しかし-----よくこんな設備を
どうやって造ったんですかね。
とても一人では」隆二。
「協力者がいる」宿付。
「それは」
「そうとしか考えられないか」
“マンガじゃあるまいし。
どこかの秘密結社の基地が。
どうやってあれだけの施設を造ったのか。
不思議でしようがなかったが。
まあそんな事にこだわっていては
仕方がないか”
「やはりないか」陸峰。
その時。
メインのテレビモニターが
急についた。
そこには堆沢の姿が。
ここにいる全員。
一斉にそちらの方を。
「大木。
それに自衛隊のみなさん」
堆沢はしゃべりだした。
「堆沢。どこにいる」宿付。
「捜しても無駄ですよ。
そこにはいない。
刑事さん?」
腕章を見て。
「そうだ。本庁の宿付警部だ。
どこにいる。
出てこい。
とても逃げ切れるものじゃあないぞ。
いずれは捕まる。
自首しろ。
そうすれば」
「大木には自首すると言ったが。
スマン。
捕まる気はない」
「この野郎」
宿付が掴み掛らんばかりに。
他の刑事がそれをおさえる。
「それで何の用だ」陸峰。
「あの監視カメラで
こちらの様子を見ているのか」海川。
「そうだ。
だから壊してもらっては困る。
少し話がしたくてな。
大木。
ビデオは持っているな」
隆二たちの持つスマフォを見て。
他にも自衛官やら警官やらが。
堆沢の映るモニターを狙っている。
「まず。空洞内は充分に
見てもらったと思う。
今回の件は私にとっても
非常に不本意な事件だった。
マサカ-----怪獣が外へ。
怪獣が外へ出ない処置もしてあったんだが
残念だ。
こうなってはもう。
それで-----怪獣たちを-----。
彼らには関係ないが-----。
かわいそうだが-----
処分した」
無念そうに。
「全部ですか」陸峰。
「いや、まだだ。
空洞内のは全て処分したが。
ガドラが一匹。
例の東京で暴れた奴が残っている」
「奴は今どこに」空雲。
「わかるのか」大木。
「いや、分からない。
しかし奴は必ずここに帰って来る。
その時に処分するつもりだ」
「じゃあ。砲は。
あの砲はまだ残っているんだな」陸峰。
「ほとんどが破壊されたがね。
何門かは。
あの砲は一種のレーザーのようなモノだよ。
重力波レーザー」
「重力波?-----レーザー」大木。
「重力波。
ですが堆沢先生。
重力波をレーザーにするなんてことは-----
出来るんですか」サキ。
「レーザーというのはもともと。
発生させた光を二枚の鏡で反射させて
位相と波長のそろった光を
取り出さなければ。
しかし重力波を反射させる鏡なんてものは
現在まだ開発されてはいないはず」隆二。
「造ったんだよ。私が。
レンズもね」
「-----」隆二もサキも大木も。
「ですが-----先生。
ガドラにしても他の第五周期生物にしても
耐性があるのでは」
「資料を読んだのかね」堆沢はさも嬉しそうに。
「そうか。
そうだよ。
自然に存在するであろう。
まあ存在するはずもないモノも含めて
耐性を持たせた。
完全な生物にするためにね。
そのため奴らには
宇宙空間の真空中においても
生きられるような機能も持たせてやった。
体液内に特殊な物質が混入されるように
DNAを改良してね。
真空中でも奴らの体温で
体液が沸騰する事がない。
沸騰をおさえるんだ。
もっとも真空くらいで
体内の圧力が下がる事はないが。
そんな事はどうでもいいか。
重力波だったな。
重力波に対して特に弱いというわけではないが。
奴らは。
しかし。
何種類もの波長の重力波を組み合わせて使う。
そうすれば奴のタンパク構造を
防御機構もろとも破壊できる」
「たいしたものだ」陸峰。
外の怪獣たちの死骸を思い浮かべていた。
「しかしその研究。
発表する場がないじゃないか。
このような立派な研究。
第五周期もそうだ。
ここは自首して-----
罪の償いを済ませて。
そうすれば。
公表でも何でも。
自首しろ」宿付が。
「私も馬鹿じゃない。
学会も相手には-----。
それの捕まりたくはない」
「大木先生。
何とか説得を」宿付。
大木。何と言っていいやら。
「大木。
貴様にはスマンと思っている。
しかし私には。
まだやり残したこともある」
「金星-----。ですか」隆二。
「金星。
そうだ」
「何だ。それは」宿付。
「金星を第五周期生物の楽園にする。
すでに金星には細菌を。
無機物質、元素から空気も水も。
もちろん第五周期の。
そういうモノを造り出せる」
「細菌。水や空気を」大木もア然。
「そう。地球上にいた水や空気を生み出す
細菌を改良した。
DNAレベルで」
「どうやって送り込んだんだ」
「無人の探査機で。
他にも送り込んだが-----」ニヤリ。
「複雑な軌道計算や
ロケットはどうしたんだ」陸峰。
「そんなモノ必要ない。
ロケットは-----」答えない。
「それでは次の段階は植物を」隆二。
ファイルを思い出しながら。
“本当かな”
「それから動物か。
ロケットをどこで」
再度聞いても堆沢は答えない。
打ち上げを邪魔されるとでも
思ったのか。
「一つ聞きたい」宿付。
「-----」堆沢。
「どうやってこれだけの設備を造ったんだ」
「設備。
ここの?」
たいした設備ではない。
「そうだ」
「いや-----これは-----。
妻の親せきに建設関係の者がいて-----
小さな会社だが。
そこに頼んだ」
リモコンの砲台が数十。
監視所が数か所。
その程度だ。
もちろん砲台は
コンクリートの土台だけ。
「怪獣がいる中でか」
「まさか-----。
怪獣をここで放し飼いにしだしたのは
ここ数年だよ。
それまでは-----。
それ以前に内緒で作ってもらったんだよ。
恐竜を復活させて飼うって言ったら
笑ってたよ。
全く-----。
私がその方面の研究をしている事を
知っているクセに-----
変人あつかいだ。
金持ちの道楽とでも思ったのかね。
だから彼らは何も知らないよ」
「まさか。
それにとても数年でとは」
「そうだ。
少なくとも数十年は経たなければ
このようには」
堆沢はニヤリ。
「いや。間違いなく数年だ。
植物にしろ生物にしろ
DNAをいじってね。
成長速度を早めてあるんだ」
全員ア然。




