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ガドラが浮上した。
サーチライトがその姿をくっきりと。
浅い東京湾内を歩いている。
ヘドロの中でも足を取られる様子はない。
ガドラはゆっくりと首を左右に振った。
その眼には横須賀から東京。
さらには千葉、木更津と
高層ビルが乱立する光景が
捉えられているに違いない。
ガドラはどちらへ進んだものか。
大きく咆哮した。
航空機のエンジン音。
「撃て!」
第一師団が攻撃を始めた。
自衛隊の地対艦誘導弾が。
ミサイルは内陸深くから発射され
地形に沿って山や谷を縫うように。
そして海上へ。
榴弾砲弾がガドラの周辺で炸裂しだした。
直撃するものも多数。
千葉方面、横浜方面。
さらには習志野方面からも攻撃が。
海中からは潜水艦が横須賀沖から魚雷を。
対潜水艦用の短魚雷に比べ
威力は大きい。
高速のスクリュー音を残しガドラへ。
百発近い対艦ミサイルがガドラに達した。
亜音速のミサイルが炸裂。
その爆煙にガドラは包まれた。
「無茶苦茶するなあ。
たかが怪獣一匹に」
高感度カメラによる映像が
スクリーン上に大写しになっている。
「あのミサイル。
一発二億だぞ」内局の金口が呆然とした表情で。
それほど数が多かった。
さらに潜水艦からの魚雷が
数百メートルにも及ぶ巨大な水柱を立てる。
空からは空対艦ミサイル、レーザー誘導爆弾。
「目を狙え」
「口の中だ」
指令室内に怒号が飛ぶ。
これほどの集中攻撃に耐えられるものが
あろうはずはない。
「そこまでしなくても。
もう死んでるんじゃあ-----」独り言のように。小声で。
そろばん初段の内局の係官金口の眼には
この光景がどのように映っているのだろうか。
総合演習以上の出費だ。
しかし攻撃は容赦なく。
ガドラは大きくよろけた。
自衛隊の攻撃に怒り狂い、
足をヘドロにでも取られたのだろう。
海中へ倒れ込んだ。
「やった!」
中央指令室がどよめいた。
首相官邸も。
射撃がやんだ。
しかし、それ以前に発射されたミサイルが
目標もなく。
「やっぱりやりすぎだな」
金口たちが沸き立つ制服組をよそに
片隅で。
テレビ局のヘリも遠くに見える。
「クレームがくるぞ。
財務省から。
テレビで見てるだろうな」
「来年の予算が」別の内局員が。
『たかが怪獣一匹倒すのに。
何を考えているんだ』
財務省の係官の表情が目に浮かぶ。
「大臣。上手く何とかしてくれるかな」
「-----」
「こっちでうまく-----」
「それしかないか」
城岡をジッと。タメ息が。
「怪獣のやろう。
もうちょっと粘ってくれていれば。
予算も取りやすいモノを。
あれじゃあ-----」
ミサイルは。
「もったいないなあ」
回収は不可能。
自爆させるしかない。
あのままではどこまで飛ぶか。
町にでも落ちれば。
また大騒ぎに。
海が光った。
今まさに過ぎ去ろうとした
行き場を失ったミサイルが
四五発まとめて爆発。
生物レーザーの光の帯が薙いだのだ。
ガドラが立ち上がった。
迫り来るミサイルへ向け
生物レーザーを。
自衛隊も攻撃を再開。
ガドラはミサイルの飛んでくる方向へ
生物レーザーを。
十数キロの距離をものともせず
遠くでビルが溶け崩れていく。
「焼夷弾を使う」空自からの連絡。
空から攻撃機が油脂焼夷弾を。
一瞬にしてガドラの周囲は高温の火の海に。
「今度こそは」
ありとあらゆる火力が集中。
「粘り過ぎだあの野郎。
早く倒れろ」片隅で金口が呆然と。
青ざめている。
予算云々を言う余裕もないようだ。
しかし炎の中からレーザー。
空を高速で飛ぶ攻撃機までもが
ガドラの餌食に。
一瞬にして蒸発。
爆発を繰り返す。
ガドラはさらに内湾へ。
東京湾のヘドロも苦にならないようだ。
東京へ向け。
「都内の避難状況は」首相。
「各部隊へ連絡。
ガドラを都心部へは入れるな。
別方向へ全力をもって誘導させろ」陸山。
ミサイルが今度は習志野、千葉
および市原方面から海上へ。
ガドラへ飛来し始めた。
もう一方は横須賀方面から。
つまり湾外から。
海上自衛隊だ。
地形照合機能を持つミサイルは
発射位置から大きく左右に、
海岸線に沿って内陸を
都市部を大きく迂回し
それから離れた地点から海上へ。
ガドラへと殺到し始めた。
ガドラは当然-----
攻撃に対し、向かって来るのなら-----
ミサイルの飛んでくる方向へ
向かうはずである。
しかしガドラはそびえたつ高層ビルに
目を奪われたのか東京へ。
「クソ!
あの野郎」城岡。
「仕方がない」
南岡陸幕長の命令で
中砲隊の展開する海岸へ誘導を。
「しかしよく中砲用の
徹甲弾なんてあったな」海自の幕僚が。
「そんなものないさ。
急いで作らせたんだ。
例のサソリの件でね」陸幕。
「大丈夫か」空幕。
「一応、試射では成功している」
ヘリ部隊が。
さらには攻撃機が。
ミサイルも加わる。
被害も大きい。
生物レーザーが薙ぐたびに。
ヘリが攻撃機が蒸発していく。
「もうちょっとだ」
155ミリ自走砲の砲列があのあたりに。
偵察ヘリからはその状況がよく見える。
距離が二三キロにまで近づいた。
ガドラは上空に気を取られている。
155ミリ自走榴弾砲の砲列が火を噴いた。
ガドラを直撃。
ガドラが振り向いた。
次の瞬間。全身が。
生物レーザーが自走砲の砲列を
薙ぎ払った。
「何ともないのか」司令部で誰かが。
城岡も陸山議長も声もない。
「こうなっては大臣。
あれを」南岡陸幕長が。
「長距離弾道ミサイルか」
「はい。あれしか」
長距離弾道ミサイルとは
弾頭に500ポンド(225Kg)爆弾を装備した
射程千数百キロの弾道ミサイルだ。
発射されると垂直に上昇。
成層圏を通り、そこで弾頭を分離。
数百キロの上空から
爆弾が垂直に目標へ。
赤外線イメージホーミングのため
命中率は百発百中。
戦艦や空母のぶ厚い鋼板を撃ち抜き
内部で炸裂。
一発で撃沈する能力を持つ最新兵器だ。
もちろん非核専用だ。
城岡は。
「仕方ないか」
モニター越しの首相を。
「よし」
数分後。
データー入力を終えたミサイルが
移動式の発射台からガドラへ向け。
成層圏で弾頭を分離。
500ポンド爆弾を収めた頭部は
ガドラの頭上へ次々と。
命中。炸裂。
頭を直撃だった。
しかし。
ガドラは何事もなかったかのよう。
「そんな」
「あの高さから墜ちて来る爆弾を受けて
何ともないのか」
配備を始めてまだ間がないため
そう数はない。
ガドラはゆっくりと湾岸へ。
「江東区か」陸山議長。
その時。
「海幕長」海自の幕僚海川が中海へ。
「もう一匹が。
いえ、もう一頭が-----」
「何だ」要を得ない報告に怒号が飛ぶ。
「はい。対潜哨戒機より報告。
もう一頭の怪獣が犬吠埼の沖二十カイリ付近より
北へ転進。
さらに西へ進路を変えたとの事です」
「何!」城岡も。
「それで今どこに」
パネルが切り替わった。
「上陸は必至か」陸山。
「どうする」城岡大臣。
陸山議長は陸海空の各幕僚長たちを見た。
「陸自は-----千葉方面に展開中の部隊を-----
成田経由で-----」陸峰が陸幕長に促されて。
「しかし君。
集中という面ではガドラへ向かわせた方が」陸山。
「もちろん-----そうでありますが」
「もう一頭は放っておけというのかね」城岡。
「ガドラと隔離するという意味でも
攻撃を掛けた方が良いのですが。
そうすれば-----サソリの時のように-----
双方共に窒息-----」陸山。思い直し。
“それはあるか”
「それのガドラは都内に。
もうそう派手な攻撃は」城岡。
“仕方ないか。
千葉の部隊をもう一頭へ向けても。
ガドラはこちらの部隊だけで”




