02
東京
大都会の雑踏の中。
都心を離れる終電車。
そこかしこの席に
酔っ払いがだらしなく
転げるように腰を下ろしている。
いつもの光景だ。
牧村由紀は某大手出版社に勤める編集者。
毎日のことながら残業を終えての遅い帰宅。
「まったく人使いの荒い会社なんだから」
独り言のように言葉が口元をついて出た途端
電車の扉が開き
彼女は駅のホームを足早に歩きだした。
改札を抜けるとそこは闇の中。
人通りもない。
工場の高い塀が左右を遮る道が続く。
由紀は一人家路へ。
少し行くと人家が。
由紀はホッと一息ついた。
いつもここを通る時は。
最近、この町の周囲で
奇妙な殺人事件が続いている事もあって
やはり一人歩きは
気丈な由紀にとっても怖い。
そのためバックの中に携帯用の警報器を
忍ばせているくらいだ。
由紀は安心したかのようにゆっくりと。
満月がきれいだった。
深夜も一時の近いため
明りのともる民家もまばら。
高速道路の高架に沿って歩くのも。
“エッ”
由紀はその暗闇の中。
目を疑った。
“ウソ!”
アスファルトで舗装された地面が
大きく割れて盛り上がっているのだ。
「水道管でも破裂したかな」
恐る恐る近づいてみる。
自宅に帰るためには
どうしてもここを通らなければならない。
回り道しても良いが
また人通りのない暗い道を行くのも嫌だった。
大きな穴が開いている。
道の真ん中に。
しかし-----水はない。
由紀は大きく回り込むように向こう側へ。
その途中
穴の中を覗き込むのも忘れない。
底は深そうだ。
よく見えない。
“やっぱり、水道管じゃなさそうだ。
じゃあ、何?”
急に寒気が全身を襲った。
思わず駆け出す。
その目の前で何かが動いた。
巨大な影。
「キャーーー」
それが由紀の最後の声だった。