13
「来たか」
「堆沢」大木。
門をくぐると中へ通された。
堆沢自身がサキを進む。
「堆沢」
「言いたいことは分かっている。
ニュースで見たよ。
怪獣が現れたって」
「ああ。
君の部屋で彼らが見たのと
同じ奴だった」
そういって例の写真を。
スマフォの画面を。
「そうか。シラを切っても無駄だな。
いいだろう」
観念したように。
「こっちへ来てくれ。
全て話そう。
好きに撮ってくれていい」
隆二たちの持っていた
スマフォを目に留め。
隆二たちは奥へ。
さらに奥へと案内された。
エレベーターで地下へ。
そこは研究室だった。
コンピューターが数台。
そして巨大な電子顕微鏡。
「あれは」大木。
「分子合成装置。
あれで第五周期成分のDNAを
数十種類の元素を、
いや原子をもとに合成している」
数十本の鉄製のパイプが
円筒状のモノに吸い込まれるように。
その中には。
「これが」大木。
「ああそうだ」
「しかし。これは我々のモノとは。
アデニン、チミンなどを
順次合成していくものとは」
根本的に。
全く違っていた。
「どうなっているんだ」
「いや。お前たちのやっているような。
アデニンやチミンか。
あれを順番に混合していくような事は
していない。
これはDNAを原子レベルでとらえて
原子一つ一つを順番に合成していくものだ。
このパイプは質量分析装置になっている。
その向こうのパイプ一本一本の先に
第五周期元素をはじめ
数十種類の原子が一種類づつ入っている。
それをプラズマ化し
そこから原子を一個づつ飛ばして
中央の円筒に送る。
そしてそこで
この原子とこの原子の結合には
このガンマー線というように
原子の種類ごとに
違った波長の組み合わせのガンマー線を
照射して原子同士を結合させる。
結合順序のデーターは
コンピューターから。
電子顕微鏡を通して得た
DNAの原子配列のデーターをもとにだ」
「原子配列?」
「そう。原子配列だ」
「アデニン、チミンからじゃなく。
原子から造っていくわけか」
大木にしろ、隆二にしろ感心するばかり。
化学というよりは半導体技術に近い。
「そうしなければDNAは造れないんだ。
アデニン、チミンをあんな方法で
いくら混ぜても何にもならん」堆沢。
パソコンに映る画面を見ても
原子配列が次々と。
別のモニターには電子顕微鏡の映像も鮮明に。
「原子の種類までわかるのか。
この顕微鏡」
「ああ」
「これは?」大木。
「アミノ酸の合成装置。
それはブドウ糖。
水は簡単だ。
それは-----」
次々と。
「どうしてこんなものまで」隆二。
「卵を造る必要があったんだ。
その中身を。
いちいち分子合成していたのでは
話にならんのでね」
「それでどうやって」
堆沢は得意になって。
「植物のデンプンやアミノ酸の合成過程、
草食動物の胃の中などにいる微生物を
ヒントにね。
細菌なども含めて。
DNA研究の成果だよ。
そこから酵素を取り出してやっている。
酵素と言ってもDNAに近いがね。
自己増殖する分。
こと第五周期に関しては
第二周期のように自然界に有機物は存在せん。
無機物から全て造らなければならん。
細菌や微生物、植物の機能を
うまく組み合わせてね」
「じゃあ。植物もつくったのか」
「もちろんだ。
最初、私は簡単に考えていたんだ。
恐竜のDNAを第五周期に変えることなど。
第三、第四周期でもよかったんだが
どうせやるなら第五周期だと思ってね。
第六周期はその下がないので
最初手を付けるのは
少し無理がある。
新しく造らねばならん。
原子をね。
しかし今では陽子、中性子ではなく-----
超重核子というか-----。
まあいいか。
とにかく。
顕微鏡ができ、分子合成装置ができた。
それでいざ生物を造るとなると-----
困った。
ある事に気が付いた。
生まれて来る生物に
何を食べさせるのか。
それどころか生まれさせること自体
不可能だった。
最初は。
今は解決したが。
そこでふりだしに戻って
植物のDNAの合成からはじめた。
光合成や細菌についても同様に」
「ふー。恐れ入ったよ」大木。
隆二たちも。
「それで先生。
呼吸は」サキ。
サソリの件が頭にあったらしい。
「そうだ。
どうやって」
「それは簡単だったよ。
もう気づいているようだが。
空気中には第五周期生物が
呼吸で切り酸素はない。
そのままでは地球の大気中では
生きてはいけない。
そこで植物の高剛性機構の一部や
他にもいろいろ取り入れてね。
細胞内に。
食物として体内に吸収できるようにした。
肺を使わずにね。
ADP、ATP反応を酸素ではなく
別の酸化物を使ってやっているわけだ。
食物由来のね。
それをDNAに組み込んだわけだ」
“まあサソリの場合は初歩の段階だ。
このADP、ATP反応。
ウランやプルトニウム、核融合は
まだ使ってはいない。
あくまでも化学反応の範囲だ。
まあいいか”
「それで」
「餓えイコール窒息死か」隆二。
「レーザーも」
「あれか。もうわかるだろう。
しかし、今はもっとすごい事を。
重力推進を。
他にもキメラ種とか」
「重力推進?」
「まさか」
冗談か。聞き流してしまった。
「まあいい」
他に興味を惹くモノが多すぎた。
一通り研究室を見終えた後
エレベーターへ。
スマフォは持ったまま。
録画している。
「それでサソリはどこです」
エレベーターに乗り込む。
さらに地下の階のボタンを。
「まだ下が」
「そこで」
堆沢は何も答えず。
エレベーターが止まった。
扉が。
そこはガランとしていた。
「断っておくが
これから行くところは命がけだ。
それを承知ならばいいが」
大木も隆二もサキもうなずいた。
「いいだろう」
あの巨大サソリがいるところだ。
危険には違いない。
それにあの怪獣も。
「そこにはあの怪獣もいるんですか」
「ああ、あの怪獣ね。
私はあれに“ガドラ”と名をつけた。
最初、バイオとか第五周期とか-----
その頭文字を使ってと考えたんだが-----
いいのが思いつかなくてな。
単に思いつきでつけただけだ」
大木もクスリ。
そこを抜けるとロッカーが。
「これは」
「放射線用の防護服だ。
着てくれ」
そう言って何着かを取り出した。
「女性か。女性は向こうででも」
サキへ。
「先生。他にも誰かここへは」隆二。
「何故」着替えながら。
「こんなにたくさんの防護服」
「これは消耗品だよ。
普通より使い方が荒いのでね」
手にはガイガーカウンター。
空気ボンベは台車に何本か。
有毒ガスも発生しているらしい。
第五周期生物や植物の
呼吸や排泄によるものだ。
着替えを終えた四人はその部屋を。
分厚い鉄製のドアを開けた。
スイッチを入れる。
明かりがともる。
そこには線路が。
洞窟の中を延々と続いていた。
巨大だ。奥も深い。
隆二もサキもスマフォを持ったまま。
四人は軌道車へ乗り込んだ。
「これも君が」
「まさか。知り合いの業者に頼んでね。
こんなもの許可が下りないから
内緒でね。
核シェルターを造ると言ったら
後は何も聞かなかったよ」
「どこまで行くんですか」
それには答えず奥へ。
何キロ来たであろうか、トンネルを。
急に前が開けたかと思うと
道は二股に。
軌道車は右へ。
左も奥が深そうなトンネルが。
「向こうは」大木。
「ああ、あれ。
電源があるんだ。
地熱を使った。
小さな奴だよ」
とてもそれだけには思えない。
感というモノか。
しかし軌道車は目的地へ。
終点へ。
「ここだ」
四人は降り立った。
ドアが開く。
テレビのモニターが十数台。
小さな部屋だ。
何か映っている。
「これは」
大木も他の二人も
今さらながらに-----驚いた。
巨大な植物が。
そして恐竜たち。
「本物かね」
「まさか-----トリックじゃ」信じられない。
堆沢は。
「この向こうにいる。
中には放射能が充満している。
有毒ガスも。
そこの扉を入れば
この防護服を着ていても
三十分しかもたない。
ボンベの空気にも限りがある。
それに危険も」
三人の顔を。
三人の気持ちは変わらない。
「いいだろう。
スマフォの用意はいいね」
「はい」
「奥までは入れないからね。
テレビカメラは何か所かにはあるんだが。
それも十数台ほどだ。
それ以上は設置したくても
危なくてね」
隆二はテレビのモニターをスマフォに。
「堆沢さん。
この溶岩の噴出したような跡は
何ですか」
「いや、この辺りは火山帯でね。
それがたまたま。
今はおさまっている。
噴出したと言ってもホンの少しだよ」
四人は重い小さな二重の扉を抜けた。
小さなトンネルが。
「この向こうはもう奴らの世界だ」
眼の前が開けた。
明るい。
上を見上げる。
天井は高い。
何キロもありそうだ。
空洞内は。
草原があり樹林も。
とにかく広い。
丘が連なるように。
その先は見えない。
振り返ると
そこは緩やかに傾斜しながら上へ。
急に巨大な壁が垂直に。
さらにその壁は
覆いかぶさるように空へと消えていく。
「明かりはどうやって」
「植物に発光作用を持つものがある。
それのコケにも」
「それもご自分で」
「そうだ。
他に誰も造ってくれんからね。
いいかね。
離れたらおしまいだよ。
これを見たまえ」
ガイガーカウンターの針が。
「私もここへはあまり来ない事にしている。
被ばくが怖いからな」
そこはうっそうと茂る草や木のジャングル。
開けたところもある。
隆二たちは防護服の上に
さらにプラスチックのようなモノでできた
軽いプロテクターを着けている。
堆沢のよると植物の葉が
当たった時のためらしい。
中にはダイヤモンドカッターよりも
よく切れるモノもあるとの事。
防護服が破れればお仕舞だ。
それに人間の腕や足くらい
簡単に落ちてしまうらしい。
「あれは」サキ。
「草食恐竜だ」
隆二のスマフォを持つ手が震えている。
「あれはイグノス。
私はそう呼んでいる」
「草食恐竜まで」
「もちろんだ。
肉食恐竜のエサだよ。
しかし-----最初はそう考えて造ったんだが-----
可愛くてな。
情が移ってしまって」
堆沢は肩にかけたケースからピストルを。
38口径の自動拳銃だ。
「護身用だよ。
君。これを持ってくれ」
サキにガイガーカウンターを。
自分は右手に拳銃を。
「先生。そんなものじゃあ」隆二。
あのサソリの事は。
思い出してだけでも。
「心配せんでいい。
こいつの弾丸は特別製でな。
女性の護身用の何と言ったかな。
あれと同じで命中した途端
高圧電流を発する。
大型のには効かんが-----小さいのは」
そしてケースからもう一丁取出し隆二に。
「君も持っておけ。
撃ち方は、安全装置を外す。
そしてここをスライドさせる」
引き金を引いた。
周囲に銃声がこだました。
「やってみろ」
隆二もモデルガンは持ってはいるが。
本物は。
撃った。
堆沢も満足げ。
「行くぞ」
隆二は堆沢に手渡された
換えのマガジンをポケットに。
銃を同じく渡されたホルスターに。
「わずか二十年ほどで。
ここまでできるとは信じられん」
大木は周囲を見渡しながら。
「それには秘密がある」
堆沢はさも嬉しそうに。
「秘密?」隆二。
「ああ。君たちはもちろん
細胞周期というモノを知っているね」
「はい。細胞分裂から
次の細胞分裂までの期間ですか」サキ。
「そうだ。
普通ヒトでは二十時間ほどかね」
「まさか」
「そう。その期間を成長段階で
数十分の一に短縮してある」
大木も声もない。
「じゃあ、寿命は」サキ。
「その心配はない」堆沢はそう答えたのみ。
「どこへ行く気だ」大木。
「この先に水飲み場を望める高台がある」
時計を見ながら。
「早くいかんとな」
隆二たちは高台へ。
というよりその向こうは窪地になっていた。
沼?がある。
5~6種類の恐竜?
いや怪獣が。
「皆、草食ばかりか」堆沢は不満そう。
巨大な岩の間に身を潜めて
彼らはジッと見守っていた。
「先生。ここはどのくらいの広さがあるんですか」
地平線が見えない。
遠くはもやに。
空は岩がはるか高みに。
「さあ-----私も良くは分からん。
巨大な岩盤が二枚重なって
その隙間がここというわけだ。
ここなら奴らも抜け出せん。
逃げ出したところで
すぐに死んでしまう。
そう考えておったんだが」
「いったいどこから」
「堆沢。貴様、何匹。
いや何種類の恐竜を造ったんだ」大木。
完全に圧倒されている。
「よくわからん」
「エッ?」
「主だった奴は分かるが。
何しろ恐竜の種類というのは
造ってできてみなければわからんのでな。
DNAの原子配列を調べればわかるが
面倒なんでな。
DNAから姿、形を決定する因子を抜き出して、
このDNAからどのような恐竜ができるかを
コンピューターでシュミレーションしなければならん。
それには時間がかかりすぎる。
それで手当たり次第に。
一度調べた同じ種類ならば
原子配列を比較するだけで時間もかからん。
すぐにわかるが。
重複するのは避けたいのでね。
個体差に関わる部分だけを調べればいい。
そしてその中から強そうな奴を選んで」
「手当たり次第か」大木。
「強そうな奴?」隆二。
「生物レーザーや他にもね。
DNAにそのような機能を組み込んだんだ」
「手当たり次第でも-----仕方ないか」大木。
「え?ああ。
どれがどれだか。
全てコンピューターまかせだったからな」
「じゃあ、コンピューターのデーターを調べれば」
「種類だけは出るよ」
「先生。あれ!」サキが沼の方を指差した。
全員、そちらの方を。
「何?」
「あそこの茂みの陰。
肉食獣じゃあ」
隆二たちは目を凝らした。
「確かに」
「ティラノサウルスだ」堆沢が。
本物のティラノサウルスを見たのは
三人とも初めて。
「あれが-----」大木。
「ティラノサウルス」隆二もサキも。
「ステゴサウルスを狙っている」
ティラノサウルスは明らかに
水辺のステゴサウルスの群を。
身を低くして、ゆっくりと近づいていく。
「先生あそこにも」隆二が目ざとく、
別のティラノサウルスを見つけた。
「しかし変だな。
他のティラノサウルスとは違う」
「そうだね」大木。
それには堆沢が。
「あれはティランだ。
生物レーザーを持った」
ステゴサウルスの群が肉食獣に気付いた。
パニックを起こしたように
一斉に別方向に逃げ出した。
ティラノサウルスがそれを追う。
ティランが生物レーザーを撃った。
一頭のステゴサウルスの背中を直撃する。
背中の骨盤が吹き飛ぶ。
ステゴサウルスは構わず逃げる。
背中や足から流れる血が痛々しい。
隠れていた別のティラノサウルスが
そのステゴサウルスへおどりかかった。
相手を押し倒すように口を大きく開き
その首のあたりに喰らいついた。
ステゴサウルスは悲しそうな悲鳴を上げた。
しかしどうしようもない。
尻尾を振るが-----届かない。
一匹のステゴンが-----
生物レーザーを持ったステゴサウルスだ-----
仲間を助けようとしてティラノサウルスの群に
生物レーザーを浴びせるが
逆にティランに生物レーザーを。
逃げ出した。
後は他のティラノサウルスが駆けつけ、
その内臓を。
生きたままむさぼり始めた。
「ひどい」サキが。
「あれが自然のおきてだよ」
堆沢も大きくため息をついた。
「ティラノサウルスは群で狩りを」
「見ての通りだよ」
「しかし-----ティラノサウルスの群の中に-----
生物レーザーを持ったティランが
なぜ紛れ込んでいるんだ」大木。
「それは-----同じ仲間だと思っているんだろう。
DNAも少し違うだけだ。
両者の間で子孫もできる。
どちらが優性かはわからんがね。
生まれてきた子供は
生物レーザーを持っているかどうか
という意味だ。
優性、劣性に関する研究は
この連中を造った時には。
調べてみなければ。
やる事がまた一つ増えたか」
隆二たちは-----。
「ン!」時計を見て。
「時間だ。帰ろう」
「もう少し」隆二。
「空気ボンベの酸素の事もある」
渋々隆二たちは。
帰り道。
ガサ!
防護服につけられた外部マイクに。
「先生」
「ああ」大木。
ピストルを握る。
安全装置を外した。
弾丸を送り込む。
突然あの巨大サソリが道を塞いだ。
キャー。サキが。
堆沢は落ち着いて拳銃を。
効果は劇的だった。
飛び上がって暴れ出した。
「何をしている。撃て」
隆二も撃った。
サソリは逃げ出した。
「走るぞ」
堆沢は入口へ。
あと二百メートルほどか。
後ろからは別の奴が。
見る見る距離を詰めて来る。
「この辺りは奴らのすみかだ。
しかしこんな事は珍しい」
何匹もがこちらへ。
「撃て」走りながらでは。
しかし命中するたびに。
ようやく出口が。
いや入口が。
隆二は大木とサキをかばいながら。
あと少しだ。
堆沢も遅れて。
拳銃の弾倉を入れ替えている。
「どういう事だ」
「わからん。
サソリはおとなしい時期と
狂暴になる時期がある。
それだろう」
執拗に食いついてきた二匹に
さらに弾丸を見舞った。
もんどりうって逃げ去る。
隆二たちはすでに穴の入り口に。
「先生。もう少し」サキ。
サソリが。ハサミが堆沢に伸びる。
隆二が撃った。
サソリが弾き飛ばされる。
「ありがとう」堆沢が礼を。
「行くぞ。もう時間が。
穴の奥へ。
扉が。
分厚い鉄製の扉が閉まった時には
本当にホッとした。
軌道車に乗る。
堆沢邸の地下へ。
身体の洗浄を済ませる。
スマフォは放射能でもう使えなかった。
SDカードをアダプターを使い
コンピューターに。
そのデーターを別のSDカードに移す。
三人分だ。
大木は。
「素晴らしい研究成果だ」
「ありがとう」
「これを発表すれば」
「しかし-----例のサソリが」
「警察へ行こう。
私が付き添ってやる」
「-----」
「先生。このデーター。
公表してもいいですか」隆二。
「そのつもりだ。
それで見せた」
何か思い悩んでいる。
「少し考えさせてくれ」
「そうか」
警察に捕まるとなると。
大木もそれ以上は。
「ですが、これを公表すれば
先生の事が」
「わかっている。
警察に捕まる前に
何とかそれを公表してほしい」
「そうすれば自首するね」
「ああ」堆沢は言った。
「インターネットにアップする手も」サキ。
「それは-----」堆沢。
「とにかく頼む」
三人は堆沢邸を後にした。




