第7話:お嬢様と敗北
どもどもべべでございます!
これにて一敗目は完結。お次は二敗目でございます。
お嬢様の活躍に期待!ですな
「さぁ! 観念して捕まることですわね、ジョン!」
盛大にフラグの運命を確立した事など知る余地もない我らがお嬢様は、獲物を狙う猛禽類の瞳をしながら構える。
世はまさにカバディの時代。どこにも逃がさぬと言わんばかりのその構え、そのスタイルからは微塵の隙も感じさせない。
「ま、待てってベネエッタ。落ち着けよ? ここで暴れたらどうなるかわかってんのか?」
「今更命乞いですの?美しくありませんわね! もはや勝ちの目はないのです。おとなしくなさいな!」
※負けます。
「いや、だから、あぁもう! まさか本当に気づいてないのか!?」
「お黙りなさい! ワタクシの力の前に跪くがよろしいですわ!」
※負けます。
「おい馬鹿やめろ!? ここで暴れたら――――」
「問答無用ですわぁ!」
なんかジョンが言いたそうにしているのだが、お嬢様は気にしない。
ノリノリで怪鳥音なんぞ発しながら踏み込み、一気に距離を詰めにかかる。
距離を詰めるのに何よりも必要なのは、体重を乗せた強い踏み込みだ。
ベネエッタの身体能力はこれまた高く、体幹を鍛えているため姿勢がブレる事はない。一種の震脚のように、その踏み出しで数mの距離を詰める事も可能なのである。
そう、踏み込んだ。
踏み込んでしまったのだ。
バキンっ
「はら?」
ベネエッタが想定していた、理想的かつ圧倒的スケールの縮地法。
その記念すべき第一歩は、軽く高い音と共に足元に吸収される。
そして……
「あひゃぁぁあああ!?」
ドボーン!というテンプレかつコミカルな擬音と共に、お嬢様の姿はその場から掻き消えた。
彼女がどこに消えたのか……それはまぁ、足元を見てくれればわかることだろう。
「さ、しゃ、しゃむいさむい冷たいですわぁぁぁぁ!?」
そう、彼女は、『水の中』にその体を沈めていた。
「あ~ぁ、まさか本当にやらかすとは……ベネエッタよぉ、気づいてなかったのか」
ジョンは完全に呆れ一色の顔で、『氷の板』に手をかけるベネエッタを見つめる。
最高級の防寒素材を用いた魔法道具も、天辺からつま先まで水が侵入しては意味をなさないらしい。
否、瞬間的な寒中水泳を試みて、心臓発作を起こさなかっただけ、まだ効果があったと言うことなのだろうか。
「ここよぉ、村の離れにある、『池の上』だったんだぜ?」
「は、は、は…………はぇぇぇぇ~!?」
村の外れの、開けた空間。
一面平らな雪景色。木々も無く、伏兵など仕掛けられない見通しの良い場所。
そんな場所は多々あれど、よもや凍った池の上を選択して追い込むとは。
ベネエッタの不運、恐るべし。
「じょ、じょ、ジョンんん! 何をしていますの、引き上げなさい~!?」
「ん~……」
「は、早くぅ!? かじぇを引いてしまいますわぁ~!」
「じゃあ、今回の俺達の悪戯、お咎めなしってことにしてくれるか?」
「ふぇぁ!?」
ニパッと笑うジョン。少年特有の愛らしさはあれど、現状を見れば悪魔にしか見えない。
極寒の水に沈む女性に取引を持ちかけるとか、将来有望過ぎる面の皮だ。
「いやなら良いぜ~。自分で出るんだな?」
「うくぅ、ん~! ン~!」
「……ノノ豆のあったかスープもつけるが、それでどうだ?ん?」
そしてトドメの、示談金。
史上類を見ない極上の調味料、『温もり』を賄賂として提供してきやがった。
この瞬間ベネエッタの脳内は、冷え切ってろくに動かない体を温めるスープでいっぱいになったことだろう。
「わ、わ、わかりましたわぁぁぁあ! 此度の件は不問! 不問といたします! ですから引き上げてぇぇ! ワタクシにスープをぉぉぉぉお!?」
「毎度あり~♪」
…………さて、ベネエッタの特性、読者諸君はご覧になっただろうか。
これが彼女。これが今作の主人公である。
ハイスペックで心優しく、怒ると怖くてどこか抜けてる完璧主義者。
そして、フラグの神様にこよなく愛された敗北人生の一端が、此度の結果に繋がった。
しかして彼女の発想、彼女の叡智は、この世界に革新をもたらすには充分である。
……彼女以上の知識の持ち主でも現れない限りは、だが。
そう、次の物語は、そんな彼女の唯一無二のライバルが誕生するお話。
ほんのり甘く、けっこうビターな恋物語に乗せてお送りしよう。
という訳で、今回は。
村人vsお嬢様。
敗北!!