第6話:お嬢様とフラグ
どもどもべべでございます!
今回はお嬢様がフラグを立てた時の見分け方をご紹介!
お楽しみあれー
それから先は、まさにベネエッタの天下であった。
彼女は、大人げないまでに自分の持つスキルを発揮していったのである。
「お母様、トルノならきっとあそこにいますわ! ワタクシがおびき出しますので、挟み撃ちをお願いいたします!」
「おぉ、そうかい? それじゃあお言葉に甘えようかねぇ」
時には人の懐に笑顔で入り込み、協力関係を築きあげ相手を陥れる策略家として。
「ふふふ……逃げていいのかしら? これは、風邪気味の貴方の妹の為に特別に処方させた飲み薬なのですが……い~ら~な~い~んですの~?」
「く、くぅぅ……!? この鬼めぇ!」
(既に親御さんに同じものを渡しているのですが、気付かないものですのね)
時には、相手の弱みにつけ込む悪役令嬢として。
これにより、計4人の若者はあえなくお縄となってしまったのであった。
残す所は、あと2人……
◆ ◆ ◆
「ふふふ……追い詰めましてよ、ジョン!」
「チッ……!」
そしていよいよ大詰めである。
開けた雪景色。隠れられる場所はどこにもない。
そんな美しい光景の中、ベネエッタの眼の前には悪ガキズのリーダー格、ジョンの姿があった。
何を隠そう此度の騒動の実行犯であり、幾度となくベネエッタにちょっかいをかける常習犯である。
そこには相手を憎からず思うが故の強がりによる犯行が含まれているのだが、まぁそこんとこは若気の至りというやつだ。
とにも角煮も佃煮も、今ここに最終局面の図式が成ったという点に変わりはない。
「ふふふ、ジョン。おとなしく投降なさい? 今なら貴方も他の子たちと同じ罰で済ませてあげますわ!」
「ハッ、冗談言いなさんなよベネエッタ。あいつら捕まえた程度で俺に勝ったつもりかい?」
冬も真っ盛りだと言うのに冷や汗流して挑発するジョンに対して、ベネエッタは余裕そのものである。
防寒対策は万全な上に、今は仮称ホッカイロをニギニギして暖すら取っている程の見下しっぷりだ。
「ふふふ、貴方の常套手段である伏兵も、この開けた空間では使えないでしょう? 強がりはおよしなさいな」
「…………」
さぁ、ここだ。
ここが、お嬢様にとっての分かれ道。
この時の行動一つで、彼女の未来は大きくそれる。
それはまさに、彼女の生来持つ悪癖であり、運命に見初められた者特有の必然。
すなわち……
「ワタクシが何も考えずに貴方を追いかけていたと思って? ふふふ、甘いですわ! カシオレの実よりも甘い! 貴方の用いる手段をことごとく潰すべく、ワタクシは策を用いて貴方をここにおびき寄せたのですわ!」
フラグ建設、である。
「既に貴方の仲間の内、1人は買収済みですわ! それにより、貴方が伏兵を忍ばせていたのは西の外れの丘だというのはわかっていましてよ! つまり、ここにはなんの仕掛けもない! フフフ、こんなに開けた空間ですものね! 当然ですわ!」
さて、ここで読者諸君に紹介したい存在がいる。
それは、ベネエッタの物語を読み進めていく際に一つの目印となる者である。
「つまり! ワタクシの策略にハマった貴方が逆転できる可能性は、ゼロ!! えぇ、えぇ、ゼロなのですわ! オォーーー―ッホッホッホ!!」
全力で高笑いを決め込むベネエッタの右斜下。
画面端のスペースに、スッと入り込んでくる何者か。
それは、手乗りサイズの少女達であった。
2頭身にデフォルメされた、とても可愛らしい見た目をしている。
一人は、青い服にリボンを結んだ金髪の女の子。車椅子に座っており、手には旗が握られていた。
もう一人は、いかにもアルプスっぽいところに居そうな服装の黒髪ショートの女の子。リボンの子の車椅子を押して、ここまでやって来たようである。
なんというか、けっこう知っている人がいそうな感じの危ない見た目をしている気がするだろうが、この作品に登場する人物は実在する人物や作品とはなんら関係ないことをここに明記しておこう。
さて、そんなアルプスな少女たちは、高笑いをするベネエッタを見て嬉しそうに目を輝かせている。
いい加減咽るぞとでも突っ込みたくなるような笑いっぷりが心地良いのか、瞳を細めて聞き入っているのがわかるだろう。
やがて、リボンの少女がプルプルと震えだし……
「っ!」
立ち上がる。
そして、パタパタと旗を振り始めたではないか。
「立った!」
アルプスな女の子もまた、目をキラキラさせて声を上げる。
その声は、ベネエッタやジョンには聞こえていない。
「立った!」
そう、彼女達は、この世界の住人達には視認されない存在。
小さな体、不思議な力、そして司るは、運命。
「フラグが立ったー!」
その名は、『フラグ妖精』。
ベネエッタがフラグを立てる度に現れる、諸君達読者の強い味方である。