第3話:お嬢様の大発明
どもどもべべでございます!
お嬢様の才能の片鱗が伺えるシーンですね!オチ?笑える
「さぁ! 御覧くださいな!」
長い長い前置きを乗り越えた村人達のみが残った即席の展覧会。
気のいい彼らは、首を長くしてその品を待ちわびる。
中には暇のあまりちょうちょを追いかけ始めた人もいるが、そこは画面に映さなければなんら問題はない。
というか、この時期にっちょうちょがいるのかという質問も受け付けない。絶対に受け付けない。
「これこそがワタクシの新発明! 構想2時間作成半年、夜も寝ないで昼寝して作り上げた至高至極痛快熾烈な革命的存在でしてよぉ!」
かくして、お嬢様が取り出した例のブツ。
村人が息を飲み、それに一斉に注目する。
「……ん~? お嬢様、その袋がなんだってんだい?」
「んふふ、この袋に入っているのですわ~」
そう、それは手のひらに乗る程度の大きさの小さな包みだった。
密封された包みを開けると、中から四角に整えられた何かが顔を出す。
材質としては、何かしらの生き物の内臓を特殊な加工法で頑丈にして使っているようである。
柔らかさをのこしつつ、破れないようにするにはこの素材が一番らしい。
「開け口が見当たんねぇな」
何かを入れて暖を取るのかと思われたが、先程村人が言った通りどの面も密封されて開け口が存在しない。
否、こんもりと膨らんだそれを見ればわかるが、既に何かが入っているのだ。
そして、それが外に出ないように縫われているのである。
「んふふ、まぁまぁまぁ善は急げ果報は寝て待てですわ! 早速この一品の素晴らしさを味わってくださいましウィルソンさん!」
「お、おう。なんだかむにむにするなぁ」
「そう、そのままムニムニするのですわ!」
ベネエッタからそれを受け取ったウィルソンは、言われるままにムニムニと揉み続ける。
中に入っている素材がジャリジャリ言っていており、加工された表面から空気が入り込む。
「……お、おぉ? なんだぁ、暖かくなってきたぞ!」
「ほ、本当かいウィルソンさん!?」
「あぁ、ちと熱いくらいだな。寒さで冷えた体にはちょうどいい!」
ウィルソンの言うとおり、それは自然と熱を発し始めた。
内臓を使用しているため熱は伝わりにくいが、どうやらそれが逆に良かったらしい。
普通の袋だったら、ウィルソンさん事件が再来していた事だろう。
「むう、熱いんですの? まだ調節が足りないようですわね……」
お嬢様はどこか不満そうだが、村人達はどこ吹く風だ。
「お、俺にも貸してくんな!」
「もうちょっと待っとくれよ!俺が触るまであんたら見てただろ!」
「イヤ燃えないんなら触りたいし」
「ウィルソン泣いちゃうぞ!」
まるで昭和の時代に虫取りに来た少年達のようにブツを取り合いはしゃぎ合う。
落ち着けよとも思うが、仕方のない事だろう。
なにせ、揉むだけで熱が発生する奇跡のアイテムが眼の前に存在するのだから。
さてこの発熱袋だが、既に諸君ならば何なのかが想像もついているだろう。
鉄粉を何かしらの素材と一緒にして焼成して、還元化して、還元鉄粉を作る。
これに塩類を混ぜて、程良い水分の保水材と共に、空気を通しやすい包材に詰めた物がこれだ。
完成したそれをいい感じにフリフリもにもにすることで、中の鉄粉が酸化し、反応熱が発生するのだ。
この原理、この特性。
そう、これこそは冬場の味方、『ホッカイロ』である。
「ふふふ、ですがまぁ概ね成功ですわね! エアロフロッグの内臓で問題もないようですし、後は加工に力を入れれば商品化も待ったなしですわ!」
空蛙。空気中にふよふよと浮かぶカエルの魔物の内臓を使用したことで、空気を吸収し酸化が可能になっている。
このお嬢様の異常性は、現代ほど発展していない科学力で、この発想まで行き着いたという所だろう。
鉄粉が錆びたら熱い~なんて点に注目するなんて事、普通はないのだから。
しかし、今こうして眼の前に、ホッカイロが完成してしまっている。
まさに天才。
彼女がこの世界を変える力を、知恵を持っているという事が、否応なしにわかる事例であった。
…………まぁ、それはそれとして。
「オォーーー―ッホッホッホ! オォーーー―ッホ、」
「うりゃあ!!」
「ほぁぁあああああ!?」
そんな彼女には、背後に忍び寄った少年たちからの祝福により、服の中に雪をプレゼントされた。
試作ホッカイロを試すいい機会を与えられた彼女は、嬉しさの狂喜の咆哮をあげたのであった。笑える。