第2話:お嬢様の凄いとこ
どもども、べべでございます!
明日からまた仕事が始まりますよ~。はぁ、やだやだ。
そんなこんなで一話投稿~。どうぞお楽しみあれ~
「あれまぁお嬢様。今年もわざわざこんな小さな村までご苦労様ですなぁ」
「まぁたそんなに笑うからぁ。んはは、むせたら喉に悪いって言われてますでしょうに」
農村の人達は、こんなベネエッタを見てコロコロと笑う。
収穫物を運ぶ男性、大きさを仕分けるおばちゃん。炊き出しを作る姉ちゃんに足元で遊ぶじゃりんこまで。
そこには一定の親しみが込められており、どこか暖かな雰囲気が滲み出ている。
曲がりなりにも領主の娘、言うなれば裏を取り仕切るマフィアのボスがシマの売上を見に来たみたいな状況にも関わらず、彼らには緊張の色がない。
それには色々事情があるのだが、まぁそこは追々(おいおい)語っていこう。
現状での問題は、領主の娘が村の収穫を視察に来たという点である。
ティルミリィにも当然のごとく視察団というものは存在する。彼らは多忙な領主の目となり足となり、国の財産たる『人』を見て回り管理することを生業としているのだ。
そう、この村にも本来ならば、そういった視察団の人々が来るのが当然であり必然なのである。
しかし、今こうして現れたのは、背後に綺羅びやかな光沢まで放つレッツブルジョアジー。
領主の娘がこの冬真っ盛りの中、馬車を走らせわざわざこの小さな村までやって来たのは、ぶっちゃけ無くても異例だということは想像に難くない。
その上、天上の美しさを全力でぶん投げる程に盛大にむせているのだから、更に訳がわからないのであった。
「ゲッホ! ぅえっ、ゲホえっほ、んん!! ケホッ、ふぅ……えぇ、えぇ、問題ありませんとも、えぇ! 真冬の極寒の中でさえ美を損なわない太陽の如きこのワタクシが! 庶民の皆様を1人の例外もなく照らして差し上げようというのですから!」
何かの矜持か、はたまた照れ隠しか。ベネエッタは奇跡の復活を遂げふんぞり返る。
まるで先程の醜態なぞなかったかのように振る舞うその様は、数秒前を見ていない人ならば騙されていただろうと思わせるくらいに堂々としていた。
「おうおう、てぇことは何かいお嬢様、今年も何か恵んでくださるのかい?」
「あぁっ、こん前の冬も~よくわかんねぇもんくれたっけなぁ。あれだよ、お隣のウィルソンさんが火傷したやつさぁ」
「あっはっは! こりゃいいや、今度はどんな目に合うのか楽しみにしてたんだよ!」
作業の手は一端止まり、人々は口々に笑い合う。
話題となるのはもっぱら、昨年の『ドキ☆ウィルソンさん炎上事件 ~それでもボクは幸せだった~』である。
あの時は、精神汚染され暴走したウィルソンさんを止める為に村人とベネエッタが協力して地下に封印したのだが……詳しくは語らないでおこう。
ちなみに件のウィルソンさんは先程「楽しみ」と言っていた男性である。けして命は落としていないことをココに明記しておこう。
「ええいやかましいですわ! 今年こそ安心安寧、人々に真の温もりを提供できる発明をいたしました! ワタクシのように、『火鼠の服』! 『焔蜥蜴のコート』! 諸々の防寒マジックアイテムに身を包まずとも持つだけで体を温める一品でしてよ!」
「一々自慢する辺りがお嬢様らしいですなぁ~」
「な、な。わざわざ広げて見せるんだもんなぁ?」
「お黙りなさい!!」
さて、ここまで話を聞いた賢明なる読者諸君ならば、ベネエッタがわざわざここに来る理由はもうおかわりだろう。失礼、もうおわかりだろう。
そう、彼女は毎年冬になると、自分が開発した防寒アイテムを村に降ろしにくるのである。
この世界では魔法が発展しているとは、最初に説明した通りだ。同時に、錬金術も存在していることもご存知だろう。
そして、錬金術がこの世界ではそこまで浸透していないということも。
錬金術はややこしい割に利便性に乏しく、尖ったものしか作れない。そんな吹聴が世界に蔓延している昨今では、なにかと嫌煙されがちなのである。
己の服を見せつけ自慢しているこのお嬢様こそは、そんな歴史のいらない子筆頭である錬金術にがっつり目を付け、魔力のない者にも近代の恩恵を受けられるべく奮闘しているティルミリィの錬金術第一人者なのであった。
「ふ、ふふふ、よろしくてよ。笑っていなさいな! 今年の発明こそ、ワタクシが世界に羽ばたく第一歩となる渾身の一品! 触れれば人を蕩かせる魔性の果実! 完璧な才能を持つ者しか生み出せない至高にして至極の存在に恐れおののき崇め奉ればよろしくてよぉ! オォーーー―ッホッホッホ!!」
かくして、才色兼備自信満々なお嬢様は、昨年の失敗もどこ吹く風でお披露目展覧会と洒落込んだ。
その至高の一品とは、果たして……