第1話:僕らのお嬢様
というわけで一話目。こちらから読んでいる方がいらっしゃった場合は、前話のプロローグからどうぞ!
さて、盛大に見せかけてどこか歯切れの悪いプロローグは置いておくとして、物語を進めていこう。
視点は、あの時からそこそこ過去に遡る。
舞台となるのは、『サム』という世界。
そして、『アムル大陸』という広大な土地だ。
読者諸君の視点からわかりやすく例えるならば、剣と魔法、そして錬金術が織りなすファンタジーの世界と思ってもらって差し支えない。
とはいえ、錬金術の発展はそこそこでしかない。家庭に浸透しているのは魔法であり、利便性においてもはるかに錬金術に勝っている。
その上、魔法を用いた生活の知恵も魔力がなければ使えない。生活水準は魔力の良し悪しによりまちまちといった様子だ。
そんなベタな設定のアムル大陸にも様々な国があり、所により紛争が起こり所により同盟し合う。刻々と情勢が変わるのは、読者諸君の日常と変わらないと思う。
この物語は、そんなアムル大陸の西方に位置する国。『クレセント王国』の領地内での物語である。
心優しい国王と王妃、そもすれば主人公になれそうな程に熱く愉快な英雄たちに守られたこの国は、西方の約6分の1を占めている。
広大かつ豊かな土地が存在し、その土地土地をを国王に任され、管理している領主たち。
その領主たちの統治の元、貴族が集まり、民が溢れ、開拓し、街や村が生まれる。
物語の主軸となる『主人公』は、その中の一貴族。
どのような人物なのか……少し、覗いてみよう。
彼女のいる場所は、クレセント王国首都から僅かに南。
そこにある、『双子都市』と呼ばれる程に近い、2つの領土の片割れ。
名を、『ティルミリィ』と言った。
◆ ◆ ◆
季節は、冬。双子都市ティルミリィの管理する農村では、今年最後の作物収穫の日だ。
畑には雪が積もり、寒空の下で働く人々が霧の如き吐息を吐く。寒さに強い根野菜を中心に、雪をかき分けて収穫していく手際の良さは、彼らの経験と技術が研ぎ澄まされていることを容易に想像させた。
されどこの時期この季節。飢えを凌ぐ為とはいえ、かように辛い環境下で仕事に励む農民達の体は冷え切り、交代で仕事に当たらねばならなかった。
寒さを凌ぐ物といえば、僅かな湯と着重ねたボロ。そしてクズ野菜を煮詰めた塩ベースのスープのみ。
「オォーーーーッホッホッホッホ!! 庶民の皆さんごきげんよう!」
そんな越冬の為の大事な時間に、いかにもな高笑いが響いてくる。
例えるならば、文化祭の出し物にボジョレー・ヌーヴォーの試飲会を開こうとぶっこんでくる空気の読めないセレブリティを声で表現したかのようなサムシングを感じさせる笑い方だ。
そんな空気も場所も季節も全てを読まない孤高の存在は、畑まみれのこの界隈にズドンと着地し現れる。
そこにいたのは、嘘偽りも紛れもない『ザ・お嬢様』。
美しい金色の髪は見事なまでにドリル縦巻きカールを施され、切れ長な琥珀色の瞳を彩るまつ毛は先公に反発するヤンキーのごとく重力に逆らい反り返っている。(1カメアップドーン)
適度な厚みを保った艶やかな唇は、乾燥の季節である冬であっても潤いを欠かす事無く有り続け、顔のバランスを決めるとも言われる重要なパーツ、ノーズことお鼻ちゃんは流線を描かんばかりの完璧なラインと高さを維持していた。(2カメアップズバーン)
赤を基調とした可憐な冬装束に彩られた肉体からは、厚着でもわかる位のナイスなバストとなだらかなウエストをを披露。ついでとばかりにヒップも飛び出たグラマラスイズグラマラス。
全国の女子女性女児達がハンカチ噛み締めて羨む天性の美が、そこに詰めこれていたのである。(3カメアップデデドン)
「本日もお寒い中、ワタクシ達貴族の為によくぞ働いてくれていますわね! このベネエッタ・ローゼンブルグ直々に褒めて差し上げますわぁ! オォーーー―ッホッホッホ!!」
そう、彼女こそは今作の主人公。
後の敗北を約束された、絶対的存在。
立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
立って顔打ち座れば尻もち、歩いて棒にぶち当たる。
この世の疫病神にがっつり愛された奇跡のヒロイン。領主様の愛娘、ベネエッタ・ローゼンブルグその人なのであった。
「オォーーー―ッホッホッホ!! オォーーー―ッホ、ホグフゥ!? うぇっほゲホえっほ!?」
……その人なのであった!