プロローグ:大敗北
どもども、べべでございます!
あけましておめでとうございます!という感じで、温めてたネタをちと形にしてみました。
筆の進む限りちょこちょこ投稿していきたく存じます。
どうぞ、お嬢様の敗北の記録をご堪能くださいませ!
こことは別の場所。
夢想のような空間。
優雅で、危うく、そして美しい世界。
今ここに、物語の主人公が誕生する。
◆ ◆ ◆
優雅だ。
そう、優雅な空間だ。
遠目に見ても、権力を持つ者が住んでいると容易に想像できる、白を基調とした石造りの建物。
中を覗けば、けして豪華すぎない――――しかし見る者が見れば、その価値がわかる趣のある調度品や内装に彩られていた。
総じてセンスの良い落ち着いた雰囲気の中、そこでパーティーが開かれている。
美麗かつ豪奢なドレスに身を包む、見目麗しい美女達。
礼服を着こなし、女性をリードするダンディな紳士達。
侍女達が湯気と美香を放つ料理を運び、カクテルを勧める。
万が一にも、つっかけにジャージでは来れないであろう空間だ。そんな奴が来たらロイヤリティオーラで消し飛ぶのは間違いない。
さて、そんなこんなで開かれているこのパーティー。立食形式なのだが、その理由が存在する。
ヒントは、会場の中心に不自然なまでに広げられたスペース。
そして、その中で踊る二組の男女の姿だ。
その華麗さたるや、もはやこの世のものとは思えない。
それぞれがまるで、絵画の中から抜け出したような存在感を放つ美男美女である上に、互いを引き立てんとする息の合った舞いがそれを更に美しく飾っていく。
周囲からは、陶酔のため息が。
そして、この時間が永遠に続くことを願う視線が。
それらは全て、中心となっている男女に捧げられている。
あぁ、なんたる皮肉か。
なんたる極限か。
今宵、彼らは迫られる。
この両者の内、1組だけ優位を決めねばならぬのだから。
そう、これは勝負。
権威の為、プライドの為。
己が全てを賭けた、大一番。
時期国王の花嫁、その栄誉を決める為の戦い。
その決着の瞬間に、彼らは立ち会っていたのであった。
◆ ◆ ◆
そして……全ては終わり、その時はやってくる。
美を競い、知を競い、やれども尽きぬ数多の勝負。
その全てを乗り越え、隣に立つ2人の女性。
両者は対照的な金色の髪、そして銀色の髪をたなびかせていた。
方や、どこまでも強気に。方や、静かに見据えて。
再度言おう。その時は、やってくる。
文句なしの、領主の意思。
発表の瞬間、全ての音はその場から消えた。
「勝者…………アマエル・グリンフィールド!!」
一瞬の、沈黙。
その後、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
勝ったのは、静かに佇む銀色の姫。
今ここに、王の妻、すなわち妃となる権利を一番に受けられる者が確定したのだ。
アマエル・グリンフィールド。
彼女こそ、この『クレセント王国』に革命を起こした奇跡の人。
独自の発想、ありえぬ知識。そして全てを見通す目に、違う世界が見えているとしか思えない言動。
奇人変人扱いはされど、持ち前の人柄でけして不満は感じさせない。そんな素敵な17歳。
その正体は、わかりやすく前世の記憶を思い出し、その知識で様々な内政チートをしまくった元OLであった。
「え、えぁっと、その……え、えぇぇぇぇ~……」
本人の口から漏れるのは、自分でええのんか?という雰囲気がバリバリに現れた困惑の吐息。
しかし、これは公平かつ正々堂々の精神で培ってきた勝負の結果。
受け入れるしかなく、かつ本人もそのつもりで臨んでいた戦いなのである。
「……んっ、ありがとうございました!!」
アマエルが唇を結び、大きく一礼すると、会場からはより大きな拍手と称賛が送られる。
さて、こうして己の栄光有る未来を手にしたアマエル。何故に彼女がこの地に現れ、どのようにこの祭典までに至ったのか。
数多の試練、勇気ある行動。突飛な出来事――――そして、それを支えた王子との甘い恋。
これは、彼女が前世の経験を利用して、本当の幸せを得る物語――――
などではない。
今回の主役は、今現在瞳に涙を滲ませている清廉潔白なヒロインではないのである。
そう、この物語の真の主人公、それは…………
「…………うぅ…………うぅぅぅぅぅ…………!!」
こちらの、金髪お姉さま。
アマエルとは違った意味で涙を溜めつつ、頬をふくらませる姿は、まさに敗者のそれ。
美しいご尊顔に一杯の「悔しさ」を詰め込んだ、絵に描いたような負け姿。
ベネエッタ・ローゼンブルグ。
彼女こそ、本来ならば全ての栄光を欲しいままにしていたはずの存在。
溢れるカリスマ、満ちる才能、そして絶対の人格を兼ね備えた英雄的人材。
しかし、彼女にはどうしても変えられない悪癖が存在していた。
それこそが、『フラグ建設』と『自信過剰』。
そう、彼女は運命的なまでに敗北に彩られた人生を送る、まさに絵に描いたような『高飛車系敗北お嬢様』だったのである。
これは、そんなベネエッタが敗北に敗北を重ね、それでもなお立ち上がり続ける不屈の物語。
そして、彼女が本当の幸せを見つけたり見つけなかったりする、恋に溢れる?うん、溢れ……うん、溢れる溢れる。
恋に溢れる物語である。多分おそらくメイビー。