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途中

まるで誰かに操られている…みたいだ。

って、誰に?


 催眠術と言えばテレビで何度か見たことがある、アイドルなんかが謎の術者に

「犬になれ」だとか何とか命令されて「わんわん」とワザとらしく鳴いてみたり、四つん這いになったりするアレだ。

けど利口な俺はそういうのを完全に見抜いていたし、まさか自分が掛かるなんて冗談でも無い、と思っていた。

だけど今、手が勝手に動いている……のは一体どういう?

こんなに雑念が入り混じった脳みそで、通常の俺が曲を奏で続けてるのもオカシイ話だろ。


幼少期から何度もトライしたピアノコンクールの講評シートに幾度も書かれていた

「曲の流れ・世界観に集中しましょう」という文言がパッと脳裏に浮かび上がる

そうそう、こんな風に色んなことを考えながら弾くから手が停まったり強弱のタイミングを忘れてミスるんだよ……いやだけど、今現在俺が弾いているタンゴ、滅茶苦茶完成度高くないか?


そう、すらすら動く指が何故か止められない。

息継ぎも曲にタイミングを合わせて勝手に肺と口が動いている。


え、ちょっと待てホントにどういう……?


引き上げられた巨大な魚、ヘルゲイザーと目が合う。


漆黒の眼球は濁っている。


と、俺の指は鍵盤と反発するかのごとくパッと離れた。

電気を流されたのかと思うほど、指先が痺れているので思わずズボンで拭いた。


――――演奏がお気に召したのか?


ホッとしたのも束の間、再び船の底に衝撃が走った。

屈強な漁師たちが必死に何かを叫んでいる物の、専門用語まみれで何語を喋っているのかさえも理解不能だ。

俺は両手で命綱を掴みなおすために鍵盤ハーモニカを左手から離そうとした。


しかし、離れない。

分厚い肉に合皮のベルトが見事に食い込んでしまっているのだ。


ヤーバイヤバイヤバイヤバイヤバい!!!!


これほどまでに己のデブを恨んだことがあったろうか。

とき子に拒絶された時、がまあそうだけど…俺がイケメンだったら、いきなり現れた俺にとき子もウットリして懐いてくれたかも…、とか。


だけど今はそれよりデブを後悔してる!!!!


だって命の危険じゃねーか!!!!


船は先ほどのヘルゲイザーとの戦いで幾らか損傷してるのかもしれない、揺れ方がこれまで味わってきたものより増幅してる。

船の床が半端じゃないくらい持ち上がり、そのまま転覆する――と思いきや持ち直し、怒号が飛び、入水量も半端じゃない。

頭にザバンザバン海水がかかる、俺はもうヘルゲイザーを捕獲出来た為にお払い箱って事なんだろう

誰も助けに来ようとしないどころか、ドタバタ走り回る船員に押しやられ、もう片手で頼りない紐一本にぶら下がるだけだ。


ヘルゲイザーは頑丈な網に捕らわれ、銛が突き刺さったまま、荒れる海に飲まれそうになる船に、ブラブラ吊り上げられていてあまりにも哀れだった。



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