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01



繰り返し脳内で描いたマイドリームを再び反芻するように思い浮かべ、激しい痛みをやり過ごした。



 ボッコボコに殴られた痣は、消えない。

消えないそばから、また殴られる始末で、最初にやられたのが何処だったか、その程度はどれくらいだったか、全身赤黒くなってしまった肌では全然わからない。



 俺はこみ上げる吐き気を我慢することなく、甲板から身を乗り出して、勢いよく海に向かって胃の中の物を全部、荒れる黒い波間に吐き出した



……と、猛烈な勢いで寄ってくる魚の群れ。


内容物は殆どが俺の胃液だというのに、有り難がってそれに群がる此奴らに憐れみを感じる。


憐れみ、ね。




 憐れんでほしいのは俺の方だ、こみ上げる涙をぬぐって生臭い船上を見まわす。

乗組員たちは全員、船の中で毎晩恒例の汚い飲み会を開催しているらしく、邪魔者がいないのを確認して俺は胸に忍ばせたお守りへと手を伸ばした。


紺色のちりめん生地に"御守"と在り来たりな筆文字で書いてある巾着状の小さな袋。


こればっかりは、流石に此処へ売られた際の持ち物チェックで取り上げられることがなく、俺はここに隠しておいて本当に正解だったと心底思ったものだった。


静かに紐を解いて中身を取り出し、船にくっ付いたほんの少しの明かりに照らす。



手のひらよりも小さな写真だけど、そこには確かに、可愛らしい天使が映し出されていた。

 ホープダイヤモンドの様な魅惑的に光る碧い眼、天然の金髪、乳白色の陶磁器を思い起こさせる艶めいた肌。

俺を励ます様に見詰めるその目が優しく微笑んだようで、知らず知らずに溜息があふれる。



俺の初恋の少女………



…………最初にして最後の恋人



「――オイ、てめ、ナニこいてんだぁ。」


壁に凭れて耽っていると、後ろから万力の様に肩をつかまれ、一息に身体を反転させられた。


――ヤバい!!

俺は慌ててお守りの中に写真を突っ込んだ。

グシャ、と親指が紙を押し潰す感覚に連動して胸が締め付けられるように痛んだが、四の五の言ってはいられない。


「ん?持ってるもん、出せよ!」


出せよ、と言いつつ丸めた拳の隙間から伸びる白い紐を無遠慮にグイグイ引っ張るこの男は乗組員の一人で、特にごつい体格。

ストレス発散に俺を殴る時にも手加減ナシ、僅かばかりのメシを横取りする常習犯の秦畑だ。

俺は観念してお守りを相手へ差し出した。


「あー?ぁんだ、こりゃあ……」


奏畑は漢字があまり得意ではないらしく、御守の文字が読めないらしい事は表情で何となくわかった。

不安げに見つめる俺を無視して小さい閉じ口をデッカイ指で探っている。

「破れた紙?写真、か…と、綿しか入ってねー。」

「そ、そうなんですよ、だから全然大したもんじゃな……あっ!!」


奏畑は中身を改めると、俺の祈りを完全無視して、100マイル越えを叩きだすメジャーリーグのピッチャー並みの投球フォームでそれらを海に放り投げた。


「あ、それ、それは、あっ……!」


膝から崩れ落ちて脱力する俺に、ベッと唾を吐きかけて奏畑は無言で去っていく。





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