プロローグ~とある神様の話~
神様と呼ばれる存在になって、もうどれぐらい経ったなんてありきたりなことすら思わない程に月日が流れて思ったのは、他力本願な奴とか小説でよく見かけるご都合なことを望む人が多すぎること。
神様といっても、新任である私には世界という存在には逆らえずほんのちょっと、運命の矛先を変えるぐらいしかできない。
これは総ての神の力であり、絶対的な世界の決め事を唯一覆せる力でもある。
最近の若者はよく勘違いをしているが、私達神は世界に逆らえない、運命をちょっと緩ませて、結果的に覆せるようにするだけであり、抗い、運命を変えることは総て当事者の人間にしかできないことだ。
世界は意思を持たず、持てず、自身の崩壊すら止めることができないもの。私達神はそんな世界が消えると自分達も神格がなくなり、消えてしまうから必死に守り抜いているだけである。
そんな、万能とは程遠い。下手したら自ら活路を見いだせる人間よりも脆い生き物でしかないのだ。
私なんか、誰にだってちょっと逆らえる余力を残すだけの、そんな「もの」で、どうして神というものになってしまったのか、私は本当に必要なのか、私を罵倒する声を、否定する言葉を聞く度に考えてしまう。
だからこそ、暇つぶしのネット小説とかにある転生の神々を見て羨ましいと思ったのだ。
私だって偉そうなこといってスキルとか渡してみたいし、異世界の云々を楽しんだりしたい。
だけど、ちょっと世界を覗くだけの存在の私にはできないから夢想するだけ。
ある日、ふと考えた。私だって、転生してもいいのではないか。
ちょっとだけ力あるだけの私にすがりつくような数多の人間に応えるため、なんてのはただの言い訳だけどこんな安全な場所から修羅場とかを野次馬気分で見るより、実際に飛び込んで学んでもいいんじゃないのか?
総てを救うなど馬鹿げたことはできないが、学ぶことをやめてこんな毎日怠惰に眺めるよりもずっと有意義且つよいことではないか。
そう思ったら、妙案な気がしてきた。たった独り、こんなところで紙の文字で空想するよりも、実際に緑の色や本当の恐怖、有り難みを知っても、別によいのではいか?
神も、たまには外へ出たいのだ。
気がついたらほとんど全ての力を使って、死体となっていた幼子の体を乗っ取ってしまった。
私は怖くなった。
罪もない子の体を奪ってしまった浅はかさが。
自らの欲に逆らえない、自分が。
私は、神になるべきではなかった。
神へ感謝を述べる両親らしき二人に罪悪感に襲われ、私はせめてこの生を正しく使うことを誓う。
後で、神から追放されたとしてもいい。むしろ、平気で他者を足蹴にしてしまう、こんな私は力を持ってはいけないのだ。
けれども運命は、ひどく奇妙で私は、私よりも永く神になった先輩から大目玉を食らうと同時に恐ろしいことを知った。
とある神のせいであらゆる世界のバランスがむちゃくちゃになってしまったこと。
この世界は、私の世界ではなくギャルゲーと呼ばれるものであり、私は悪女でとんだアバスレになるはずだった女性の体を奪ってしまったこと。
そして、性的犯罪者が主人公として生まれてしまったために攻略対象とされる女性達を守って欲しいと。
こんな罪深い私にもできるのだろうか。と聞くと先輩はまさに運命を覆せるようになった貴方にしかできないと、後押しをしてくれた。
ならば、守りぬこう。
運命によって毒牙を向けられるであろう、人間達を。