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晴れのち雨

作者: 氷室

 今日の天気は晴れのち雨らしい。成る程、確かに今は午前中の晴模様が嘘のように雨が降りしきっている。そして私の心の中も晴れのち雨。今現在は大荒れの天気だ。

 つい数時間前までは私の心は実に晴れやかだった。ずっと前から好きだった彼に告白をする。頭の中には断られるイメージなんか微塵もなかった。彼のことを徹底的に調べあげ、好みに合うように私自身をカスタマイズしたのだから必勝疑いなしと思っていた。長い黒髪に透き通るように白い肌、スタイルだって食事や運動などを工夫して抜群の出来にしてみせた。全ては彼のために。

 そこまでしたというのに放課後、屋上に彼を呼び出して伝えた私の言葉はあっさりと拒絶された。その瞬間私の頭の中はフリーズした。想定外の展開に私は目の前の現実を疑った。彼は私の運命の人で、私は彼の運命の人のはず。彼は一生懸命に努力し、私の理想の人となった。だから私も彼の理想の人になるべく努力したというのに何故?

 頭の中を様々なものが駆け巡っている私に対して彼はさらに最大級の衝撃を与えてきた。

「俺、今付き合ってる人がいるから……」

 この言葉を聞いた後のことはもう何も覚えていない。気が付けば私は家に帰ってきていた。いったいどうやって帰ってきたのだろう。彼はどうしたのだろう。疑問は様々あったが、どうでもよくなった。私は振られたのだから。

 どうやら私は傘を差してこなかったようで全身ずぶ濡れになっていた。そして濡れたままの制服で部屋まで入ってしまったおかげで泥やら水滴やらで汚れてしまったが、もうそれをどうにかしようという気すら起こらなかった。

 登校時には人生で一番というほど生き生きしていた私だが、今現在はこの体たらくである。制服はずぶ濡れで部屋も汚れている。惨めだ。想像していた告白後とのあまりの差に涙が出てきた。悲しくなるだけなので考えないようにしていたが、もう駄目。何故私がこんな目に遭わなくてはならないのか。いったい誰が私達の運命を捻じ曲げたのか。

 その時、私の頭の中には彼が言った「付き合っている人がいる」という言葉が浮かんできた。そういえばそうだ。そいつが私と彼の運命を捻じ曲げた下手人に違いない。私の心がどす黒い霧で満たされていくのがわかる。

 彼の恋人は私。そう運命で決まっているのだから眼中になかったが、彼を誑かして私の本来いるべき場所に居座っている女がいる。運命に逆らう愚か者は何としても排除しなければならない。いや、されなければならない。今後も勘違いする馬鹿女が出てこないように見せしめにしてやる。

 私は急いで立ち上がり、部屋を出て台所へ向かう。私は包丁を手に取り、懐に入れた。これで勘違いした馬鹿に制裁を加えてやろう。そう考えながら私は玄関に向い、扉を開けてふと思い出す。たしか明日の天気は晴れ。今、目の前で降りしきっている雨が明日には上がり、輝く太陽が顔を出してくれると思うと笑みが零れた。私の心の中も明日はきっと雲一つない晴れになるだろう。

 だから今から私は行かなくてはならない。隠された太陽を救い出さなければならない。そのために私は鬱陶しい雲を消し去る。たとえ体が雲から流れ出る雨で汚れようとも……。

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