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1-11 エピローグ【1章本編最終話】

「オレが好きなのは、つ、椿。キミだ。お、オレと付き合ってほしい」

 事ここに至って、某クイズ番組の司会者のようにタメを作って焦らすようなマネは好まないので、孝はさらりと言うつもりだった。しかし、いざ言おうとすると、緊張するもので、ややどもりながらの告白となってしまった。

「孝くん……ありがとう。よ、よろしくお願いします」

 それでも、椿にはちゃんと気持ちは伝わっていた。目尻に涙を浮かべながら、ペコリと一礼した。

「正直、どっちも甲乙つけがたいくらい可愛いから、最後まで悩んだけど、それでも自分の気持ちにウソはつけない。今だから言えるけど、オレも中学のとき、椿のことを可愛いと思って、さりげなく目で追いかけてたんだ。だから、椿が女子校ハネジョに進学するって知ったときは絶望感すら覚えるほど悲しかった。街で偶然会ったときは驚きばかりが先に立って喜びは後からだったけど、転入してきて、隣の席になった時なんて、心臓の鼓動が聞こえてしまうんじゃないか、ってくらいドキドキしてたよ」

 孝は明日実への配慮、というわけでもないが、決断にはそれなりの葛藤があったことも明かした。だが、その後に椿への想いを長々と語っていてはそんな配慮も台無しだった。

「ははっ……長かった初恋も、これでひと段落、か……」

 その明日実は、乾いた笑い声を上げ、椿とは別の意味で目尻に涙を浮かべていた。

「明日実、済まない……」

 いつもの明日実とは似ても似つかない、落ち込んだ姿に、振ったことを自覚した孝は思わず謝っていた。

「なんで孝くんが謝るの? わたしなら大丈夫。明日には、きっといつものわたしに戻ってるから。ごめんね、今日はわたし、帰るね」

 このままここにいると、本格的に号泣してしまいそうだと感じた明日実は、溢れそうになる涙をこらえながら、孝の家を出て行った。

「はぁ……わかってたつもりだったけど、やっぱ気分が重くなるな」

 2人の少女から1人を選べば、選ばれなかったほうは当然、傷つくことになる。自らの手で傷つけてしまったことを思い、孝の気持ちも沈みそうになる。

「孝くん、顔を上げて。私たちは選ばれなくても、覚悟はできてたわ。いま、孝くんが明日実のためにできるのは、明日会うときに、普段どおりの顔を見せてあげることよ。孝くんまで沈んだ顔をしていたら、明日実が余計に立ち直れなくなるわ」

 そんな孝を、椿が叱咤激励する。

「……そうだな、努力するよ。そろそろ、椿も家に帰るか? 送っていくよ」

 孝は椿の激励を受け入れる努力をすることを誓い、椿を家まで送り届けるのだった。


 翌朝、寝坊することなく起床した孝は、ため息をひとつつくと、パシッと顔を軽く叩いて、気合を入れ直した。普段どおりに振る舞うことを意識し、朝食を済ませると、着替えて家を出た。

「おはようっ! 孝くん、一緒に行こうよ!」

 ちょうど明日実も出てきたところだったようで、孝に駆け寄ってきた。どうやら、明日実はもう普段どおりのようだ。空元気なのかもしれないが、孝はそこには言及することなく、明日実と並んで歩き出した。

「おはよう。明日実、もう大丈夫?」

 途中で椿も合流し、傍目には元気に見える明日実に訊ねる。

「うん。大丈夫だよ。昨日は言えなかったけど、椿。おめでとう」

 すると、明日実は力強く頷いて見せた。孝に選んでもらえた椿を祝福できていることから見ても、ある程度は気持ちに整理をつけられたのだろう。

(あれ、なんかあまり変わってない気がする……)

 孝を中心に、右手側に椿、左手側に明日実が並ぶ、いつも通りの登校風景に、孝は内心首を傾げながら、登校していくのだった。


 それから、1ヶ月近い月日が流れた。


「ただいまー」

 ずっと旅行に行っていて連絡のつかなかった孝の両親、孝介と恵子が帰ってきた。

「おかえり。今度はどこまで行ってたの?」

 もうこの両親の旅行など、慣れてしまって玄関まで出迎える気も起こらない孝は居間から一歩も動くことなく、その場で出迎えた。

「うん? 今回はハワイに1週間、ロサンゼルスとラスベガスに10日、ニューヨークに1週間、最後にロンドンに1週間ってところか。ほれ、土産だ」

 孝介は孝の口調にややトゲがあるような気がして首を傾げつつも、旅行の滞在場所を挙げて各地の土産物を手渡した。

「ふーん。海外にいたんだ。そりゃあ、連絡つかないはずだよな」

 孝はその土産物を受け取りながら、さらにトゲトゲしい口調で言う。

「どうした、何かあったのか?」

 さすがに孝の様子がおかしいことに気づき、孝介が訊ねる。

「何かあった、どころの話じゃないよ。いろいろと大変なことになってて、先生とかが連絡を取ろうとしても全然捕まらない、って焦ってたんだから……」

 孝はふて腐れた様子で、1ヶ月ほど前のことなどを話した。


「ストーカーの被害に遭ってた同級生の女の子を守ってストーカーと決闘したり、そのストーカーの逆恨みで事故に見せかけて殺されかけてるなんて、我が息子ながらどこのドラマの主役かと思うよ」

「あなた、茶化さないの。そんな目に遭って、もう身体は大丈夫なの、孝?」

 話を聞いた孝介はドラマみたいな展開だと茶化し、恵子はそれを嗜めて孝の心配をする。

「ああ、ケガ自体は右足首の骨折、右肩の脱臼、それと全身の擦り傷だけで、車に撥ねられた割には大したことなかったからね。頭を少し打ってたけど、特に異状も見られなかったから数日で退院できたし。でも、父さんたちと連絡取れなかった分、北海道から孝太伯父さんに来てもらったんだよ。来てもらったときに、オレからは謝っておいたけど、後で父さんたちからも伯父さんに謝っておいてね」

 孝は頷いてそう答えた。

「そうか、わかった。兄さんには後で電話をしておく。孝、済まなかったな。これからは旅行へ行く回数を減らしたり、短めにするようにしよう。海外に出るつもりなら、あらかじめ言っておくようにする。それらを含めて、今回の件を反省材料にしていろいろ考えるつもりだ」

 孝介はその答えに頷き、反省を今後に活かすと約束した。それでもしばらく旅行を取りやめる、とは言わない孝介に、孝は苦笑するしかなかったのだった。


 翌朝、孝はいつもより少しだけ早く家を出た。そのため、明日実はまだ出てきていない。孝は椿と交際を始めて以降、時折こうして早く出発しては、椿と2人きりの登校をしている。2人きりになっても、特別何か恋人同士らしいことをしているわけではないのだが、そこは気分の問題である。

 孝は時折後ろを振り返り、明日実が追いかけてきていないことを確認しながら、椿の家の前に到着した。すると、すでに椿はマンションのエントランスのところで待っていた。孝と椿が2人きりで登校しようとするときは、前もって前日の夜のうちにメールでやり取りをして何時に出発して迎えに行く、と決めているので、いつでもこのように無駄の無い待ち合わせが出来ている。

「おはよう、椿」

「おはよっ、孝くん」

 孝が軽く右手を挙げると、椿もすぐに気づいて同じように右手を軽く挙げて返してくれる。いつでも明るく元気満点な明日実がいない分、孝と椿は2人きりで静かに登校していった。


 午前中の授業を終え、昼休みに入ると同時に孝は不穏な気配を感じて振り返り、ドアのところにいる明日実に気づいた。

「孝くん、同じマンションの同じ階に住んでるのに、置いてきぼりにするなんて、酷くない?」

 恨めしそうな目つきで明日実が孝を非難すると、

「何を言っているんだ、明日実は。小学生の集団登校じゃないんだから、同じマンションだからと言って一緒に登校する義務は無い。そうだろう? それに、オレは椿と付き合ってるんだ。こ、恋人と2人きりになりたいと思うのは当然。明日実はそこんところを理解して欲しいな」

 孝は至極真っ当な反論をぶつける。

「あら、一度はふられちゃったけど、わたしは諦めてないよ。だって、勝負はまだ終わったわけじゃないもの。孝くんが椿と結婚しちゃったら、そのときこそ完全に試合終了だけど、それはまだまだ先の話なわけだしぃ……?」

 そこまで言った明日実の目つきが完全に肉食獣のそれになっていることに気づいた孝は、近くで様子を見ていた椿にジェスチャーで「ゴメン」と謝り、脱兎のごとく教室から脱出、逃亡した。

「あぁっ、逃げたぁっ!? 孝くん、まだ話は終わってないよぉっ!」

 明日実もすぐさま孝を追って廊下を走り出す。

「くぉらあああ! 八坂! 古川! またお前ら、廊下を走りおってええええ! 待たんかあああああ!?」

 これまで、幾度と無く廊下を走り回って生徒指導に目を付けられているにも関わらず、廊下ダッシュを繰り返す常習犯に、生徒指導を担当する大崎おおさき教諭が怒り、ひっ捕らえて生徒指導室にご案内するべく、感情のままに追いかけ始めるが、大崎は来年で定年を迎える、還暦間近の老教師のため、孝や明日実の速度にはついていけず、あっという間に引き離されたのだった。

 なお、もちろんこの後、放課後に2人まとめて放送で呼び出されて生徒指導室にご案内、と相成ったのは言うまでも無い。


 しかし、こうして生徒指導室にご案内、となっても孝と明日実の校内鬼ごっこは続いていく。廊下がダメなら校庭など、怒られない場所でやればいいじゃない、とばかりに。ただし、校庭などのオープンスペースで走り回ると、元陸上部の明日実が絶対的に有利になる。体力の限界まで追い回され、抵抗できない状態で捕獲され、描写を躊躇うようなことになりかけるのだが、そのたびに「はい、そこまでよ」と椿が割って入り、事なきを得ている。

 なお、すでに、この三角関係はほぼ全校生徒の注目の的になっており、孝と椿の関係を応援する者、明日実が略奪愛を成功させることを応援する者、2人に想いを寄せられる孝への嫉妬に燃える者など、いろいろな思惑が渦巻いていた。


 孝たちの高校生活は、まだまだ始まったばかり――――

お読みいただき、ありがとうございます。これで、旧版の1stシリーズのリメイクは完了。

次回:1-12 夏休み、臨海学校準備編【リメイク版新規エピソード】 7/12 06:00 更新予定!

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