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緒方隆治(おがたりゅうじ)VS遠峰修治(とおみねしゅうじ)

 尋常ならざる闘技場。夢心地で喜ぶものもいればうなされるものもいる。

 かくして、遠峰修治は第一戦を敗退に終わり次の試合までの休息を喫していた。闘技場内にある街の一角。その蕎麦屋で唸りながらそばを啜る。

「うぁー、なんでこんなことに…」

 連れてきたやつは一向に現れず、あれ以降説明もない。試合が終わり、体にまとわりつく死の感覚を感じながら修治はまず町中のベンチで起きた。聞くところによれば地下闘技場ということだが不思議なことに空がある。ココ二年ほどはろくに見ていなかった空が大口を開けて頭上に広がっていた。いくらか散策してみると街には食べ物屋や雑貨店、奇妙奇天烈な小物屋まである。行き交う人々も銘々の存在感を醸し出しながら混ざり合い、異質な空気でここは構成されていた。

 頭を抱えた修治はとりあえずとばかりに近場の蕎麦屋へいって現在に至る。

 金銭はなぜかポッケに「ふぁいとまねー」と書かれた封筒と数枚の万札が入っていた。なぜ日本円かは知る由もない。

「はぁ」

「おい、兄ちゃん。辛気臭い面してるんじゃねえよ。客が逃げちまう」

 頭にねじれ鉢巻を巻いたおやじが物申す。修治はそれに平謝りをしてそばを啜る。深く考えては駄目だ。そう答えはいつだってシンプル。この蕎麦が旨い、それだけで意味があるように。

 柄にもなく哲学的なことを考えながらおかわりを頼む。すると声を同じくして隣の青年が腕を上げた。そちらをなんとなしに向く。

 背はおよそ自分より高いらしい。鍛えられた肉体は学生服をまとった様子であるにも関わらず伺い知れた。側には太刀が置かれ、使い込まれているらしく傷が目立つ。

 なんとなくではあるがどこか自身に雰囲気が似ているなと思う。

 青年もこちらを一瞥してきた。

「なんだ、なにか用か」

「ああ、いや。あんたも刀使うんだな。もう試合はしたのか?」

「ああ、先ほどな。全く訳がわからんことこの上ないが、なんとか勝てた


 事もなしげにそう言い放ち、そばを受け取る。自分も器を受け取りながらふうんと相槌を打つ。ちょっと気に喰わないこともないが、それ相応の実力があるのだろう。

「その様子だと、負けたのか」

「え、ああ。まぁ己の怠慢故かなぁ。散々な負け方だったよ」

 自嘲気味にそう笑うと、青年は修治をまっすぐに見てくる。正確にはその周りの空気を見ている。訝しげに修治は見返す。

「な、なんだ?」

「いやいい気をしている。単に相手が悪かったんだろう。……のやつはチョットやそっとじゃ倒せん。贔屓目なしにアイツは強い。腕もそうだが、背負うものが違う


 真顔でそう言う青年に唖然とする。ふっと笑いが溢れた。

「ずいぶん買ってるんだな、あの湊とかいうやつのこと」

「死線をくぐり、俺を救ってくれた恩人だ。無論だ」

 なかなか中がいいんだなぁと思いながらおかわりの蕎麦を頬張っていた時だった。

 脈絡もなくアナウンスがどこからともなく聞こえてくる。

『ハァイ! おまたー? いやそこまで待ってないか。なんにせよ読者は待ち焦がれていると私は信じているよ! まぁとりまページもいい感じに区切りがつくみたいだし、今回は戦闘描写凝りたいってことでいっちょ頼んますぜ! ちゅうわけで今回の勝負は遠峰修治VS緒方隆治。異なる世界の剣士のバトル! 今回のフィールドは道場だぜ! さぁはったはったー!れっつらごぅ!』


 素っ頓狂な声にツッコミを入れる間もなく、光りに包まれた。


 道場。自身の通う道場とはまた趣が違うそこに立っていた。腰にはすでに愛用の小太刀がある。窓の外は月夜。少し寒いことから季節は秋だろうか。

 そして、目の前には太刀を携えた先ほどの青年、隆治がいた。

 隆治はこちらを真っ直ぐに見てくる。

「ふむ、あんたが相手だったか」

「……みたいだな」

 剣士はどちらともなく構える。異能の力を使わずまずは剣士としてみたいのだろう。

 どちらからともなく臨戦態勢に入る。先に動いたのは隆治だった。

 間合いは3mほど。それを一足で詰めてくると流れのままに太刀を下段から抜刀してきた。すぐさま抜き放ち、太刀に応じる。

 そのまま相手の刃を二刀の峰で滑らせ、腸に刃を突きたてんとする。神木二刀流の技の一つ。双子楓。相手もその意図に気づいたのか、鍔で刀をはじき、即座に手を返して喉元に突き立てた。

 しばし膠着し、離れる。たった一合だが力量が拮抗しているとお互いに感じ得た。

 間合いを開け、修治は口を開いた。

「……やるな。全力で行かせてもらうぞ」

 隆治も頷く。そして腰から一枚の面を取り出した。それは般若を模した面。合戦の際に甲冑に身につける面甲であった。

「ひたすら打ち合うのも面白いが、ならばこちらも。――いくぞ鉄號」

 傍らにいるだろう何かに語りかける。修治はおよそ霊感の類は持ち合わせていないし、信じてもいない。だがいまここに限定して言えば「いる」と断言できた。

 隆治が面を被ると空気が震える。張り詰めた、凛とした空気が漂う。そして鼻につく血の匂い。鉄の香り。するとみる間に面から黒い靄が漂い始め、隆治を包んでいく。体に纏わり付き、徐々に実体を帯びてくる。

 靄が晴れた時には一人の甲冑を身にまとう武人が居た。

『参る』

 ただ一言。声を聞いただけで頭から警鐘が鳴り響いた。下手をすると、殺される。命を絶たれ、さらに魂までもが一刀のものに伏されると錯覚した。

 甲冑の武人は青眼に構え、そのまま一歩一歩詰めてきた。

 怖気づいている場合ではない。相手は尋常ならざる力を行使するがそれは自身も同じこと。

 負け続けるのは、遠峰修治の性分ではない。

 息を吐き、きっと睨みつける。それを合図に修治の周りを衝撃波の壁が包む。さらには修治の体を宙に浮かせた。

 自身が斬ると考えた時にはすでに間合いを詰め、上段から小太刀を振るっていた。およそ限界を超えた力の使用のために全身がばらばらになりそうだ。痛みを覚えるが耐える力をも上乗せして兜を叩き割らんとする。

 相手は果たして見えていたのか。きっと観ていたのだろう。

 さらに一歩、踏み込み体当たりをしてきた。たった一歩踏み出しただけであるが、はかりしれぬ威力である。臓腑から空気が残さず出て、小太刀の打点がズレる。刀は兜につけられた二本の立物のうち一本を斬るにとどまった。

 そのままふっとばされるが、衝撃波を背中から発し、とどまる。

 続けざまに連撃が飛ぶ。相手は太刀を上段に構えると腰だめに構えて静止。

 面甲から覗く眼を山吹色に輝かせて睨んできた。それはもはや鬼に近しい気迫だ。

『五行剣がひとつ、火の太刀』

 挙動は視えない。刀を振る動作は意識の間に終えたようだ。残ったのは剣圧で生じた空気の層とそれを道として進んでくる蛇のような火焔だった。

 修治は瞬時に右へと加速し、それを避ける。難はない。が、失策であったと気づいた。再び声が響く。それが詠唱であると修治には判断はつかぬ。

「五行剣、土の太刀」

 避けた右に移動していた甲冑が、下段から切り上げる。それは先の太刀などとは比べくもない鋭さで放たれた。そして道場の床をどこからともなく膨大な土が隆起する。

 背後を壁。右を火焔、左を土の波。前方に甲冑を纏う隆治。

 囲まれた。再び前の試合のように無様な死に体を晒すのか。目を見開く。

 それが遠峰修治の生き様か。

「これで終いだ。五行剣――」

 答えは違う。

「だらああああああああ!」

 詠唱を上書きするように、気合で跳ねた。

 小太刀を眼前に、全身全霊を持って放つ一太刀。本来なら人力で可能である神木二刀流の奥伝の技。風流れ。鋼鉄をも貫く一つの技術。対する隆治も詠唱を終える。

「火生木刻ッ!」

 風と火。両者が激突した。


 道場は部屋一面が黒焦げになり、床板や壁が割れていた。

 そこに佇むのは膝を立てる修治。そして、胸に深々と小太刀が刺さった隆治だった。

 面甲が霧散し、顔があわらになる。瞳を山吹色に光らせながら修治を見やる。

「いい、技だった」

 それを告げると隆治はふっと消え失せた。街に戻ったのだろう。

 修治もその場でうなだれながら、焼け落ちた腕を眼前に道場から姿を消した。


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