表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

香島湊(かしまみなと)VS遠峰修治(とおみねしゅうじ)

 寝て起きてみれば見知らぬ場所だった。そこは通路のようで、どこか開けた場所に続いている。起き上がった場所からは逆光なのか様子は伺えない。人気はあるようだが、喧騒一つ聞こえてこない。ふと眼下に一枚の紙が落ちていることに気づき、拾った。

 曰く、ここの主催者からのこと付けだった。なんでもここはどこかの国の地下に併設された地下闘技場らしく、未来過去現在・果ては世界線まで飛び越えてありとあらゆる人物が集まる闘技場である。摩訶不思議な魔術、研鑽を積み重ねた武術。なんでもいいから相手と戦って熱いバトルをしてくれとのことだった、

 三文小説にありがちなシチュエーションだな、と遠峰修治は眉根を寄せる。すると耳障りな音とともにアナウンスが流れだした。

「あーえー、テステス。えーではこれよりー、遠峰修治と香島湊のバトルを執り行いたいと思います。まぁ、お二方状況飲み込めないと思うけど質の悪い夢ってことで。痛みはあるけど死にはしない格ゲー仕様なんでー。そんじゃま、張り切っていこう!」

 年齢性別の伺えぬ、気の抜けた声に毒気を抜かれつつ、一歩踏み出す。よくわからないが、この状況を解決するためには死合わなければならないようだ。



 修治は緊張の面持ちで逆光の中をくぐると、そこは大きな森だった。針葉樹林や紅葉した樹木が入り乱れている奇妙な森林風景。

「は?」

 ますますもって意味がわからない。頭を掻いてとりあえず修治は森の中を進んでいく。

 数分ほど歩くと、近場の草むらから人影が現れた。思わず腰に差している小太刀に手をかけるが、相手の姿に目を細めた。見えてきたのは右足を引きずった杖持ちの優男だった。

 彼の方も気づいたようで、微笑みを浮かべつつ、杖を頼りに歩いてきた。彼我の間合いはちょうど4メートルほどだろうか。

「こんにちは。災難だねぇ」

「あ、ああ」

 のんき気まま。世間話に興じるように目の前の男、湊に応じる。

「あんた、えらく呑気だな」

「そう見える? んー、なんでだろう。こんなことが前にもあったような気がするんだよなぁ」

「それは不運なことだな


 とりあえずは相手がまともな人であることに安堵する。湊はその様子に苦笑を漏らした。

「で、どうしようか。お互いどちらかが戦闘不能とかにならない限り出られないみたいだけど」

「……ああ」

 そこで初めて修治は相手の姿を観察した。身の丈は177ある自分よりか少し低い。赤みのある髪にハーフのような顔立ち。一見すると痩せ型ように見える佇まいはなかなかどうして体幹のブレが見当たらなかった。

 それなりに戦えそうだ。口の端が歪む。

「結構好戦的なんだねぇ。まぁ、いいか。俺も久々に戦いたいし」

 立ち方は変わらず、纏う気が変わる。

「ああ、そういえば能力とかはどうしようか」

「能力? 超能力のことか」

「あー、僕のとこでは霊能力とかなんだけど」

「ふむ。まぁ、いいだろう。似たようなもんだろ」

いくらかの掛け合いの下、どちらとからともなく礼をする。戦闘開始だ。


 修治は相手の出方を伺う。杖を軸に、左右の重心を器用にとっている。杖持ちということからおおよそ相手は待ちの戦術だろう。自身も稽古の際に足をオーバーワークで壊してはいるが、いくらかはマシだ。先手でしかけるしかない。

 修治は腰の小太刀二刀を抜き打ち、その最中で相手に切りかかる一刀を能力で補助する。峰からごく小規模の衝撃波を派生させることで斬る速度・重量を増やす「激動」という技だ。

 抜刀、すり足、衝撃波の勢い。小さくとも相手に手傷を負わせる自負があった。

 相手に届くとみられた小太刀は杖の取っ手でいなされ、加えて予期せぬ右足での足刀を放ってくる。

 攻撃に挙動が追いつかない。瞬時に相手の足に衝撃波をぶつけて威力を拡散させる。

 小太刀を振るうにはやや手狭な間合い。相手は軽くジャブを数発入れてくる。相手の能力がわからない以上、受けるわけにもいかず能力を行使して威力を減じる。

 幾合か後、修治は間合いを一旦開けるため、相手に突風を浴びせた。間合いが再び開く。

「ふぅ、詠唱もなしに発生かー。厄介な能力だね」

「……あんたもな」

「ああ、ごめんね。ごく短時間なものだから長引くとつらいんだよね


 ふっと息を吐き、杖でもって突きを放ってきた。軽く舌を打ちながら、下がる。自身の能力である衝撃波発生は面の攻撃・応用に長けてはいるが点で来られる攻撃にはめっぽう弱い。相手はあの斬り合いでそれを見たらしい。八の字を描くステッキ術に翻弄され、次第に後退していく。

 ふと湊が屈んだ。長い間剣道を収めていたからか理解するのに反応が鈍る。

 まぶたを瞬く間の中で相手は動く。地面を強く蹴りあげ、跳躍。腰だめの姿勢で杖が煌く。飛び上がったそこから上段に切りつけるそれは鋭い刃を伴っていた。いくらか運が良かったか、小太刀が身を守る盾となす。血しぶきは上がらず、体には熱を持って鋭い痛みが走った。

 肩で息をする。

「仕込み刀か」

 相手は以前微笑みをたたえてすっと懐に手を入れた。修治としてはその隙を付きたいところだがその余裕はない。幾度目かの舌打ちをかましつつ、足に衝撃波を展開させる。相手の目が見開いた。

「へぇ、すごい。空まで飛べるんだ。いいなぁ」

あいかわらず余裕綽々な様子の相手に冷や汗を垂らす。だが、それもこれまでだと心の中で呟いた。

修治はおおよそ相手がこられぬであろう空から衝撃波でもって地上を制圧する。

周りの木々はへし折られ、葉は空を舞う。相手はしゃがみこみ、飛ばされんとしているのが伺えた。余力はない。相手は押されている。今しかない。

 修治は空から急速落下。決め手は連続して衝撃波を発生させ、太刀筋を捻じ曲げる「流動」だ。突風が吹きすさぶ中、彼我の距離が3メートルとなる。

 目の前に、枝が現れた。運がないと思いつつ、相手との距離は無きに等しい。このまま行こうとして自分の勘違いに気づいた。目の前の枝は横から風にあおられたのではなく。地面から生えてきたのだと。

 そのまま修治は全身を枝に貫かれ、痛みの中で湊の姿を垣間見て。声を耳にする。

「油断大敵、だよ」

 その手に数粒種が握られていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ