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快楽殺人者、ハワイに行く3

 オーナーが手を差しだしたので、私はその手を握った。夜の風にふかれながら私達は手をつないで歩いた。ホテルまではすぐ近くだったけど、私達は賑やかな通りをゆっくりと楽しんだ。

「こんな南国で暮らすのもいいかも」

 と言うと、オーナーは振り返って、

「そうだなぁ。でも新店舗建てちゃったし」

 と言った。

「いや…そんな、真剣に答えなくても…でも、無理かな。今日の一件でアメリカ人が嫌いになったし」

「君が移住したら、ここに住むアメリカ人種の絶滅危機だね」

「絶滅危機って…」

 オーナーがにやにやとした。

「でも今日のやつは殺されても文句は言えないわ。そうでしょ? 日本人、ケチデスネーって言ったのよ?」

「殺されても文句は言えないって…殺しといて」

 とオーナーが小声言ったので、私はオーナーをきっと睨んだ。

 オーナーがはははっと笑って、

「君のその顔好きだな」と言った。

「え?」

「こんな事を言うとアレだけど、元はと言えばるりか嬢をやった後の君の顔に一目惚れさ。市長の息子の時も、今日も。趣味を楽しんだ後の君が一番そそる」

「変態」

 と言うとオーナーはまた、はははっと笑ってから私を引き寄せた。往来であるのにもかかわらず、私をぎゅっと抱きしめた。

 でも、オーナーの言い分は分かる。私もオーナーが一番格好いいと思うのは、厨房で甘いお菓子を作っている時だから。材料は何にせよだ。誰もいない深夜の厨房をこっそりのぞきに行くと、ガラスの器に目玉が入っていようとも、だ。うっかり手が滑ってスプーンですくいそこねた目玉を落として、踏んづけてしまって、「やべえ」とかつぶやいてるオーナーもなんだか可愛いし。

 要するに、人間は好きな事をしてる時が一番輝いてるって事だ。


 初日の出だしは最悪でも終わりはなかなか良かった。

 翌日も朝の目覚めも気持ちよかったし、窓の外は真っ青な空で上天気だった。

 だが、私が目覚めた時、すでにオーナーは起きていて、電話でしゃべっていた。 もちろん英語なので私には分からないのだが、相手には拒否しているような感じだった。

 それを寝ぼけた頭でぼーっと見ていたが、私に気づいたオーナーががちゃっと電話を切ってしまった。

「何かあったの?」

「いや、ボブが今日も来てくれ、ついでに何かデザート作ってくれって言うから、断った」

「へえ」

 私は起き上がり、身支度をした。

 今日はトロリーバスに乗って島を回るとかそういう予定だったはずだ。

 ホテルのレストランで朝食を取っていると、

「トードー!」

 と声がした。

 オーナーがレストランの入り口を見て、少しだけ固まっている。振り返ると素晴らしくグラマーな外人女性が手を振り振りやってくるのが見えた。大柄で巨乳だ。 大きな花柄のサマードレスを着ている。すらっとした手足は小麦色に焼けて、輝くブロンドがくるくると揺らめいている。

 身近に外人の知り合いがいないので、誰を見ても女優さんみたいだなぁ、と思う。

「リズ」

 とオーナーが言った。

 リズはすたすたと私達のテーブルにやってきて、一方的にしゃべり出した。

 途中でオーナーが私を紹介したような感じだったのだが、リズは私をちらっと見てからぷいっとあからさまに顔を背けた。な、何なのよ。

「リズはボブとメアリーの一人娘なんだ」

 とオーナーが私に説明した。

「へえ」

 赤鬼…いや、ボブは確かにそこそこだが、メアリーはキュートな女性だった。きっと若い頃は美人だったんだろうと思う。リズが美人なのもうなずける。

 リズはオーナーの隣の椅子に座って、甘えるようにオーナーの腕にしなだれかかった。

 む。

 ちょ、一応新婚なんですけど。それともアメリカ人ってやつはこれはただのフレンドリーな仕草なのよって言うつもりか。

 リズは一生懸命オーナーに何かをお願いしているようだった。

「何て言ってるの?」と聞くと、

「店に来てデザートを作れって言うんだよ」

 と困った風な顔でオーナーが言った。

「ふううん、お目当てはデザートだけなの?」

 と言うと、とたんにオーナーがにやっと笑って、

「やきもち? 嬉しいんだけど」と言った。

「べーつーにー」

 オーナーはリズに向かって首を振って何かを言ってるので、断っているのだろう。だが、リズが承知しない。ぶんぶんとかぶりを振って、しつこくおねだりしている感じだ。

「行ってあげたら? トロリーバスで観光はしなくてもいいわ。オーナーのデザートを食べる機会なんてないんでしょう?」

 と余裕のあるところを見せる。

 ちなみに、私はまだオーナーの事をオーナーと呼んでいる。

「それは…そうだけど」

「私は部屋でゆっくりするか、プールで泳ぐかするわ」

「君も一緒に行くっていう選択は?」

「パス。だって、どうせアレでしょ?」

 昨日の無礼なアメリカ人がデザートになるところなんて興味もなければ見たくもない。

「それに昨日はボブのおかげで助かったし、作ってあげたらいいわ」 

「じゃあ、昼には戻るよ」

 オーナーがリズにOKを出したらしく、リズは両手を巨乳に当てて喜んだが、新婚旅行中の夫を快く送り出した私には感謝を述べるつもりはないらしい。

 というか、私はリズの眼中には一ミリも入っていないようだ。

 

 ホテルの玄関から去って行く二人を見送った。

 リズは大はしゃぎで、オーナーの腕にまとわりつている。オーナーは背が高いのでリズのような大柄な外人女性と並んでもナイスカップルだ。

 理解ある新妻を演じてしまったせいで一人暇になってしまった。

 外出する用意で出てきたので、私はそのまま一人で街を観光する事にした。

 昨日ふいにアイスピックを使ってしまったので、手持ちの武器がない。

 武器がないというのは非常に不安なものだ。

 何か買わなくちゃ。刃物か何か。最悪、カッターでもいい。

 何か手にしていないと不安だ。

 昨日のアメリカ人の売り上げ、五千ドルをオーナーにもらったのでお金はある。

 全額ではないが、少し財布に入れて来た。これで何か武器が買える。

趣味の事に時間を使うのは一人がいいので、リズの登場は好都合だったかもしれない。


 今日もいいお天気で観光客があふれている。

「日本円。使える」と書いてる店があった。

 そこの売り子の少年が、「イチマンエン、ツカエル」と呼びかけてきた。

 無視して早足で通り過ぎる。また「日本人、ケチデスネー」と言われたら適わない。

 また殺してしまうかもしれない。いや、絶対殺す。

 通りを散策して、角を曲がったところに魅力的な店があった。

 私はその店に入った。


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