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チョコレート・ハウス2  作者: 猫又


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16/21

快楽殺人者、アメリカの殺人鬼と出会う6

 屋敷の中はしんと静まりかえっていて、誰もいなかった。だけど後ろからずっと唸りながらついてくる大型犬からのプレッシャーが半端ない。せかされて先へ先へと歩く。まるで僕らをどこかへ誘導しているかのようだ。

 そしてそれはだんだんと階下へと降りていく廊下へ続いている。

 螺旋階段が地下室へ続いている。

 すごくお洒落な造りの家だった。調度品もセンスがいいし、きっと超高価なものばかりなんだろう。だけどこの匂いがアンバランスだ。

 獣のような匂いに生臭さが追加された。そして更にそれを消したいが為に炊いている薬草のような匂いもする。

 地下一階にはオーディオルームと、小振りなプールがあった。

 浴室もあるし、クローゼットもあった。

 トードーはすべての部屋のドアを開けて中を確かめたけど、ミサトの姿はなく、殺人鬼もいない。

 プールサイドで思案していたとき、はっとトードーが僕の方を振り返った。

「トミー!」

「え?」

 グルルルルッという唸り声とともに一匹の犬が僕に向かって襲いかかってきた。

「わああああ」

 僕は手に持っていた燭台をめちゃくちゃに振り回した。

 だけど…それは犬に当たる事もなく、僕はバランスを崩してプールの中に落っこちてしまった。

「うわあぁ」

 凄く泳ぎがうまい! というわけではないが、それなりに泳げるはずなのに、僕はもうパニックになってしまって、ただばしゃばしゃと水の中でもがいた。

「トミー、落ち着け。むしろ水の中の方が安全かもな」

 とトードーが言った。

 確かに僕を襲った犬はプールの中までは飛び込んでこなかった。

 プールサイドを行ったり来たりしながら、僕を威嚇するだけだった。

 トードーがプールの入り口をさっと振り返って、走り出した。

「ちょ、トードー! 置いていかないでぇ」

 僕の声に振り返りもせずに、トードーは出て行ってしまった。だが、幸運にも僕を狙っていた犬がトードーの動きにつられて走り出した。

 犬はトードーを追いかけて行ってしまい、僕はなんとか自力でプールから這い上がった。

「まじ~」

 身体が濡れてジーンズがやけに重い。スニーカーもぐしゃぐしゃと音がする。

 でもしょうがないので、僕はずぶ濡れの重い身体でトードーの後を追った。

 トードーと犬が出て行った扉から出る。

 がんっと頭の中で音がした。後頭部を殴られたようだ。

 急に周りが暗くなり、そして僕は気を失った。


 目が覚めた時にはやたらと寒くてしかも臭くてその上頭ががんがんと痛んで、あー、どうしてトードーについてきてしまったんだぁ、と後悔した。

 身体を動かそうにもぴくりともしない。

 そのはずだ。僕は寝台のような所に寝ていて、身体は何かでぐるぐる巻きにされていた。

 部屋の中は薄暗く、獣臭く、生臭く、薬草臭く、更に、薬品のような匂いもプラスされてもう、何が何だか分からない。

 身体を動かそうとする度に、ガシャガシャと音がするからきっと鎖で縛られているのだろう。

「静かにしたまえ」

 と声がした。ぐるりと頭を動かすと、僕の頭の方向に人が立っているのが分かった。

「だ、誰?」

「人の家に勝手に入っておいて、誰だとは言いぐさだな」

 男の手元がきらっと光った。ナイフを持っている。という事はこいつがナイフ遣いの殺人鬼なんだ。あー、どうしよう。

「ト、トードーは?」

「トードー? ああ、あの日本人か。彼はまだ屋敷内をうろうろしているだろう。私の犬がお相手しているから退屈はさせないね」

「ミサトは?」

「ミサト、というのか、彼女。もちろん彼女もすでにここでお休み中さ」

 お休み中というのが、どういう意味か、聞き返すのも恐ろしかった。

 もうすでにミサトの命はないという意味なのか?

「ぼ、僕たちをどうするの?」

「どうする、だって? 不法侵入しておいて歓迎されるとは思っていないだろう? それに君たちは私の仕事を知ってしまった。お帰りいただくわけにはいかないね」

「そ、そんな」

 不安が胸に広がったけど、少しの疑問にが浮かんだ。僕はこの殺人鬼を知ってる。

 この声に聞き覚えがあるんだ。だけどどんなに頭を動かしてみても、殺人鬼の顔はどうしても見えなかった。

「ぼ、僕の事を知ってる? 僕はあなたの声に聞き覚えがある」

 そう言うと、くっくっくと笑い声がした。

「ああ、君の事は知っているよ。トミー・ウォルダー君。スポーツは苦手だが、成績はすこぶる優秀、学業の合間に食人鬼のボブ・ドライアンの店でバイト。最近、ようやく人肉に目覚めたらしいね。人間を喰うなんて本当に恐ろしい奴らだ。君たちはグールだな。化け物さ」

「そういうあなたは殺人鬼じゃないですか」

「そうさ、人間を喰うなんて恐ろしい化け物よりはずっと上等の人間様さ。だが、まあいいさ。君がグールでも何でも構わないんだよ。この屋敷に侵入さえしなければね。学長は成績優秀な君を気に入ってるし、殺したくなかったなぁ」

「え? 学長?…あなたは…もしかして…テイラー教授!」

 僕が知っているアルバート・テイラー教授は社会科学で民俗学を教えている教授だ。とても優秀で若くして教授になり、人柄もよく、生徒に人気のある教授だ。

 この殺人鬼の声を知っているはずだ。

 僕はテイラー教授の授業を受けているんだから。

「教授…がどうして、殺し屋なんか…」

「どうしてだって? では聞くが、君は何故人肉なんぞ食べるのかね?」

「そ、それは…」

「ただ単においしいから、かな? それとも禁断の所行を冒すという背徳感かな? 君たちのような食人鬼と何人も出会ったが、理由はそれぞれだったな。だが、つまる所は趣味だよ。楽しいから、だよ。そうだろう? 金をもらって生徒に講義をする。金をもらって人命を奪う。同じ事さ。二倍稼げて、こんなに眺めのいい一等地に屋敷を建てる事が出来た。もうすでに一生遊んで暮らせるほどの金はある。大学で君達のような馬鹿どもを我慢して相手にしなくてもいいんだよ。ようやくパートナーも見つける事が出来たしね」

「パートナー…」

「そう、私はかねてから親日でね。知ってるかな? 日本の女性の事はヤマトナデシコというんだよ。ぜひとも日本の女性と知り合いたかった。できれば同じような趣味を持つ女性とね。だがそれはなかなか難しかったよ。ところが、先日ボブの店に行った学長からラッキーな事を聞いた。日本人の女性で凄腕のハンターが来てるらしいとね。早速、彼女を捜したよ。素晴らしく可愛らしい女性じゃないか。わざわざ彼女の前で殺しをして見せた。彼女は眉一つ動かさずに私を見ていたよ。あの目にぐっときたね。私達は分かり合える。きっといいパートナーになれると確信した」

「ミ、ミサトはトードーのワイフです。テイラー教授はトードーを傷つけたから、ミサトは怒ってるはずです」

「ああ、トードーは殺す。そうすればミサトもあきらめるだろう」

「ちょ、待ってください!」

「そうだ、トミー、君の意見を聞いてもいいかな? トードーがミサトに殺されるという設定はどうかな?」

「え? ミサトはトードーを殺したりしないでしょう」

「それはどうかな?」

 テイラー教授がくすくすと笑った。

 トードーの事もミサトの事ももちろん心配だ。

 だけど…だけど…僕は一体どうなるんだろう? 

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