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チョコレート・ハウス2  作者: 猫又


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14/21

快楽殺人者、アメリカの殺人鬼と出会う4

やたらと血相を変えたトードーが店に飛び込んできたのは、もうすぐランチという時間だった。ボブの店はまだ開店前で、僕たちは店の掃除をしたりピザの生地をしこんだりしてたところだった。

「ボブ! ミサトが来なかったか !」

 とトードーは店に飛び込むなりそう叫んだ。

 ボブはぽかんとした顔で、

「やあ、トードー、一体何事だい?」と答えた。

「ミサトが来なかったか?」

 ボブは僕の顔を見ながら、

「さあ、知らんな。トミー、朝のうちはお前が店にいただろう? ミサトが来たか?」

 と言ったので、僕は首を振った。

「知らない」

 メアリーも厨房の奥から出てきて、

「トードー、どうしたの?」

 と言った。

「ミサトが…いや、それよりボブ、プロの殺し屋に詳しいか?」

 とトードーがボブに聞いた。

「この街では知ってる顔もあるが」

 トードーは新聞をばさっと広げて、テーブルの上に置いた。

「この記事だ」

 トードーが指したのはマウイ島のレストランで死亡した男の記事だった。

「こいつが殺された瞬間をミサトが見てしまった。だからミサトが狙われている。俺達の顔は知られてて、ミサトが行方不明になった」

「ミサトが…」

「金髪碧眼で背の高い、華奢な体つきの男だ。そいつはミサトを殺す事を宣言したから確実にミサトを狙っている。ボブ、その殺し屋を知っているか? 知ってたら教えてくれ。どこに行けばいい?」

 ボブはしばらく黙ってトードーの顔を見ていた。

 カタンと音がして裏口からリズが入ってきた。リズはトードーを見て嬉しそうな笑顔になった。その笑顔がリズがまだトードーに恋をしていると告げていた。

 トードーは酷く汗をかいていた。メアリーがグラスに氷水を入れて渡すと一気にそれを飲み干した。そして上着を脱いだ。ジャケットの下は半袖のシャツだったが、右腕には包帯が巻かれてあった。だけど血がにじんできて赤黒く包帯を染めていた。

「トードー! どうしたの! 怪我してる!」

「え? ああ、たいした事はない」

「包帯を代えたほうがいいわ!」

 リズが棚から薬箱を取って、トードーに駆け寄った。

「ボブ! 知ってたら教えてくれ!」

 トードーはリズに構う暇もないほどに焦っていた。

「知らない事もないが…」

 とボブが言った。

「あの男を知ってるのか?」

「ああ、知り合いってほどでもないがね」

「いそうな場所に見当が?」

 焦っているトードーとは裏腹にボブはひどくのんびりした口調だった。

「ああ、ま、そうだな、見当はつく」

「どこに?」

 その時、リズはトードーの右腕の包帯をそっと取り除く作業をしていた。ちゃんと手当していないのか、ガーゼを貼って、包帯を巻いてあるだけのようだった。

「教えてもいいがな」

 ボブはあごひげをさすりながらトードーを見た。

「何だ?」

 トードーはいらいらとした感じだった。

「ミサトと別れて、リズと結婚してくれるなら教えてもいい」

 とボブが言った。

「何を…」

 トードーが呆然とした様子になり、ボブを見た。

「ミサトを助けた後、彼女と別れてくれ。そしてリズと結婚してくれ。リズの気持ちは知っているんだろう?」

 トードーはボブを見てからリズを見た。

 リズはちょっとはにかんだ様子でトードーに微笑み返した。ボブの思いがけない提案に喜んでいる様子だ。僕? 僕も…まあ賛成だ。トードーなら仕方がないと思うよ。

 だけどトードーは即答した。

「断る」

 その瞬間リズは泣きそうな顔になり、ボブはむっとして赤ら顔がさらに真っ赤になった。

「そうか、では仕方がないな。この島であてもなくミサトを探せばいい。死体になって発見されてから後悔しても遅いんだぞ、トードー。しかし、そうなったら高く買い取ってやるさ。日本の女は珍味だからな」

 とボブが言った。

 一瞬、トードーの顔が憎しみで引きつったように見えた。だが、トードーはすぐに行動を開始した。彼はボブのつまらない提案には乗らないと決めたのだ。上着を手にして店を出て行こうとした。リズが、

「待って、まだ包帯を代えてないわ!」

 と叫んだが、

「触るな、汚らわしい」

 とトードーが言ってリズの手を振り払った。

「おい! うちの娘を汚らわしいとはなんだ! 所構わず殺しまくる殺人狂の窮地を救ってやったのは俺達だぞ! たった二日で三人も殺しやがって、気が狂っているのはお前のワイフじゃないか!」

 トードーはボブを見て、

「全くアメリカ人やつは、厚顔無恥でどうしようもない人種だな。そいつを喜んで喰ってるのは誰だ。自分達で調達も出来ないくせに。人からおこぼれをもらうくらいしか能がないくせにな」

 と冷たい声で言った。日本人は激昂というものをしないのか? かっかとしているボブに比べてトードーは酷く冷静に見えた。

「何を!」

 ボブがまだ何か言い返そうとしていたが、トードーは構わずに出て行ってしまった。

「ボブ…」

 僕はボブを見た。ボブもリズもうつむいている。

 ふてくされた子供のように、いらいらをもてあましていた。

「ボブ、いいの? トードーに教えてあげなくて」

「知るか!」

「でも…」

 僕は壁を見た。ぽっかりと空いた壁。この間まではタペストリーが掛かっていたんだけど外されて、それから今日の朝まではミサトの釘打ち機が飾ってあったんだ。

 そう。トードーが来る少し前にミサト自身が釘打ち機を取りに来たんだ。


「全く、日本人は恩知らずだ。ミサトが楽しんだ後始末で三人も処理してやったのに! 俺達がいなかったら、ミサトはすぐにでも裁判で死刑になっただろうよ!」

 ボブはぶつぶつと愚痴を言っている。

「トミー、表の掃き掃除がまだよ」

 とメアリーに言われて、僕は腰を上げた。

 箒を持って表へ出るとすぐにメアリーが出てきて、

「今すぐ、トードーを追いかけて、これを渡してきなさい」

 と言いながら、僕にメモ用紙を渡した。

「これは?」

「トードーの知りたかった事よ。すぐに行きなさい。そして帰りにケチャップ

を買って来てちょうだい。いいわね?」

「う、うん」

 僕は箒をメアリーに渡して、トードーの後を追うべく走り出した。

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