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チョコレート・ハウス2  作者: 猫又


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11/21

快楽殺人者、アメリカの殺人鬼と出会う。

 しょうがないので、一個三百円もするチョコレートを食べる。

 何個も食べてやるわ。

 高価な材料と手間暇かけて作ったチョコレートをむしゃむしゃ食べてやるわ。

 長方形の箱に二個づつ並んで全部で十個いりのチョコレート。

 この小さい箱で三千円だ。消費税が8%になったから、三千二百四十円よ。

 高いわね、消費税。

 大事な大事な丹精込めて作ったチョコレートをむしゃむしゃ食べられて、さぞかし嫌な気分でしょうね。

 と思ってオーナーの顔を見たらそうでもなく、ちょっと笑っていた。

「腹が減ったな」

 と言ったので、それには賛成した。

「ええ、もうリズがあなたの愛人でも隠し子でもかまわないから、食事に行きましょう。お腹がすいて考える力もないわ」

「違うって言ってるだろ」

 そう言い合いながらも私達はようやく部屋を出た。

 豪華なホテルのすぐそばには海しかなく、本当にバカンスに来る人はこういう場所に来るんだろうな、と思う。昨日までの観光客の大波は見る影もなく、それこそ映画のワンシーンのような美しい風景だった。

 近くのシーフードレストランで食事をした。

 ロブスターはゴムみたいで、野菜はぱさぱさで、ステーキも革靴のように堅く、パンにはハエがたかっていたけど、どの席の客も気にする様子はなかった。

 日本人は神経質すぎるのかしら。

 ボブの店の食事の方が何倍も美味しかった。

 現地人は美味しい物を食べて、観光客用にはこんなものなのかしらね。

 それでも満腹になると、生きる活力が生まれてくるものだ。


 私達は窓際の席で食後のコーヒーを飲んでいた。

 昼を過ぎていたので店内に客はまばらだった。

 入り口のすぐそばの席に老人のカップルが座って食事をしていた。夫婦かもしれない。

 派手なおばあさんと地味なおじいさんだった。

 二人はもりもりと食べてビールのジョッキを何杯もお代わりしていた。

 ウエイターがおじいさんのすぐ後ろをすっと通って行った。

 よくある光景だ。ウエイトレスも店の中をうろうろしているし、マネージャーのような黒服もいる。トイレに立つ客もいるし、客に呼ばれてシェフが出てくる時もある。

 だからウエイターが通ったのは自然な事だった。

 だがその直後おじいさんの動きが止まり、手に持っていたジョッキが落ちて割れた。

 おばあさんが怒ったようにおじいさんに何か言ったが、その時にはおじいさんの身体ははゆっくりと傾いていき、そして床に倒れ込んだ。

 おばあさんの悲鳴があがり、マネージャーが駆け寄ってくる。ウエイトレスが驚いて口に手を当てた瞬間に持っていた銀のトレーが落ちて嫌な金属音を立てた。


 オーナーが振り返り、

「どうした?」

 と聞いたので、状況を説明してあげた。オーナーは今の場面に背を向けて座っていたので、何一つ見ていない。

「おじいさんが急に倒れたみたいね。さっきまで元気そうにビール飲んでたのに、脳関係かしら怖いわね」

 と私が言った。

「へえ」

 オーナーは振り返っておじいさんが介抱される様子を見ている。

「ごちそう様でした」

 と私は手を合わせた。

 騒ぎに気がついた他の客がウエイトレスを呼んで勘定を頼んでいる。

「ね、そろそろ出ましょうよ。お腹もいっぱいになったし、あなたの愛人関係について話し合う戦闘態勢はばっちりよ」

 と言うと、オーナーは苦い顔をして、

「まだ言ってる。関係ないって言ってるだろ」と言いながら立ち上がった。

「まあいいわ。あなたとリズの出会い編から詳しく聞かせてもらうわ」

 空腹は無駄な争いを生むものだ。

 満腹になった私はリズとオーナーの恋人関係はもうどうでもよくなった。再びリズに会う日があればあの金髪に火をつけて燃やしてやるぐらいの恨みだけを残して、リズの事は忘れる事にした。とりあえず、日本に戻ったらオーナーとのラブラブツーショットを撮って、ボブの店に送りつけてやるわ。

「それにしても、釘打ち機、惜しかったな」

「あんな危険な物、持って帰れるはずないだろう」

「そうなの? 日曜大工が趣味なんですって言ってもだめかしら?」

「危険物と見なされて没収されるだろう。日本でまた買えばいいさ。日本製の奴を」

「あ、やっぱりそう思う?」

「思うね。電気製品は日本製に限る」

「そうね」

 昼食までに時間をとってしまったので、すでに夕暮れが近かった。

 夕食はオプションでホテル内のコテージのようなレストランにまた出向かなければならないのに。運動がてら、綺麗な景色を目に映しながら歩く。

 私はカメラを持っていない。写真は撮らない主義だ。

 思い出は心と脳みそに記憶させておく、と言えば聞こえはいいけど、いつ死ぬか分からないから思い出はいらない。私には私が壊した者達との思い出だけで充分なのだ。

 なんて事をセンチに考えていたら、オーナーが私をぎゅうっと抱きしめたので、この人は~また往来で~と思っていたら、

「ちょっと聞くけど、背の高い金髪碧眼に知り合いは?」

 と耳元で言った。

「昨日、釘で装飾してあげたリズの友達の金髪白人以外に知りあいはいないわ」

 と答えると、

「そう、じゃ、さっきのレストランからつけてくる彼は何者だろう」

 とオーナーが言った。

「え?」

「少し離れたアイスクリーム屋の横」

 と言ってオーナーが私を離したので、さりげなく離れて目をやる。背の高い男が立っている。確かに金髪だが碧眼かどうかは私には見えなかった。

「つけてくるの?」

「ああ、ずっと同じ方へ歩いてくる。君の恋人? ならそれについても話し合わなきゃならない事態だな」

「アメリカ人の恋人はいないわ」

「アメリカ人じゃなきゃいるのか? 困ったな」

「日本人の変態パティシエだけで手いっぱいよ」

 と言うと、オーナーは嬉しそうな笑顔になった。

「でも、心当たりがないでもないわ」

「何?」

「さっきのレストランでおじいさんが倒れたでしょ?」

「ああ」

「倒れる直前にウエイターがおじいさんの後ろを通ったわ。ほんの少し光ったから細身のナイフかなんかじゃないかしら」

「そいつが殺した?」

「さあ、そこまで見たわけじゃないけど。でも、ウエイターは確かに背が高くて金髪碧眼だったわね」

「君が見ていた事に気がついて、後をつけてきたのか」

「どうかしらね。でも、確かに私はまっすぐおじいさんの方へ向いて座っていたわ」

「やれやれ、じゃ、今度は君が命を狙われてるってわけか?」

「さあ、そこまでするかしら? ただの日本人観光客よ? 見られたかどうかの確認だけじゃないの? 気がつかない振りしてやり過ごせば大丈夫よ。でも釘打ち機があったら楽しい事になってたかもね」

「この島にはボブの店はないから、そうそうやられたら後始末に困る」

「そっか。じゃあ、気がつかないふりして帰りましょうよ」

「暗くなったら外に出ない方がいいな。俺は君と無事に日本へ帰りたいし」

「そうね」

「何より、あの金髪の彼氏の為に君をホテルに閉じ込めておくほうが良さそうだ」

 とオーナーが言った。

 失礼ね!

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