7話 側面、或いは正義
他の勇者ちゃんたちのお話です♪ まあ、正道ですかねー(≧∇≦) 本当はこの話で全部世界観の説明もしたかったんですけど……(´・_・`)フッ……orz
――この世界に召喚されたのはぼくだけでは無かった。勿論、そんなことはぼくは知らないし、この時のぼくはただ、サウルとの居心地のいい時間さえあれば、それで良かっただけだった。
オレは、2人で生活するにはあまりにも大きすぎると言える部屋の中で、1人、うずくまる様に、机に向かっていた。
机の上には、なにもない。いや、この部屋自体にだって、オレが求めているものなどはありはしない。
オレは、自分の顔を覆う、男にしては繊細だと、元の世界で良く姉に羨ましがられた指の中で自嘲する様に、苦い笑みを浮かべた。
そう、オレが求めているのは答え。何故オレや、あいつがこの世界に召喚されたか。というその答えだ。
けして、豪奢なタペストリーや、絢爛な天使像、ましてや宝石などではない。
この世界の住人――とくに貴族――は、オレやあいつがそんな物で買収されるのだと、半ば本気で信じている様だ。
「――……」
声も、息すらも吐き出さずため息をつく、この呼吸という生物全般に必要なプロセスでさえ、ストレスと呼ばれるウィルスに感染すれば、その常時適応され続けるべきプログラムを破綻させる。
ストレス……オレにも、そんなものを感じる様な可愛げがまだ残ってたんだな……。苦々しい想いが胸の中を駆ける。だが、もはやため息をつくような余裕さえ、オレの心からはうしなわれていた。
……思い出されるのは2日前の事だった。あまりにも、あっという間の事だった。
学校へ向かうため、いや、毎日毎朝の始まりのため、オレが家を出て、暫く歩いていた時だった。
形容しがたいその現象はただ、光、としかいいざるえない。目の前が突然、なにもない、強いていうならただ、光に包まれ、さらに一瞬が過ぎれば目の前にはオレがほんの僅か数秒見ていた景色はそこには無かった。
そう、すべてはその刹那の内に起こっていた。なにもかも、自分が認知することもなく。
その、オレがあたらしく肌に触れる世界に、五感が慣れるまでにまたたき程度の時間を要した。
気づいた時には、オレは冷たい、大理石の床に直接座っていた。
目の前に写っていたものは、大勢の人、石造りの壁、見慣れない植物、そして足元の幾何学模様。
人々は現代の人間平時がみにまとう様なものではない服装を着ており、まさにそれがなんなかの儀式の最中であるということを、オレに無意識に突きつけ、その彼らの無遠慮な視線は、オレに、そして、オレと同じように驚愕と混乱とが入り混じった目で辺りを見渡す2人の少年と少女を貫いていた。
「――あぁ……」
その、石造りの空間に、誰かの惚けた様な声が響いた。
それが発端になったかの様に、まるで堰を切ったかのごとく、その石造りの空間に感嘆の多分に含まれた声があふれる。
そんな、異様な光景の中で、オレは、オレと同じようにこの場で惚ける2人の事を盗み見ていた。
それは、男女が一人づつ、で、男の方はオレとそう変わらない歳だろうか? ブレザーやネクタイを着乱したまま、ショクパンを口に咥え、辺りを見渡している。みるからに間抜けそうだが、その純粋な瞳はどこまでもまっすぐで、キラキラと澄んだ瞳はどこか、この状況を楽しんでいるかのように思える。
もう一人は……。
――この時、オレはまるで身体中に電撃が走るかの様なショックを受けた。それがなんなのかは、2日たったいまでもわからない、だが、その感覚はあまりにも、自分自身の身体には身の余るもので、どこか、抑制がつかずいまでもこの時のことを思い出す。
それは、柔らかそうな髪の毛を肩甲骨当たりまで垂らし、前髪は、不安そうに揺れる目にかかっている。小さく見開かれたぱっちりとした二重まぶたで、長い、ナチュラルな睫毛がよりそれを大きくはっきりとしたものに見せている。鼻筋は、日本人とは思えないほど美しいラインで、どこか憂いを帯びた横顔をより麗しい物へと昇華している。
唇はグロスを塗っているのだろうか? しっとりとした潤いを持った形の整った肉厚質な物で、やはりこれも美しい。
そう、美しかった。彼女はただ、一言では言い尽くせぬほど、美麗だった。だが、そんな美しさは触れてはならぬ芸術品の様な気高い美しさではなく、脆い、ガラス細工のように繊細で、壊れやすそうな印象を与える。
すると、石造りの空間に一つの声が上がった。女の声だ。
オレは、その声で我に帰った。そう、今の今まで、オレはこの可憐で華奢な少女に見惚れ、我を忘れていたのだ。
オレはムチに弾かれた様な衝撃を受けるとともに、声がした方へ意識と顔を向けた。いまだにこの少女に対する未練がある自分が恨めしい。
「――勇者様」
その女性は、開口一番、そういった。その女性も、この少女に劣らず美しい外見をしており、まず日本人ではないだろう。印象的なアメジストの瞳がほんのり桜色をしたきめ細かい肌によく合っている長い、黒絹を思わせる細やかな髪が流れ落ちるままに、背を泳いでいた。歳は……18ほどだろうか? もしかしたらもう少し下かもしれない。
「勇者様、我々イシュトリアの民の呼び掛けに応じてくださり、誠に感謝の言葉も御座いません」
呼び掛け……?
そう聞いた瞬間、脳裏にフラッシュバックするのは、オレがこの世界へくる瞬間きいた、歌うような、不思議な旋律。
――「■■■■■ ■■■■■ ■■■■ ■■■。」――
いまも、ふとした拍子におもいおこされるその祝詞のような奏での声が、今更ながら目の前ではなすその女性の物だと気づいた。
「呼び掛け?」
オレの背中の直ぐ後ろの方から声がする。さっきの間抜けそうな少年の方だ。いつの間にかパンは食べ終わっていたらしく、くりくりとその澄んだ瞳を広げて女性へと独り言にも聞こえる音量で返していた。
それを、耳敏く聞き取った女性は、その少年に紫の瞳を細めながら、答えた。
「……はい、我々イシュトリアの国の神官が、膨大な魔力と引き換えに、太古の昔よりこの神殿に伝わる『召喚の門』にて、勇者様方にお呼び掛けいたしました」
『召喚の門』……というのは、この幾何学模様の円のことだろう。おそらく、オレたちはここから召喚とやらをされたに違いない。
「じゃあ、やっぱここは異世界なんだな!」
その大きな声は、やはりあの間抜けそうな少年の口から響いてきた。黙っていれば眉目秀麗な少年であるのだが、如何せん言動が幼いような印象をうける。
女性は、秋の夜空の様な髪の毛を僅かに払う仕草をして、その少年の言葉に返した。
「……確かに、ここは勇者様がたの世界から見れば“異世界”で御座います」
にこりと、白魚の様な肌の中に、小さな微笑みを浮かべ、その少年を覗き見る女性。
またも少年が女性に次々と質問しているが、オレの頭にそんなことは関係なかった。
頭がじんわりとしびれた様に重たい。隣で青い顔をしている少女も、同じなのだろう。だが、時折後ろの片膝をつく少年をチラチラと盗み見、その度に驚いた様に目を開く。その瞳の色は、色素の薄い茶色で、彼女の髪の毛もよく見たら一本一本がきめ細かい天然の茶髪だった。
「……で、おれらはなんでこの世界に呼ばれたんだ?」
ここにきて、あの間抜けそうな少年が漸くオレにも有益そうな質問をしだした。
その女性の返答はまさにその質問を待っていたとばかりにイキイキとしたものだった。
「はい、我々イシュトリアの民が、勇者様を召喚させていただいたのは、ほかでもありません、古より人の地を奪う“魔族”から、我々人間の地を取り返していただきたいからです」
“人間”の土地を“魔族”から奪い返す……。傲慢だな。
心の中の呟きは、そっと、波紋のたたない湖に小石を投げ入れるようなものだった。
結果は勿論、妙に冷めたところから、彼らの問答を聞いている無感動な自分に自己嫌悪を引き起こしただけだった。
「まぞく?」
小首をかしげる気配が後ろからする。こいつは見た目以上に中身が間抜けらしい。
「はい、“火の勇者様”、魔族は、我々人間が神代の時より受け継ぐこの大地を奪う、悪しき種族で御座います」
悪しき種族ね。人間と魔族、どっちが悪しき種族なんだろうな。
「火の勇者様て……おれは日下部 竜登! りゅーと ってよんでくれ!」
こんなところでどうでもいい自己紹介をしだす間抜けそうな少年……竜登。子犬を思わせる弾けるような笑顔に、女性は目を細める。
「そうですか、りゅーと様。それではわたくしも僭越ながら自己紹介を……わたくしの名はカタリナ。この国の第2王女を務めさせていただいております」
また再びにこりと浮かべられた笑みはどこかつやめかしげにオレの目に映る。
「――これが、2日前……」
オレは、カタリナの笑顔を最後に、顔へとさかのぼっていた記憶を現実の今へと引き戻した。
部屋は相変わらず満たされず空虚で、この城のいたるところに配置されている天使像が悩めるオレの事をただ冷ややかに見下ろしていた。
と、再び漠然と記憶の旅を開始しようとしていたオレの耳に、唐突に無遠慮に開かれた扉の大きな音がその意識を遮断する。
「タケルー! カタリナがよんでる! 図書室だって!」
なにがそんなに嬉しいのか、この2つ下の同室人は裏表のない、輝くばかりの笑顔でオレを呼びたてにきた。
……どうやら、今日はカタリナ直々にこの世界の事などの講習が行われるようだった。
「……わかった、わかったから落ち着け。竜登」
オレは、また声も出さず心の中だけでため息をつくと、この世界にくるまえに持っていた鞄を掴んだ。
そのことに不思議そうに首を傾げる竜登。
「え? なんか持って行くの?」
この質問にオレは今度こそ、声をだしてため息をついた。心の中だけで行うため息よりもずっと開放感があって健康的だ。
「どうせ色々教わるんだ、紙と筆記用具くらい用意しておこうと思ってな」
オレが先月16歳になったばかりだという同室人に質問の答えを返すと、竜登はしきりに感心したようにうなづいた。
「おー、流石に高校三年生は違うなぁ」
と、はんな納得の仕方を為れたが不思議と不快にはならない。お前は何ももっていかないのか? と質問しようとして辞めた。こいつは召喚されたときには、鞄を持って居なかったし、そもそもまともに授業をうけるようなタイプではないだろう。
「……じゃあ、まあとりあえず行くか」
何故かしら疲れた様な態度をとるオレを不可解そうに眉根を寄せる竜登を無視して、オレが部屋の扉を開けた。その瞬間だった。
「――ッきゃ……!」
半開きになった扉の向こうで何かが軽くぶつかる様な音と、小さな女の子の悲鳴、そして最後に尻餅をつくような三つの音が廊下に響いた。
2人ともが一瞬動きを止めたが、真っ先に動いたのは竜登だった。
「おーい、大丈夫ですかー? て、ルチアじゃん。おまえも図書室に向かうとこ?」
部屋から完全に出て、誰が扉にぶつかったのかを確認したところ、そこで倒れていたのはオレたちと同じ、召喚されたあの少女だった。
「あ……リュートくん、タケルさん、ごめんなさい、ご迷惑かけちゃいました」
リュートに手を貸してもらって起き上がり、反射的に服を払った後に、顔を赤く染めながら、はにかむ様に謝罪の言葉を口にする少女、ルチア。
彼女は話を聞く分にはクォーターだという。どこか日本人離れした美しい容姿もそれならば合点がいく。
と、謝罪の言葉を受けたオレ達だが、悪いのは完全にオレの方だ。
「いや……寧ろ此方こそ済まない。……怪我は、ないか?」
転んだと、いってもそこまで強く尻餅をついた、というわけではなさそうなのだが、一応聞いておく。
だが、やはり帰ってきたのは「大丈夫です」という言葉と柔らかい笑顔だけだった。
「そっか、なら良かった……図書室へいくんだろう? だったら……」
「一緒にいこーぜ!」
オレの言葉を途中から奪う様に現れた竜登。畜生。
オレと竜登、2人から誘いを受けた小柄な少女は、困った様にはにかみながらも、オレ達の誘いに応じてくれた。
☆
図書室に移動したオレたちは、そこで予想通り、カタリナからこの世界にかんする抗議を受けていた。
いまは、かつてこの世界に召喚された勇者の歴史についてやっていた。
「その勇者様は当時ただ1人召喚され、全属性を身に宿し、さらに魔力を無効化する力も持っていたと言われています」
魔力に属性か……。
オレは、疑問に思ったこな二つの単語について質問しようと口を開きかけたところで、今度は竜登ではなく、ルチアが先に質問を発した。
「あの……そのよく聞く“魔力”って、一体なんなんですか?」
最初は戸惑いがちに、けれど最後は確固たる意思をもった質問だった。
その、ルチアの質問にカタリナは形の良い眉を幾分か柔和な形になる様にさげて、応じた。
「魔族のみ、扱う事のできる力で我々にも詳しい事はわかりません。ですが、例外的に人間でも扱う者はおりますよ。勇者様を召喚できたのは、そういったものの力でございます」
前半は淀みなく答えていたが、後半……特に、例外の辺りから少し良いにくそうに目をそらしながら答える。なにか、言いたくない事でもあるのか?
「えと、じゃあ、属性とは……?」
ルチアも、そのカタリナの態度の変化に気づいたのだろう、深く食いつかず、また別の事を質問する。
「はい、りゅーと様が“火”ルチア様が“水”タケル様が“空”と言った様に、この世界の魔法にはさらに“土”を含めた四つの属性が御座います。違いはどのうに特化しているか……“火”ならば攻撃力に“水”ならば回復、“空”が偵察。と言った様に属性でそれぞれの得意分野が異なる、と言われています」
オレは、カタリナが話した事を随時ルーズリーフに書き留めている。だが、まだ肝心の部分が埋まって居ない。……いや、それはまだいいだろう。
「……属性は全部で四つなのですか?」
オレは、出来るだけ丁寧に聞こえる様に気をつけながら声を発した。どうやら、オレ達と彼女達との意思の疎通は魔力を媒体にして行っているらしく、此方のイメージをあいてに伝え、それがあいてにはあいての言語として聞こえているらしい。そのため、元の世界よりも意思の疎通は苦労しない分、また別の部分でかみ合わない部分が出てくる。
「はい、 すべて、その四つの属性だそうです、過去の勇者様も4人召喚されたり、1人だけなど形は様々ですが、必ず四つの属性で召喚されたと言います」
……必ず、ね。
「では、今後誰かに土の属性が宿るのですか?」
「……それは、わかりません。ただ、土の属性は象徴するものが浄化であるため、形はどうあれ、必ず現れると思います」
その目は、これまでないほど真剣だった。
――そう、確かに、彼女は“必ず”現れると言った。
だが、だれも、あんな形で現れるとは、予想もして居なかっただろう。
「――!」
な……?
その時、反応したのは、オレだけではなかった。
図書室にいるカタリナ以外の三人がほぼ、同時に同じ方向に視線を向けていた。
その目指す方向はオレたちが召喚された石造りの神殿。そこから、大きな魔力の高ぶりを感じたのだ。
魔力を感じられないカタリナはどうしたのですか、と首を傾げているがオレ達は確かに感じていた。
また再びなにかが、異世界から現れたのだと。
「――タケル! もしかして!」
「ああ……! 行こう」
そう、いうが早いがオレと竜登は走りだしていた。
そう、もしかしたら、新しい仲間――犠牲者――が増えたのかもしれない。オレは、いても立っても居られなかった。
先に、神殿に到着したのは竜登で、オレは、神殿の入口のところで半ば呆然と立ち尽くしている竜登の背中をみて首を傾げた。
「どうした、竜登」
「タケル、あれ!」
そう、混乱の大きく入り混じった声と共に指さされたのは……
円形の幾何学模様の中心に鎮座する『三日 浄土』と名前の書かれた、自転車だった。
それにしても、この子たちと主人公くんがめぐり合う日はいつになるだろうか