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終話 浄土、或いは穢土

最終話です

 ぼくの口からつむがれた言葉。


 しかし、其の言葉はまるでぼくのものでないかのように、いまだ長々とつづく詠唱をとなえつづける。


 よくしった唄のように、無意識に、あるいはからだを操られるようにして、ぼくの魔力が、目の前の少女に集中して、かき消されて、霧散して、魔法円の中に溜まっていく。


 行き場をなくした、ぼくの魔力は、そうして、精霊達によって築き上げられた障壁の前に、更に右往左往を繰り返していい手、そして、唐突に地面に穴を開けて、どんどnと、地価の世界。土の中。この大地を血管のように張り巡る霊脈の中にながっれこんでいった。


 ふと、息ら利、そこにあったものが消える、不快感に、ぼくは目をぎゅっと閉じた。


 瞬間、明暗がまぶたに閉ざされ、世界から色が消えうせる。


 はじけるような感覚、肉の蓋を通してなお強烈な閃光がぼくの目を焼いた。


 「ンっ!?」


 驚きに耐えかねて再び僕が目を開くと、言葉ではとても言い表せ無いような変化が世界には訪れていた。


 なんと、全てが、とけている!


 ぼくは、おもわず回りをみわたした。よくみると、勇者くんたちも目を見開いて、ぼくと同じように、この不可思議な世界の溶解に驚いていた。


 いや、それは正確には世界の溶解てゃいえなかった。解けているのは世界のほうではない。


 世界のこの世に遍く全ての物質を覆っていた魔力が、カタリナさんの力を乗せた『寂光浄土』によって、解け、消え行こうとしているんだった。


その光景は、表面に取り付いた魔力が剥がれ落ちるでも、トカゲの尻尾のごとく切り捨てられていっているのではない。


 元々1つに融合していたものの、片方が、そこからとけ要るように消えうせていく。


 氷が水の中に消え行くように、雪が、大地の下へ吸い込まれるように……


 ぼくの放った魔力はテンペストによってこの世界に張り付いた結晶たちとともに、炎に、海原に、大気に……そして、大地へと消えていった。


 世界は、再び色を取り戻していた。


 「すげえ……」


 誰かがつぶやいた。大方、竜登くんだろう。


 ぼくも、今の自分の行った光景をみて、とても素直に沿う思った。


 そう、とってもきれいだと。


 ぼくがそんな竜登くんの言葉につられて後ろを振り返ると、そこには、たくさんの見覚えのある顔を、たった一人、顔を知らない女の人がいた。


 結晶から開放されたサウルや銀狼のお祖父ちゃんと同じように、きっと、今しがた、あのテンペストの結晶から開放されたんだと思う。


 ほかの、サウルたちと同じように気を失っているけど、ちゃんと呼吸してくれている。


 ぼくが、他の勇者たちや、カタリナさんのことも無視をしてサウルのお母さん……クララさんのもとへと意向としたそのとき、僕の前に立ちふさがる黒い影があった。


 銀色の仮面に眩いばかりの光を反射した、白銀の蝶々……パピヨンだった。


 いきなり現れ、僕の前に立ちふさがったパピヨンに、ぼくは心臓が止まるんじゃないかというくらい驚いた。


 だから、とっさにはパピヨンの言った言葉が理解できなかった。


 「お急ぎください、主様! 既に魔蔵様が西の森にてお待ちです。」


 え……?


 しかし、一瞬とはいえ硬直していたのはぼくだけだった。


 パピヨンの声を聞いて、火、水、大気の精霊達が一斉に……一体何かを惜しむかのように顔に緊張を走らせた。


 だけど、そんな精霊達の変化は僕にしか気づかれなかったようで、こんな時には、必ずと言っていい程真実を探求しようとするタケルくん出さえ、なんだか少しあわてているように見える。


 でも、そんな、悲しいまでにざわめいているぼく等の心の荒波を押さえ込んだのは、今まだに魔法円の中で肩で息をしていたカタリナさんだった。


 「行きましょう!」


 「カタリナ!?」


 「そもそも、これは、本来イシュリアの民であるわたし達行わなく手はならないものだったんです」


 あわてた声をだす竜登くんを、説き伏せるように言うカタリナさん。


 その紫色の瞳には有無を言わさない強い光が……魔力が在った。


 どの、瞳孔の輝きに押されてか、一寸たじろぐ竜登くん、カタリナさんはそんっま好きを見逃しはしな買った。


 「行きましょう!」


 そういって、言うが早いが駆け出して言ってしまうカタリナさん。


 不思議に、彼女が駆け出していってしまうと、ぼくの魔力で覆われた魔法円は、一瞬にして、瞬きほどの間で消えうせてしまった。


 いつの間にか、竜登くんも、どうやら悩みながらではあるらしかったけど、カタリナさんを追いかけて追ってしまったらしい。


 ぼくも、内心の不安をこめて傍らのパピヨンを見上げたけれど、其の視線からは何にも読み取れないで、ただ、パピヨンが頷いたのがなんとなくわかっただけだった。


 でもきっと、ソレはやっぱり、ぼくに行けといっているんだろう。


 ぼくは、一瞬だけ、ぎゅっと、目をつぶった。ほんの刹那、暗闇の中に光が爆ぜて、ぼくはもう一度目を開いた。


 瞼の裏の薄明かりが取り残されて、少し青色がかった、視界がもう一度開けた。


 ほんの少し、これから何が起こるか怖いけれど……


 ぼくは、駆け出そうとした足を、躊躇させて、後ろを振り返った。


 真っ黒いトガの無効側に横たわる青年に視線を寄せた。


 きっと、これが最後の挨拶になるから……


 「ばいばい、おにいちゃん」




 




 帝都西の森は、ぼくが始めて此処を訪れたときの様に、どこまでも清涼としていた。


 目に触れる全てのもの達が、一斉に光の魔力を反射させて、半透明の輝きを何もかもがまとっていた。


 そして、ぼくは……いや、ぼく達は、ぼくが、この世界に始めて降り立った場所に来ていた。


 土蔵、魔蔵とグラスホッパー…火、水、大気の精霊達、その契約者たち。


 そして、ぼくと、ぼくの誘拐したお姫様。


 ぼくらは、1つの見たことの無い魔法円の前に、ソレを囲うように立ち並んでいた。


 「さあ、じゃあ、異界よりお越しの皆様がた、『神円』の内側に入ってください」


 魔蔵が、おどけたように、あるいは精一杯に厳かにぼく達につげた。


 ぼく等は遊園地で案内される人たちみたいに順番で魔法円の中に入っていた。


 そして、ソレを精霊達が囲う。あの時とはまるで逆だ。


 ぼくを正面から見据えるように、カタリナさんが立った。


 「さあ、ご主人サマ。憂いも悲しみもなく、今ひとたびお使いください」


 もはや、なにを。などと言う段階は過ぎ去っている。


 だけど本当に使っていいの……?


 ぼくは疑念の思いに魔蔵を見る。色の違う双眸が怪しく光るだけ、返答はやってこない。


 もう、サウルは目を覚ましたろうか? なんで、あの時パピヨンは残ったンだろうか? ぼく等がこのまま帰ったら、カタリナさんはどうなるんだろうか? 皇帝は?


 もし……もし……もし……


 「ご主人サマ」


 でも、ぼくの疑念は、いつの間にか曖昧になっていって、気がつけば、魔蔵に促されるまま、その詠唱を終えていた。


 これが、最後の『寂光浄土』だ。


 瞬間、視界が光でも空気でもないもの――魔力に満たされて、真っ白になって……


 ぼく等の、姿は、この世界から完全に掻き消えていた。










 「行っちゃたね……」


 「ああ」


 オレは、万感の思いを込めてつぶやかれたのだろうその言葉に、ただそうとしか返せなかった。


 目を向ければ、だんだんと、ただの土塊に帰ろうとしているそいつの姿があったからだ。


 「お前も……逝くのか?」


 オレの言葉に、何でも無いかの用に首を折る魔蔵。


 「うん、元々無理やり引き伸ばした寿命だからね、大丈夫、土蔵も一緒だから寂しくは無いんだ」


 オレは、口のなかでもごもごと、そうか、としかいえなかった。


 「じゃあ、約束どおり、カタリナは王都に送り届ける、安心して逝け……人間の国にはオレがいるから、もう人魔で無用な争いは引き起こさせないようにする」


 オレはせめて、死に行く魔蔵の心が安らかになることを祈って、離しかけた。


 既に下半身は完全に腐葉土に混ざり上も色をなくしている。


 「そ……まあ、こっちにはパピヨンが残ってくれるにたいだし、安心かな……」


 ああ、そうだな。


 オレの、風にかき消された言葉は、あいつに聞こえただろうか……


 オレは、気を失っているカタリナを肩に背負って、人間の国へと歩を向けた。








 がっしゃーーン!!


 「うぃてて……」


 一体、何が起こったんだろう。


 ぼくは、いつも通いなれているはずの桜並木で横転してしまった。


 そのときにぼく愛用の自転車も派手な音を立てた。


 ううんと、確か、あのときいきなり眩しくなって……って!  


 そんなこと考えてる場合じゃない!


 ぼく、遅刻しかけてたんだった!


 ぼくが、あわてて自転車を抱え起こそうとすると、後ろで、ぼくと同じように転んでしまったのか、体を起こす少年がいた。


 さっきすれ違った、他校の男の子だ、そんな男の子と、ふと目が合った。


 初めて見るはずなのに、とっても懐かしい目だった。


 向こうもおんなじことを思ったのかな……?


 心なしか、目を大きく開いているように見えた。


 見詰め合ってる時間はそんなに長くなかった。ぼくは、自転車をあわてて起こすと、そのまま、其の男の子に背を向けて走り出した。


 なんとなく、またその子に会える予感に、胸をふくらませて。








  END 

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