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59話 ……、或いは――


 「な……なにを!」


 ついに、そこかしらから魔蔵に対する罵声が、あるいは悲鳴が聞こえてきた。そりゃそうだ。


 だあって、ぼくも悲鳴を上げたうちの一人だもん。


 そんな、あんまりなにお決まりなぼくらの反応に、またまた、魔蔵はため息を吐いて終わったはずの講釈に更なる通月を付け加える。


 「はあ……ほんっとうに、君ラは何にもわかってないんだな! 彼女の力は確かに魔力を打ち消すだけだから、このテンペストから開放されないいんだっていう意見はわからなくはないけど、そもそも、『寂光浄土』でカタリナ姫が傷つくあけないじゃないか!」


 どいやら、僕ラの悲鳴はあんまりに場違いなものだったようで、ついに魔蔵が声を荒げ始めた。


 「それで、彼女の力を『寂光浄土』に乗せて霊脈を伝わらせるんだ!」

 いらいらしているとも見えなくない魔蔵の言葉に、意見を返すという』勇気ある行動をするものが現れた。

 いや、どちらかと言うと蛮勇かも知れない。


 そんな事をするのはもちろん……


 「そ、そんなことできんのかよ!」


 竜登くんの、やたら大きな声が響いた。魔蔵が露骨に顔をしかめたのは、質問の内容に対してか、それとも声の大きさに対してか。


 「もちろんできるさ。『寂光浄土』は異界にも干渉する魔道の極みだからね」


 どこと無く得意げに言う魔蔵にまたも口を挟む存在があった。


 「で、でも……どうして、それならすぐに、きよと君と契約したときに使わなかったんですか?」


 気弱そうに、やや警戒しながら問いかけをなげるのはルチアちゃんだった。もっと消極てきだとばかりおもっていたけどそんなことはなかったみたいで、むしろ挑むような雰囲気さえ見受けられる。


 どことなく細められた目には、いままでぼくが一度も宿したことの無い小さいけど激しい炎が踊り狂っていた。


 そんなルチアちゃんの態度に気を張る区するでもなく、寧ろ今度こそ面白そうに唇の端を歪めながら魔蔵は回答を述べた。


 「だから、言っただろう。僕は、今日のこの日に使われる『寂光浄土』をより磐石にするために、奔走してきたって」


 そんな、人を嘲弄して嘲笑うような魔蔵にもどり、これもまた、ひどく神経を逆撫でする視線をおくる。


 でも、その魔蔵の言葉に次なる質疑を放ったのはタケルくんだった。


 「それは、精霊たちのことか……?」


 きびしく、悩ましげ重たい口を押し開いて出てきた言葉に、魔蔵は首肯を帰した。


 「そ。そのとおりだよ。それに、君ラの力不足で、精霊達が満足な力を出せないということもあったし、130年の時の流に霊脈もわずかに変異していてその調整とかね」


 と、魔蔵やタケルくん達が難しい話をしているところに、ついにしびれを切らしたのかカタリナさんの凛とした声が響いた。


 みんなの視線が、一斉に、それこそ矢のように集中する。


 力強い眼で、ぼくと、それから魔蔵をねめつけ、そして、いった。


 「……わかりました。わたしの力が……130年前から連脈とながるる獅子王の血が、我が祖国を、そしてこの世界を救うなら、喜んでわたしはこの身を捧げます」


 「なっ!? カタリナっ!」


 竜登くんの驚く声が耳を劈く。


 タケルくんやルチアちゃんは声にこそ出していないけれど目を大きく見張り、顔いっぱいに驚きがひろがっている。


 いや、どちらかというと声も出ないほど驚いているといった方が正しいのかも知れない。


 竜登くんの言葉や、タケルくん達の無言の訴えに言葉もなくかぶりをふるカタリナさん。相当に決意は固いらしい。


 そんなカタリナさんをつらそうに……痛いところを見るような眼で見つめる竜登くん。そこには、焦燥感ばかりがうかんでいて、見ているぼくまでつらくなってくる。


 「……本気、なのか」


 ややあって頷くカタリナさん。


 唐突にぼくは、騙されたとは言え、そして、彼女の力が無ければ、ぼく等は元の世界に帰れないとは言え、彼女の家族を石に変えてしまったことを激しく後悔した。


 ぼくが、そんなふぅに、己の罪悪感によって葛藤していると、ふと、本当にそれこそ唐突に。


 竜登くんと目があった。


 燃えるような、激しい炎を宿した目が、カタリナさん越しから僕を射抜く。


 その目は、切実にこう訴えかけてくる。


 変なマネしたらぶっ飛ばすぞ。と。


 恐ろしいほどの身震いが起こった。


 彼の魔力がぼくの精神に干渉してきてるんだろうか? ソレはないか。


 そうして、いつのまにか、彼女――カタリナさんは、ぼくが最初にこの空間。『星の閨』に描いた魔法円の中心に立っていた。


 その彼女を覆い隠し、そして守るようにして、3人の少女と、1人の少年があ、魔法円の外周に並び浮かんでいた。


 よく見ると、少年の左目は紅蓮を思わす赤い瞳……土蔵だった。


 更に、それを心配そうに見つめるのはタケルくんとルチアちゃん。


 若干、1名ぼくの7ことを激しく睨んでくる。怖い。


 「さあ……主様」


 と、肩に手を置かれ、みなまで言わずにぼくを促したのはあパピヨンだった。


 いつの間にか、魔蔵の姿は見えなくなっていて、グラスホッパーもどうやらいなくなっていた。


 ……覚悟を、決めるしかないとかな。


 ぼくは、ぼくを支えてくれるように肩を持ってくれるパピヨンを仰ぎ見た。


 すると、パピヨンも、真剣に口を引き結んで頷いて見せてくれた。


 ……よ、し!


 「影霧に 水面に映りし 夕闇の 影も闇をも 切り裂ける











  ――『寂光……浄土』」 

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