58話 転生、或いは新生
魔蔵は今なんていった?
ぼくは0・5秒くらい前の言葉が何度も頭の中でリフレインして、激しくなっていく。きっと頭の許容量がオーバーしちゃったんだ。このままじゃぼく、ばかになっちゃう。
そんな、下らない危機感に駆られたぼくは、感情の逃げ道を探して、ついに、小爆発を起こすように叫び声をあげてしまった。
「もう一度『寂光浄土』を使うだなんて、〈嵐〉を引き起こすようなものじゃないか!」
ぼくの、悲鳴にも似た講義の言葉に瞬間、竜登くんや、カタリナさん、タケルくんが青い顔、赤い顔になって、ぼくをふりむいた。
その顔には、はっきりと「本当か?」とかかれている。「本当なら絶対に使うな」と。
だけど、精霊たち……特に、ぼくの生み出したこの場にいる4人のゴーレムは平気な顔をしている。どうやら、魔蔵の言葉の真意が理解できていないのは、ぼく等人間組たちだけらしい。
なんとなく面白くないから、抗議と説明を求めて、軽くゴーレムたちにむくれて見せると、代表してパピヨンが滑らかな声で説明を始めてくれた。
「……この度に引き起こされた〈嵐〉は、全く『寂光浄土』の本質を理解せず、見誤って引き起こされたものです」
……つまり、ちゃあんと、正しいやり方でおこなえば怪我はしません。てこと?
ぼくは、そのパピヨンの言葉に納得されかけるけど、よくよくみたら、勇者くんたちは寧ろ鼻白んだ目でぼくの精霊たちを見つめていた。
「嘘くせえ」
不意に竜登くんが食って掛かった。
竜登くんのその瞳には、今度は燃えるような光がちらついて、ぼくが怒られているかのように恐怖と罪悪の感情が湧き上がる。
竜登くんは将来警察官か何かになれば、相手に無実の罪を告白させることができちゃうと思う。
事実、竜登くんの体からは、その怒気に呼応するように赤い魔力が炎のように揺らめいている。
あんな膨大な魔力量の持ち主が来たから〈嵐〉が起こったんじゃなかろうか?
ぼくの頭の中が下らない思考でいっぱいになり始めたとき、今度はグラスホッパーがパピヨンの言葉に助勢を加えた。
「だがリュウト、パピヨンの言ったことは全て事実だ。確かに、言葉は足りなかったがな……」
そういって言葉を切るグラスホッパー。視線が明らかに魔蔵の方へ向いていてこれからの説明をもとめている。
その視線を受けて、再び皮肉気に唇を歪ませると、魔蔵は竜登くんの憤りを沈めるとうに、また唇を開いた。
「そもそも、彼ら……つまり、ボクの子孫達は、あの魔術が一体どの用なものか、ソレすら理解できていなかったんだよ。この、空前絶後の大魔道師ドグラ・マグラの人生最後に記した至高の土の魔術をね」
嘲笑的につむがれた言葉にぼくのおつむはちょこっと混乱してくる。
そもそも、じゃあなんで魔蔵はこの魔術を作ったの?
ぼくの疑問は、まあたまた民が抱いていたもにおと同じだった見たいで、今度ばかりは、精霊達も不思議そうな顔ばっかりだ。平気そうな顔をしているのは、とうの魔蔵と、その傍らの土蔵だけだ。それに、たぶん、魔蔵の言うことには盲目的にしたがっているだけで何にも考えていないし。
ぼくの失礼な独白は誰にも聞かれないで、魔蔵の種明かしは続いていく。
「だけど、ご主人サマと契約して僕ラが一番最初に使おうと考えたのも、また『寂光浄土』だったんだけどね」
んん……ぼくはついにわけがわから無くなって首をひねってしまった。
よくみると向かいがはで、竜登くんもおんなじ様な顔をしていた。
なんとなあく、屈辱的。
「僕はそのため、各地を駆け回り130年前の魔道書を探し回って勇者達にプレゼントしたんだ……君ラと遊んでいた時間も、全てはなにもかも、今、まさにこの瞬間こそに、ご主人サマに『寂光浄土』を使ってもらう為だったのさ」
このとき、そのまま言葉を続けようとした魔蔵をさえぎり、いままで死塚に聞いていたタケルくんがついに口を挟んだ。
「……つまり、お前も結局はこの惨状を引き起こした連中と同じように自分の魔術の集大成を試したかっただっか?」
タケルくんのそんな質問に、話している最中にストップをかけられてただでさえ不機嫌そうだった枕が今度こそ、左右色の違う目を釣り上げて、怒鳴った。
「違う! そもそも、『寂光浄土』を作った理由は、獅子王を元の世界に帰してあげようと思ったからなんだ! 当時のイシュリアは彼をそのまま帰すつもりなんか無かったしね。で、も、彼はそのまま、死んでしまい、僕は自らを魔道書に封じた。もう二度と人間や魔族が愚かなことをしないようにね」
あらぶっていた魔蔵の声がだんだんと落ち着いてきたようにかんじるけど、逆に、寧ろ怒りのバロメーターはあがってきているようにかんじる。
「そしたらどうだろう! 人間たちは130年もたってから、そして魔族もその機会に乗じて、まあた、愚かなまねをしはじめるじゃないか! だから、僕は、考えたのさ。こんどこそ、この愚かな闘争と陰謀に巻き込まれた異界の民をもとの世界に帰してあげようってね」
それが……『寂光浄土』。
っでも……
「でも、まってよ! それと、このお姫様は、一体、何の関係があるの?」
銀狼がなにを考えて彼女をさらうように言ったのかはちっともわからないけど、魔蔵も同じように彼女の力を必要にしていることは間違いない。
そんな、ぼくの必死の言葉に同意するいくちもの声。勇者くん達だ。
でも、魔蔵は彼らの言葉わまるで無視をして、ぼくの質問に答えてくれた。
「ええ、確かに、『帰還の神円』自体に彼女の力は必要ありません。。けど……彼女の力があれば、8年前からこの魔族領を犯す〈嵐〉から、救うことができます」
つまり、銀狼もたったそれだけのために、サウルの名前を出して、ぼくに攫わせたの?
でも、その瞬間ぼくの脳裏に、この帝国に君臨する幼い皇帝と、いつもどこか寂しげなサウルの姿が浮かんだ。
きっと、ぼくはすごく自分勝手なことを考えている。
でも、きっと、たしかに、ぼくは彼らを救うためなら、なんだってするかもしれない。
そして、そう考えたぼくに応えるように、魔蔵のささやく様な、答えが返された。
「さあ、ご主人サマ。まあこの世界を結晶から開放するために、その女にもう一度『寂光浄土』をかけてしまってください」
え……えぇ!?