56話 浄土、或いは乖離
「ま、魔蔵……?」
何でここに――と言いかけて、その言葉があまりに愚に付かないものだと気が付いてやめた。いくらぼくがいろいろ魔蔵たちに頼んでいたとしても彼らはぼくの何千倍も優秀だ、本当にぼくがつくったのかと疑ってしまう。
しかし、ぼくがそんな風に納得していた中で、今度は、魔蔵の後ろから、信じられない人たちがぞろぞろと現れた。
グラスホッパーが現れたときはほんのちょこっと驚いたけど、それもほんのちょこっとだけだった。
本当に驚いたのはその後だった。
「リュウト様……それに皆さんも!」
さっきまでぼくに詰め寄っていたカタリナも驚きのあまりか簡単の声をあげて目を真ん丸くしている。
それに下って、最初にりゅうと君の名前を呼ぶあたり、彼への特別な感情を隠せて否一よね、そういうのに鈍感なぼくでもわかるほどの思慕の念がにじみ出てるよね。ぼく、あんな瞳で見られたようなこと人生で一回もないんだけど……
だけど、ぼく以上に鈍感そうな、あるいはっそもそもそんなことには関心がなさそうなりゅうと君。
一瞬、笑顔で王女様に手を振ったかと思うと、こんどは口を真一文字にひきむすんで、ぼくのほうを、とてもむつかしそうな目でみてくる。
その視線はまだ良いのだけれどね。その彼の後ろで聡明そうな顔した、たぶん、ぼくよりも折り降参で年齢も上の青年が、ぼくのことをい凝らさんばかりに睨みつけてくる。
もしも、ぼくが、その視線を勘違いできるようであれば、てっきりぼくに来いしているんじゃないかと考え……さすがにないか。
その青年さんのとなりでも、ぼくにまっすぐに視線をよこしてくる女の子がいた。もともといた世界にもいたアイドルとかにもひけをとらない可愛さだった。
美人とか、美しいとかじゃなくて、可憐でかわいい、たやすく茎の折れてしまいそうなちっちゃな花みたいだ。でもさわったらやけどしそう。
うう~ん、つまり、かれらからしたら、ぼくがりっぱな悪役といったところなおかな。
でも勘違いしてもらいたくないのは、けしてぼくには悪意がないというところだ、つまり、ぼくが弁解のためにひらいたくちは、しかし、あっさりと、りゅうと君の言葉にさえぎられた。
「つま……」
「おい」
それには、有無を言わさないような強力なちからがあった。
その声、言葉にはある種の魔力にも似た力が込められていた。
観念しよう。いま無駄に弁解を重ねるのは、なんだか逆効果な気がしてならない。
「カタリナを返せよ」
しかし、こんどばかりは、ぼくも片方の眉毛を吊り上げた。あんまりにぶしつけな語りかしらだし、とてもじゃないけど野も込める内容じゃなかった。
「なんんだって?」
すると、ぼくの言葉に怒ったように言葉を続けるりゅうとくん
「だから! カタリナをかえせ!」
ぼくが、悪いけどといい言いかけたとき、かれの後ろにいた青年君が、怖いかおに似つかわしいこれまた怖い声色でりゅうと君のことばに覆い被せるように、タケルくんが叫んだ。
「それに、貴様の目的は一体なんだ!」
ぼくが、その今まで、感じたことも無い程の、本気の怒声に一瞬、身を竦め、精一杯の弁解の貯めに口を開こうとた、瞬間。
タケルくんは小さな影に鳩尾を殴殴られていた。
「っグ……!」
「ご主人サマに、無礼なこというな。お前ラは、この女の重要性が諮ってないいんだ」
そう、それは、タケルくんを土蔵が殴ったのだった。
い、一体なにを……!
ぼくの内心の動揺をよそに、今度は魔蔵がしゃべりだした。
「そうだね、土蔵……でも、ご主人サマも驚いてしまっているよ」
そういって、ぼくの方を慈しみあふれる目で見る魔蔵。それにあわせたのか、土蔵は若干決まり悪そうにぼくを覗き込んでくる。
そ、そんなことより!
この女……カタリナ王女の価値って?
思い返せば、ぼくも、サウルが望んでいるからというだけの理由でしか無かった。
其の“真価”というものは、彼女をさらったぼくでさえ理解していないものだ。
ぼくの顔色を読み取ったのか、魔蔵が説明してくれた。
曰く。
――カタリナ姫は、この世界にかけられた全ての魔力を解呪せしめる存在……つまり
ご主人サマ達をもとの世界に帰らせる力の持ち主です――