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45話 対決、或いは決裂


 ぼくを焼きつくそうとしていた魔道の炎は、カタリナ姫の髪の毛の先を焦がすこともなく跡形もなく霧散した。


 通り抜けてきた熱気が一瞬喉を焼いたがそれも咳き込むほどではなかった。


 顔に、不思議と笑みがのぼる。もしかしたらぼくは自分が思う以上に好戦的な性格をしていたのかも知れない。


 目を開けると、目前で起こった出来事が信じられないのか、火の勇者……日下部 竜登くんが狼狽もあらわに表情を歪めていた。


 その、彼の顔が困れば困るほど、ぼくの心はより大きな加虐心で満ちて行く。


 「てめぇ……なにしやがった!」


 「なに……って、なにも?」


 呆然としたのは一瞬、我を取り戻すと、今度は激昂して叫んできた。


 距離はさっきよりもぐっと縮まってだいたい2m……この距離にしては耳に優しいとは言えない声だった。


 竜登くんはぼくの態度が気に食わなかったのか、食ってかかる。


 「て……テメェ!」


 「辞めろ、リュート……」


 しかし、そんな竜登くんを止めたのは彼ら人間や精霊ではなく、見覚えのあるぼくの精霊……グラスホッパーだった。


 「……やあ、グラスホッパー、久しぶり」


 思いのほか険を含んだ声にぼく自身すこしぎょっとしたけれど、それはまあいいよね。


 だって、目の前には親同然であるぼくを、それこそ親の仇を見るようなめでぼくのことを睨みつけるゴーレムがいるんだから。


 そのゴーレム、グラスホッパーはいつから仲良くなったのかは知らないけど、竜登くんをまるでかばうような形で背に隠してぼくと対峙している。


 ふぅ……ん。なんだか腹立たしいね。


 「ああ、造られたぶりだな」


 「え……? つくられた、てどういうことですか、グラスホッパーさん」


 グラスホッパーの言葉がよっぽど意外だったのか、目を見開いて話の腰を折ってくる女の子……水の勇者、ルチア。


 「……そのまの意味よ、ルチア……彼始めてあった時から、生きてる気配しなかったもの」


 ルチアさんの思わぬ質問に答えたのは、その後ろで影のように控える女性――多分精霊――だった。


 何の目的が有るのがぼくにはわからないけど、魔蔵たちは何故か彼らに魔道書を与えて、精霊と契約させてるみたい。


 「……ええ、“マキ”の言うとおりよ、しかも、ただの土人形なんかじゃなくて、もっと……私たちに近い存在な気がするわ」


 “マキ”……とあうのはあの精霊の名前なんだろうね。


 その“マキ”の言葉に呼応するように、空の精霊がより細かな言葉を述べる。


 へぇ……そうだったんだ。それはぼくも知らなかったな。


 「おい竜登……あいつに向かって、もう一回全力で炎をたたみ込め」


 今度はグラスホッパーはまた無駄なことを竜登くんに進言しているようだった。


 何回やっても結果はおんなじなのにね。


 だけど、そんなぼくの心の余裕はいっぺんに吹き飛んでしまった。


 「一直線じゃない、面積を面いっぱいに広げて奴の真上から叩き込め!」


 こんど叫んだのはいままで寡黙にぼくを睨みつけてきたお兄さん。ちょこっとだけサウルに似ているそらの勇者のタケルくんだった。


 ッ……!?


 「っしゃっっあああああ!!」


 タケルくんの言葉が終わったと思って瞬間、竜登くんの雄叫びがぼくの耳を貫いた。


 と、思った瞬間空にはまるで狙いすましたように半球状の炎がぼくの身を焼かんと迫りきていた。


 姫を盾に……ダメ、だね間に合わない……‼︎








 「やったか……?」


 肩で息をしながらひとりごちる竜登……でも、まだだな。


 「いや……造り主の魔力は未だ途絶えていない、気絶すらしていないだろうな」


 無意識にオレの額にも冷や汗が流れる。


 オレの知る限り、造り主はここまで膨大な魔力は持っていなかったが、一体……?


 「なあ……グラスホッパー。お前、さっきからツクリヌシ、てどういうことなんだ?」


 後方からやけに難しい顔をしたタケルが話しかけてきた。


 「さっきから言ってるだろ、オレはゴーレムだ……あいつに造られた、な……」


 言い終えた瞬間、タイミング良くさっきまでやつのいた地面の土が盛り上がり、弾けた。


 瞬間的な爆発に土煙が巻き上がるが、その中からはそんなことに気求めていないような声が聞こえてきた。


 「まったく……今の、すっごく肝が冷えたね」


 っち……無傷、かよ……


 しかも、ちゃっかりカタリナまで確保してやがる。


 竜登が表情硬く追撃の魔術をくもうとした、その瞬間。


 「……主みずからが、下々の物の相手をする事はありません……」


 どこからか声がしたかと思うと、オレたちと、造り主を挟んだ中央付近の地面が盛り上がり、その中から文字通り、人が生えてきやがった。


 「っち、新手かよ」


 真っ黒なトガに身を包み、銀の仮面を被った男……


 仮面の形を見れば一発でだれかわかるな……


 「パピヨンっ!」


 オレが始めてあった兄弟に声を荒げると、パピヨンは鼻白んだ目でオレを見下ろした。


 「……主様、ここは私が……城でマンティスが首を長くして待ったいますよ……それと」


 造り主が頭のない蹄だけの馬を創り出した。


 「オルゴルスの若獅子をはやくお助けくださいませ……最後に、魔蔵様に謝っておいてください」


 パピヨンは全て背を向けてそれをしゃべり、気がつけば造り主はいつの間にかオレたちのまえから姿を消していた。


 くそったれめ……!


 そして、パピヨンが俺たちのの方へ、ゆっくりと向き直ると、ぞっとするほど冷徹な声を上げた。


 「……進みたいなら、私を土くれにすることだな……」

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