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39話 旅路、或いは葛藤


 私たちが王都の東の森へ入ってはや数日が経過しました。日が昇っている間はただひたすら歩き、夜になれば急造の寝床を作り、順に番を張りながら休む。そんな日々の繰り返しです。


 先頭を切って歩いているのは土蔵、魔蔵くんと共に私たちの目を覚ましてくれたゴーレムのお兄さん、グラスホッパーさんでした。



 その隣に妙に嬉しそうな横顔でグラスホッパーさんに話しかける竜登くんが居ます。連日の慣れない野宿にも疲れた顔1つ見せずに、私たちを明るい笑顔で率いてくれる。まさに勇者と呼ぶに相応しい姿です。


 そしてその2歩、後ろに下がったところにタケルさんと、ナギちゃんがお互い何やら難しそうな顔をしながら話し合っているのが見えますが、タケルさんが風を操っているのか、こちらまで音は聞こえてきません。なんだが信用されていないような態度に、なんだがさみしくなってしまいます。



 そしてその後方。僅かに右斜めにずれた位置で1人、辛気臭い顔をしながらもとぼとぼ歩いているのが、私、水鏡 ルチアです。


 私が1人で、暗い顔をしながらも歩いてるのには勿論小さいなりに理由があります。1つは精霊の事、この3人の勇者の中で私だけが未だ精霊との契約に成功していないのでした。


 竜登くんにはナギちゃんが、タケルさんにはラキさんが居る……そして、その精霊と契約した2人は、今の私なんかよりもずっと魔力の扱いが上手になった。というより、魔力の扱いを精霊がサポートしてくれるようになったんだろうと思う。


 そして、そんな風に魔力を考えている時に、私は必ずある一つの疑問が浮上してくる。普段から心の奥底にある疑問なんだろうけど、普段は決してその姿を見せない小さな疑念が、胸のそこの方から這い上がってくる。


 いったい、私たちは何と戦っているんだろう。



 再び、ふと鎌首をもたげた小さな疑問の芽は、しかし、後ろからやって来た柔らかな打撃にあっさりとかき消されてしまいました。



 「なにやってるの、ルチア」



 ずどん、と重たくはない衝撃が私の背中を襲います。同時に耳元で囁かれるように鈴のなる声が聞こえたかと思うと、私の背後から一陣の風が通り過ぎました。



 そっと、肩に触れられた感触がしたかと思うと、私の目の前にとても可憐で儚げな……透明感の強い女の子が現れました。


 水晶色の目が、イタズラっぽく笑みを描いて、私を見つめています。ふわりと小さな羽毛のように軽やかに降り立ったかと思うと、直ぐに私の手を取ってしまいました。


 「さ、リュート達に遅れるよ!」


 真昼に出ている月のような柔らかな存在感が、私の心の中にじんわりと広がって、いつしか私の胸の中に燻っていた嫌な気持ちがなくなっていました。


 私とラキちゃんは竜登くんとグラスホッパーさん目掛けてかけ出しました。







 オレの話を、何が楽しいのかニコニコと笑いながら聞く竜登に、ふと小首をかしげる。なぜ竜登は人間の勇者で有りながら俺にこんなになついているのだろう。


 いまだって自慢げに俺の隣を歩いては、時々心配そうに後ろを……ルチアの様子を伺っている。そんなにも俺には気になる何かがあるのだろうか。


 俺が、人間の勇者3人と、その精霊2体の子守りを土蔵、魔蔵から押し付けられてもう丸二日が経とうとしているが、その2人の姿はどうにも見えない。どうやら、完全に聖都に着くまでは姿を表さないつもりだろう。そうでないのなら、恐らくは俺たちの作り主のところへ飛んで行ったのかも知れない。


 これでも精霊の端くれとして、今土の精霊の本体である“穢土ノ祭祀書”と作り主の境界がやけに薄まっているのは感じている。恐らく、オレなんよりも純度の高い精霊である魔蔵が、そのことに危機感を感じて飛んで行ったんだろう。まったく、めいわくなはなしなこった。


 足元の土塊を一足けって、下をみた。相変わらず土ばかりの道が続いている。


 この調子なら、もう明日か明後日には聖都に到着することだろう。そして、最後の魔道書である水の魔道書を手に入れることになる。


 ルチアはすでに魔力との調和性が非常に高い状態になっているから、精霊とも直ぐに契約することができるだろう。


 ――だがそれは、今なら引き返すことのできる扉を無理やり開けることだ、とも感じる。


 もう、明日か明後日には8年前から動き出した数々の思惑の最終段階へと至るだろう。作り主も、勇者たちも、その、思惑を作り出した存在たちの歯車の一つに過ぎないと考えると心底の怒りを感じる。


 「うまくやってくれよ、メイフライ……」



 

 

次はきよとくん

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