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31話 誘惑、或いは到着

う、うんりしゃあない、しゃあない


 「……いねぇ、な」


 ポツリとつぶやかれた竜登の言葉に、誰もが無言の肯定を示した。


 竜登を含めた三人の勇者、更には王女であるカタリナまでも、同じ表情をしている。


 「うん……魔力の、残留は感じるけど」


 悩ましげに顔を曇らせるルチアがポツリ、と呟くが、その言葉に誰もが沈黙で肯定しかけた、その時。


 「お、王女さま……!」


 あらぬ方向、突然、王都の玄関口にておこった二つの異常に関して、動揺していた市民の中からその声は上がった。


 呼ばれたカタリナを筆頭に、次々に声の主の方向へと目をやる四人。


 そこにいたのは、とても裕福とはいいがたい服装の……小汚い少年だった。


 歳は貧相な体格を考慮に入れてもせいぜい10に満たない程度で、折れた前歯が余計その貧弱さをあらわにしていた。


 その、ありったけの勇気を振り絞って、雲上人であるはずのカタリナに声をかけた少年。


 その少年から漂う異臭にも顔色一つ帰ることなく、微笑み返すカタリナ。


 「はい、あなたは?」


 羞恥か、恐れが、真っ赤になりながら、息も絶え絶えの様子の少年は、しかしそれでも、王女に言葉を繋ぐ。


 「あ、はい! お、おいら、は、サンティオていって、そこの靴屋の息子です! で、えっと!そ、その……おれ、じゃなくて、おいら……王女様達が、探している人、なのかな?! しってると、思います……ー」


 目をせわしなく動かしながら、汚い着物で手汗を拭う少年、サンティオ。


 その少年の言葉に反応したのは王女ではなく、火の勇者として魔道書の精霊を権限させた竜登だった。


 カタリナとサンティオの間に突然割って入ると、サンティオの、小さな、肩を、その衣の汚れも、いとうことなくつかみ、迫った。


 「ほっ、本当か⁈ ぼうず!」


 唐突に、勇者として、国からも高々になのしれている青年から、身分の低い自分にたいして求められたサンティオ。


 しかし、混乱していながらも、彼はまっすぐ、正門の足元に積まれていた土の山を指差した。


 「あ、あれに……乗ってきたんだ、えっと……」


 そのまま、サンティオは王城へとまっすぐに伸びる道を指差した。


 その指の先にそれぞれの表情が一変する。


 苦虫をかまつぶしたように顔を歪めるタケルが、独り言をつぶやいた。


 「ッ……オレ達がとおってきた道じゃないか、既に、魔力を隠していたっていうのか」


 その、誰も応えないはずの思考の吐露に、しかし答えた少女の声がする。


 「ええ、おそらく……でも、そうなると不自然ですね」


 紫色の瞳を僅かに細め、伸びる道を見据えるカタリナ。いつの間にかサンティオのもとから移動してきたらしい。


 「そうね、あの時の精霊……魔蔵だったら、アタシたちとすれちがっときに、きっと攻撃をしかけてくるはず」


 赤銅色の髪の毛が、あたかも疑問の同調することように、揺れるナギ。


 2人の言葉を受けて、尚、考えに没頭するタケル。顎に手を添えてかんがえる、考える。


 しかし、彼らの中には、考えるよりも先に体が動くものもいた。


 「っしゃあねぇ! ここにいねぇ!ていうんなら探しに行くしかねーよな」


  竜登は、一呼吸置いて立ち上がると、宣言するように叫んだ。両の手は、未だ幼いサンティオの双肩に乗せられたままだ。


 何処と無く、期待と不安とを織り交ぜたサンティオの、泥と埃で元の色を残さない髪の毛をぐしゃりと撫でえがおまま、竜登はいった。


 「お前、え〜と、サンティオだっけ、見たんだろ? ソイツを……お前も一緒に来い!」


 いうがはやいが、軽々とサンティオの痩身を肩に担ぎ上げると、難しい顔をしたままのタケルたちに向き直った。


 「おい! タケルたちも、いそぐぞ!」


 背を向けた竜登に、タケルの嘆息の声は聞こえなかった。








 「ふぅん、人間の国は、魔族の国よりもご飯が美味しいんだね」


 爽やかな風が、砂埃と共に食卓に遊ぶ。食卓に並んでいるのは穀物類を中心として、この世界では高価とされる果物も、それらは、たった一人の少年の為に給仕されていた。


 「んー、林檎みたいな味がする! なんか、懐かしいなぁ」


 注文が入れば彼の元へと食事を運ぶ給仕達も、しかし、その用事がないときは、ただ、彼を怪しく遠巻きに見つめるだけだった。


 真っ黒な衣の、フードを目深にかぶった少年は、人の目を気にすることなく、次々と空腹を満たしていた。


 「ん〜……でも、お肉は無いんだね、やっぱり土地柄かな、向こうではお肉が中心だったんだけどね」


 時々漏れる独り言は、全て彼の喜怒哀楽を示すように、コロコロと感情の入れ替わりを表していた。


 時に嬉しそうに、時に悲しそうに、そしてゆっくりと動ていた食事の手が、ついに止んだ。


 「ごちそうさま」


 平たくつぶやかれた言葉と共に、少年が席を立った。地面すれすれの真っ黒な衣が、埃をまとう。


 人の目を引きつけてやまない怪しげないでたちの少年は、この店の店主の前に立って、当然のごとくいった。


 「はい、お会計」


 目の前に立った、背の小さな少年の雰囲気に飲み込まれ、萎縮する店主の手の平に、ごろりと重たい感触が転がった。


 少年が店を出て暫く、ようやく緊張を解いた店主が目にしたのは、人の国で流通している通貨ではなく、小さな金の塊だった。


 店主が、店を飛び出し、辺りを見渡す頃には、少年の姿は消えていた。








 「ん〜満腹、満腹!」


 ついさっき少し遅めのお昼ごはんを食べ終わったぼくは、見慣れない人間の国の、一番大きな道を歩いていた。


 さっきごはんを食べたお店はその大通りに面していた高級ご飯屋さんの一つだったみたい。


 ぼくは真っ直ぐ歩を進めながらもさっきのお店の味を回想する。


 なるほど、魔族よりも人間の文明の方が進んでいる、で言うのは本当みたいだった。味は、魔族の皇宮で食べた時よりも、美味しく感じる部分もあった。


 あと、フルーツもあったしね、お米、みたいなものを食べたのも久ずりだったなぁ


 暫くあそこに通うこともいいかもしれない。なんていうことを思いながらぼくは、ついに足を止めた。


 ふふん……やぁっと、ついた。


 ぼくは、この人間の世界の中心で、文化の頂点である、其れを見つめた。


 土蔵や魔蔵に悪いけど……マンティスに言われたことをちょこっとだけ優先させてね……


  ぼくは、人の国の王城を見上げた。

 

きよとは一体王城で何をするというのか……⁈

本当はもう少しゆっくりしたペースの予定でしたが、予定も押しているので(笑)急ぎ足で

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