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30話 混沌、或いは襲来

きよと、王都にログイン!

勇者ちゃんたちの反応やいかに


 ――ふ……ぅん。


 僕ラは、もっと、もう少しばかり、ご主人サマの言動に気を使っておかなければならなかったみたいだね。


 「ん、どうしたんだ、魔蔵?」


 心の中で嘆息する僕の気配を察してか、僕のはるか頭上で訝しげな声が押し広がった。


 僕は、その無知に、嘲笑を込めずにはいられなかった。


 ふん……どうした、だって?


 「ご主人サマは、とっくの昔に魔術を習得なさっている、て言うことだよ」








 「やっと、着いた!」


 それは大げさではないが、しかし眼前に広がる多くの人を憚ることなく少年の口から発せられた第一声だった。


 その、唐突に現れた少年を、今朝方からかけて彼らの住まう町に現れた少年を、町にすむ彼らは遠巻きになって見つめていた。


 好機の、或いは恐怖の感情に満ちた人垣の視線を全身に浴びながら、少年は、頭も首も無い馬の形をした土塊から飛び降りた。








 それは、穏やかな昼下がり、誰も邪魔するもののいないはずの昼寝の時間に訪れた唐突な襲来だった。


 「――!?」


 カーテンを貫いて陽光が柔らかくて差し込む部屋の中、そのうららかな時間に似つかわしくない勢いで、少年がベッドから跳ね上がった。


 所々あらぬ方に伸び上がった、一見して寝癖だと看破することのできる髪型を気にすることなく、少年は寝間着姿のまま部屋を飛び出した。


 その少年の傍で、彼の寝顔を覗き込んでいた少女をおいて。


 「――ちょっ、タケル~!?」






 「竜登! ルチア!」


 少年……寝間着姿のままあちこちに伸び上がった髪の毛のまま、タケルが部屋に飛び込んできた。


 すでにその部屋、王女カタリナの私室には勇者二人と精霊が1人揃っていた。


 「タケル! 起きて大丈夫なのか?」


 唐突に現れたタケルに瞠目するも気遣わしげな声を上げる竜登と対照的に、タケルが現れたことで大きな安堵の溜息を漏らすルチア。


 王女カタリナのアメジストを思わせる紫の瞳も柔和に細められた。


 「ああ……まだ、魔力の消耗は激しいけど……なんとか」


 微かに息を切らしながら竜登に答えるタケルはしかし、その目は決して竜登の方を見つめることなく、彼の傍、背後に立つ精霊へと注がれていた。


 白魚のように滑らかかな肌を覆い隠すほどに飛びた赤銅色の髪の毛が、火傷するようにうねる少女。


 ナギが、焔の揺れる眼を僅かに伏せながらタケルの言葉を飲みこんだ。


 「……それで、タケル、あなたの――」


 少女が……ナギが、口を開きかけ、あるいは言葉を放ちかけたその瞬間、確信に触れるわずかな緊張を孕ませた声は、虚空に途切れた。


 赤銅色の炎に包まれた陶器の体が揺れる。


 「タケル〜! ねぇ、いきなりとんでかないでよぉ」


 徐々に高まりゆく緊張の気配を真っ向から袈裟斬りにする間の抜けた声がカタリナの私室に響いた。


 瞬間、吹き上げた突風に誰もが眼を塞いだ。


 窓が、ドアが、或いは布が、自然を体現する偉大なる魔力に畏敬を示すがごとく、ガタガタとやかましく鳴り響いた。


 2、3秒、荒れ狂った空気のうねりは、現れた時と同様、唐突に消え失せた。


 硬く閉ざされた瞼の、暗闇の世界から最も早く解き放な――れたのは、その名を冠する勇者、タケルだった。


 「――クッ……」


 低く唸るように喉を鳴らし、薄らと眼を開ける。幸いにも部屋の中には対した被害はおこっておらず、目に見えるの埃が多少まった程度だった。


 そして、タケルは知らないはずの、しかし理解している、この現象の主を、自分の名を大声で四度その存在に、怒鳴った。


 「“ラキ”!」


 だが、タケルは読んだ瞬間、悩ましげに表情を歪めた。迷った様に伸ばされた手は空を掻く。


 次に、傍の精霊に支えられ慎重まつ毛を震わせ、まぶたを開いたのは火の勇者竜登。


 本能的に急所である頭を庇うように押し出された腕をゆっくりと下げると、耳鳴りに顔を顰めながらも2人の……タケルと見知らぬ少女のやりとりを見守った。


 「だってぇ、タケルがわたしを置いて先に行っちゃうんだもん」


 ふくり、とか方頬を膨らませる少女、陶器の様に青白い滑らかな肌が生きていることを知らせるように膨れる。


 それは単純に拗ねる、と言うには、それ以上の意味が込められすぎた抗議の仕方だった。


 ラキと呼ばれた精霊の少女は、慣れた様子で、その陶器を思わせる全身を旋回させた。


 ふわり、と重力の鎖を断ち切って空に浮かんだ少女、その少女の体が宙に揺れる旅、彼女の体をすっぽりと覆う白いワンピースの裾が翻る。


 消え入りそうな、限りなく透き通る白に近い空色の長髪がうねり、閉じられた紅蓮の瞳からは時折炎が零れる。


 ただ、方全員とその美しい精霊の舞を見つめる2人の少年、そうしてしばらくして2人の少女も警戒の構えをようやくといた。


 「ね? タケル」


 再び、羽毛のような軽やかさで、つま先から床へと着地をすると、同じく重みのない声がタケルの名を呼んだ。


 瞬間、鞭打たれたように顔を挙げたタケルは、また呆然と、ほうけた様に精霊・ラキを見つめ、数瞬の後、諦めたようにため息をつくと、力なく微笑んだ。


 「そう……だな」


 ――ここまで、僅か暫時のやりとり。彼らがこの部屋に集まった本来の目的が!ようやく王女カタリナその人の口からその語られた。


 「わたしも、つい先ほどルチアから聞いただけだけれど……魔力、しかもとんでもなく大きいものが入り込んだのですね?」


 決意、そして不安に大きく揺れる紫色の宝石のような瞳に、硬く小さくうなづく2人。


 「ああ……ルチアのいう通り、こいつはやばい」


 険しい顔つきで肯定するタケル。緊張によってその表情も硬い。


 「ルチア、魔力の大元は今どこにいるんだ?」


 しかし、かれら3人の勇者の中で、間違いなく、統率者は彼だった。


 唐突になを呼ばれたのにもかかわらず、ルチアは、色素の薄い双眸を閉じ、探るように眉をしかめた。


 「王都の……せ、正門に――!?」


 弾かれるように閉じていた目を見開くルチア。それは、魔力の大元があった場所によるだけではなかった。


 「どうしたんだ? ルチア」


 その、少女の様子に訝しげに眉を顰める竜登、しかし、当のルチアは冷や汗をながし、青ざめたままうつむいて、何も答えない。


 「……あの時の、魔族なのね?」


 何かに気がついたように、険しく低い声を投げかけるナギ。


 その言葉に、ルチアはうつむいたまま、首肯する。


 「――ッ」


 誰からともなく、緊張が走り、場に静寂の嵐がふきあれた。


 が。


 「――よっしゃ! じゃあ、今日こそ、あの頑固者のガキンチョにぎゃふんと言わせてやろうぜ!」


 高らかに声を張り上げたのは、火の勇者、竜登。


 彼は、まさしく勇者だった。


 


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