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27話 離脱、或いは愛情

27話にして、3話ぶりくらいに主人公のきよとくん登場。しかも最後の方にちょびっとだけ、そして今回、始めて魔蔵くんが裏をかかれます

 「ここが……これが、“境界線”か」


 山、森の中。木々の生い茂る清浄な空気を震わせ、真っ黒のトガに銀の仮面を被った、しかその肩には学生の用いるスクールバッグがかけられている、というチグハグな姿の少年が、虚空をその銀の仮面ごしの視線で貫いていた。


 音もなく、虚空に伸ばされた右腕。その肩にカバンのかけられたままの腕、その先の指がそっ、と繊細な手つきで虚空に触れる。


 少年はそのまましばらく立ち止まると、指を、まるでそこに壁があるかの様に虚空にはわせて行った。


 視線も、それに合わせて、這うように進んでいく。指が、腕が、その動きを止めて尚、少年の視線ははるか南方を睨みつけていた。


 「……聖都を、中心にしてるのか?」


 魔族と人間の、両世界の境界に位置する聖なる都。皇帝の許嫁たる姫御子の座す、世界の中心。


 魔族の、帝都から西方。人間たちの度重なる侵攻を、はるか140年の時に渡り、越えられた事のない万軍の壁。


 少年はその、決定的な壁の前で、暫く立ちすくんでいたかと思うと。再び、何事もなかったかのようにあっさりと、その壁を、超えた。







 少年が、境界線を踏み越え、数百歩。彼を先に置いて進んでいた彼の忠臣に再び合間見えた。


 その双子の忠臣の片割れ、紅き魔性の瞳を右眼に宿す少年が片膝をついて、改まった口調で空気を震わせた。


 「お待ちしておりました。我らが主、グラスホッパー……」


 また、その片割れ。光り輝く石炭の様な左目を伏せながら、彼の兄に続く。


 「我らがグラスホッパーを安全なる旅路の案内、僭越ながら我らが勤めさえていただきます」


 その、乱れることのない心を、態度で表した土蔵と魔蔵に対し、銀の仮面は首肯で返した。


 「我が作り主は……?」


 グラスホッパーと呼ばれた中肉中背の少年は、肩に重みを増す鞄を担ぎ直すと、目の前に跪く少年達に問いかけた。


 その、言葉に鞭打たれたように顔を上げる魔蔵。


 驚愕に見開かれた目が、こぼれるように目の前の、彼らが主と思い込んだグラスホッパーを見つめていた。


 「まさ……か!?」


 その言葉を、我を失い、驚愕に喉を打ち、風より早く立ち上がる魔蔵。


 その、紅蓮の眼を瞠目したまま

険しい手つきで目の前の少年の、その銀の仮面を剥ぎ取った。


 「――ッ!?」


 訪れた更なる驚愕。そして一瞬後に現れる虚脱感。


 力なく垂れ下がった、剥ぎ取られた仮面を持ったままの魔蔵の右腕。


 「……飛…蝗(グラス…ホッパー)だと……」


 ゆっくりと膝から、大地へ崩れ落ちる魔蔵が見たものは、不思議そうに彼を見下ろす、新たなるゴーレムだった。







 「……それじゃあ、君は、いつ作られたか、覚えていないんだね?」


 あれから数刻、自ら落ち着きを取り戻した魔蔵は、土蔵に支えられ、かろうじて気力を取り戻した。


 そして始まった新たなる弟。グラスホッパーへの尋問。


 その翡翠の目、柔らかな茶色の髪の毛、微かに日に焼けた肌、精悍に切りそろえられた眉、意思の強さを象徴するつり上がった目元、高い鼻。


 平凡ではあるが整った顔立ち。それは何処と無く、彼らの主人きよとが兄と敬愛していたサウル・シュテルン・オルゴルスに通ずる美貌であった。


 「ああ……作られた時は、真っ黒な空間にいた……そして、ついさっき、目覚めさせられた」


 何処か機会的に、しかし熱のこもった言葉に、魔蔵の表情は厳しい物に変わる。


 その脇、グラスホッパーが現れた時から我関せずと態度を貫いていた土蔵がグラスホッパーの顔を盗み見ていた。


 「……真っ黒な、空間、ね。そして、君はそこからひきづり出されて、ご主人サマの装束を着せられて、僕ラの前に影武者として現れた。そういうわけなんだね?」


 魔蔵の、棘の含まれた険しい言葉に、涼しい顔をして首肯と沈黙で返すグラスホッパー。その態度が更に魔蔵の神経を逆撫でる。


 「じゃあ! きみはっ、ご主人サマがどこに行ったかを……知らない、てことなんだね?」


 湧き上がる怒りを押さえつけるように、しかし、声からはそのお遮ることの出来なかった怒りが、剣の様に鋭くまくし立てる。


 目つきは寄り鋭いく釣り上がり、目に激しい炎をともしていた。


 しかし。この場で、腐葉土を踏みしめる三人の中で、何故彼がこれほどまでに憤っているのがわかるものは、本人を置いていなかった。


 グラスホッパーは愚か、土蔵でさえ、何故己の片割れが、ここまで怒りを燃やすのか、理解できてはいなかった。


 「ああ、そうだな……オレが作り主からの命令は、お前たちの元へ迎え、ということだけだったからな」


 髪の毛と同じ、また彼に対面する兄弟と同じ、薄茶色の眉毛を困ったように傾けると、苦笑を、気配だけで表現していた。


 その態度はまさに、サウルがきよとに、或いは兄が弟に対して見せる態度。だだこねに対する甘やかしの姿勢だった。


 「ッ――!? きみはっ! きみは……」


 その態度に、顔を真っ赤に燃やすと、しかしそのまま、魔蔵の勢いは失速して行った。


 最後は肩で息をするも、立ち上がることもやっとというほどに疲れ果てた姿を表現していた。


 その相方の姿に憐憫の視線を送る土蔵。しかし、それも一瞬の事で、彼は、再びグラスホッパーの顔を盗み見ていた。


 当のグラスホッパーもまた、心配そうに、或いは困ったように魔蔵を見つめ、暫くの躊躇の影が伸びていたが、意を決した様に、一歩前へ進み出て、それを、おこなった。


 「――あー……その、悪かったな?」


 グラスホッパーは、その自分を嫌っているだろう幼い少年の小さな背中を、細い肩を抱き上げた。


 努めてその少年の方を見ないように、自身の胸に位置する頭を、硬く作られた手のひらで、胸板に拘留し、柔らかな髪を撫で上げた。


 その突然の現象に、その刹那の一瞬間。何が起きたのか魔蔵は思考が役に立たなかった。


 そして、気づいた瞬間――


 「やっ……! やめろッ」


 ――眼を激しく見開き、そのか細い腕で、意味は無いと知りながらもグラスホッパーの胸板の拘留を押し返した。


 「あ……」


 しかし、思いのほか僅かな力で解かれた暖かな牢獄は、消え去ると同時に魔蔵の口から寂しさとも寂寥ともとれる声を絞り出させていた。


 暫く。微かな、風を向かぬ時間。


 両者さ一瞬だけ眼を合わせると、その、睨み合いでは無いみつめあいは終わりを告げた。


 最初に沈黙を切り裂いたのはグラスホッパーの憂いの無いため息だった。


 「……はぁ、まあ、あれだな。これから、よろしくな?」


 差し出した彼の手に、魔蔵はそっぽを向くことで答えた。


 銀の仮面は、いつの間にか何処かへ消えていた。







 「グラスホッパー、ちゃんと2人に合流できたかな?」


 山、森の中。木々の生い茂る清浄な空気を震わせながら、腐葉土を踏みしめる足音が僅かに響いていた。


 四本足に蹄を持った、土塊の上にまたがる少年が、何処か嬉しそうに、空を見上げながらつぶやいていた。


 「仲良くしてくれると、良いんだけどな……」


 少しばかりの憂慮を込めた声と裏腹に、彼は握る手綱に力を込めた。


 蹄は、まっすぐ西を目指していた。


 

 

きよとくんはどこへ向かうのか……それは、作者もわからない(いや、予定はあるんだけどどうしようかな……と)


 次回はきよとor帝国の様子or勇者達を予定しています♪ もしかしたら全く関係ところ行くかもです♪

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