23話 暴走、或いは悲願
最近、最初に構想した状態とは大きく外れて行っている感の否めない本拙作。
今回は土蔵くんが暴走しやがりました、
あと枢密院が怪しいです
このまま雪でも降りそうな冷気が部屋を縦横無尽に駆け巡り、凍える言葉の切っ先がぼくを貫いて通り過ぎて霧になる。
「今や、聖なる都より猊下がお出でになる時……事を必要以上に荒立ててはならない」
聖なる都、巫女姫か……。
宰相の言葉に同意し、援護する様にその周りを固めて行く元老たち。元老院議員として……この国の高官として働くには一定期間の軍任期間が必要だ。
宰相もふくめ目の前に立ちふさがる彼らは置いた政治家ではなく、重厚で老猾な軍人だ。
「さよう、全ては人間によつわてもたらされた災い……」
サウルを射抜く老人達の目はどこまでも冷たい。冬の冷気に寒々しく光る月光、歩いは凍れる刃の様に。
だが、サウルはその極寒の瞳を物ともせず、むしろ若い熱気を持った決然とした態度で元老院……この国を総括するフィクサーに挑んだ。
太陽より明るい山吹色の瞳が燃える。氷が炎に叶うはずがない。
「その言い訳はうんざりだ! 8年前……! 母さんまで巻き込んでその猊下がおられる聖都を中心に甚大な被害が出たことまで人間の仕業だというのか! “魔力”による波状攻撃が?!」
その言葉がぼくの耳に入ったのと、元老院の波の中から1人が進みでてサウルの前に立ちふさがったのはほぼ同時だった。
だが、ぼくがその人物が誰かを確認することはできなかった。
僕の目の前にいる有象無象なんかよりも、サウルの叫んだ内容の方が吟味に値する。
『“魔力”による波状攻撃』だって? それが‘人間”の仕業だって?
ぼくはこの時になって初めて、枢密院と元老院が、皇帝、そしてサウルに隠していることの異常さを知った。
8年前にあった大厄災。その内容の不可思議さを、今ようやくになって理解した。
確かに、姫御子が居る聖都を境に人間と魔族の領土は隔てられている。
この帝都と同じくかつて人間の作り上げた無限の装飾の施された神聖なる都。
8年前に人間たちがそこにいたとしても、そこから『“魔力”による波状攻撃』をしかけられるはずがない。
人間たちには魔力を扱うすべがない!
ぼくがかすかな時間思考に没頭していると、再び広間にこだまするこえがあらわれた。
声はぼくより後方。即ち、この大広間の扉側から響き渡り、それが意味するのは……。
「きよと……お前、何を言ってるんだ?」
元老院の会議が始まってからこの空間にはいることが許されている存在は限られている。一介の使用人はもちろん、高貴な血統に列ならない下級貴族、魔力が一定に達していない者、軍務経験のないもの……
それらを差し引いて行けば自然にこの空間に足を踏み入れることができる者は限られてくる。
だが、これらの制約に一切触れないものが、いや……このかつて周りの弱小国家を次々と吸収して、魔族をまとめ上げるまでに至ったこの帝国の、ありとあらゆる法の頂点に君臨するものが、立った1人だけいる。
あらゆる法は彼の前に置いて向こうであり、あらゆる法は彼の元制定され、あらゆる法は彼の為にある。
この、帝国においてただ1人、生き神として生きた8歳の幼い少年が、扉を開いた。
「――皇帝、陛下……」
ぼくは驚きのあまり硬直した体を、上半身だけ捻り彼に視線を寄せる。
不敬だと理解していてもようやく絞り出した声はあまりに錆び付いていた。
「ボクは……そんなこと、一度もいったこと……」
何より高貴な、幼い黄金の瞳が困惑に揺れている。薄く幕を張った涙はぼくの裏切りへの悲しみから流れたものだろうか?
思わぬタイミングでの皇帝の登場に、広間はにわかに静まった。沈黙の中の熱気すら徐々に沈静化されて行く。
「ボクは……ボクはっ……!
――お前のこと、信用してたのに……」
皇帝の悲痛にも思える叫びがこだまする。ぼくは、ぼくに対して叫ぶ彼に何も言えなかった。
そう……ぼくは。
「いい加減口を閉じろ小僧。ご主人サマの耳障りだ」
皇帝がなおも言葉を続けようと空気を吸い込んだ瞬間、その口を閉ざすように小さな手が現れた、
背丈は皇帝とあまり変わらない、それより少し高い程度……圧倒的に魔力の差があるにもかかわらずそれすらものともしない決然とした態度に広間にどよめきが走る。
微かに漏れた皇帝の吐息が現れた彼の髪の毛を吹き上げる。僅かに持ち上げられた柔らかな茶髪から零れた左の横顔、赤い瞳。
ぼくをあるじと慕う魔道書の精霊、ゴーレム、魔蔵の双子。
土蔵がそこに現れた。
ぼくの心臓が早鐘をうつ。土蔵め、なんてことをしてくれた!
唐突に突き刺さる老議員の目が痛い。当然だ。土蔵が行ったことは極刑……いや、一族郎党皆殺しすらあり得る皇帝を侮辱する行為だ。
ぼくは頭の芯がジンと痺れ口の中が乾くのを感じながら、もう一度胸中で毒づいた。
土蔵め、なんてことしてくれた。
「きっ……きさま! 突然現れて陛下に対し……っ!」
広間の扉を固めていた騎士が叫びだした。真っ赤な顔で迫ってくる若い人だった。
がちゃり、がちゃり。鎧をけたけたしく鳴らしながら大股で歩いてくる騎士。
その若い騎士が土蔵の目の前にきて、再び怒鳴ろうとした瞬間。
「小童、持ち場を離れるな」
土蔵が恐ろしく底冷えのする声を上げた。けして大きい声ではないがとてつもなく張り響く声だ。
臓腑が持って行かれる錯覚に陥るような声を目の前で食らってもその騎士は平然としていた。
土蔵はその騎士の様子に惚れ惚れとするように目を細めると、冷酷な石炭の様な目が、剣みたいに鋭くなる。
「おれの言うことが、きこえないの?」
うっすらと弧をを描く唇に徐々に魔力が集まって行くのがぼくには手に取るようにわかる。
ぼくのゴーレム。なにかがあればぼくの責任。
君は、何を考えてるの? 魔蔵。
「我ら土の一族の悲願は成就しつつある……」
薄暗闇の中に銀の仮面が輝く。あたかも狼をもしたかの如く闇に浮かぶ仮面は深き渓谷を思わず声で鳴く。
すると、再びどこからかわからぬ声が銀の仮面と共に現れる。
「さよう……大方のところはシナリオ通りに進んでいる……二つの問題を残してな」
猿を模った銀の仮面の男が言葉を切ると、銀の熊の仮面が現れ、言葉を繋ぐ。
「1つは舞い込んだ勇者……きよと、彼の存在はイレギュラーではあるが修正の範囲内だ」
『――問題は……』
誰ともなく低い声が登り、それを再び猿の仮面の男が繋ぐ。
「我らのシナリオをゆがませる存在――」
熊の仮面の男が繋ぐ。
「――神を創ろうとする存在……」
そして、狼を模した仮面の男が酷く平坦な声で述べる。
「既に楽園への扉は開かれている――今更、箱舟に乗る必要はあるまい……」
そして、全ては闇に消えた。
実はいうと枢密院とが魔道書の精霊とか本当は出てくる予定なかった……orz
私の計画性のなさは本当嫌になってきますね、これ(>人<;)