14話 殺戮、或いは救済
火の勇者、竜登くん目線になってます♪( ´▽`)
作者は、この話を読み返してこんな風になりました→((((;゜Д゜)))))))
何故なら……サウルちゃんが名前しか出てきてない‼ (きよとくんに至っては名前も出てきてないですねっ!)
として、ドグラ・マグラくん,s活躍しすぎw君らプロット段階では登場してないですよねw
「ち……く、しょうっ!!」
痛い、身体中をぶつけたような激痛が体内、外を駆け巡る。
おれは、今日……ほんの数時間前にカタリナから貰ったばかりの剣を杖に、そいつらに向かい合った。額から流れ落ちた液体が血か、汗かはもう区別がつかない。
灰燼を朧のように纏って微笑むそいつらの石炭のような紅蓮の瞳が、その灰色の世界でも尋常でない輝きを放っていた。
「君……まだ立ち上がるんだ?」
右手を相方と握り、右目に紅の煌めきを持つ少年――魔蔵はおれ、おれたちを嘲笑うように、見下ろした。
「タケルー! 今日も鍛錬付き合ってくれよ!」
朝。おれは此処のところの日課になりつつある同室人のタケルへと声をかけた。
ちょっとばかり朝早い時間にデカイ声出し過ぎたけど、此処はおれとタケルの部屋で、防音の魔法がかかってるみたいだからなっ!
おれの声を受けたタケルは不愉快そうに眉根を寄せるが、最初に声をかけたように冷たくあしらわれる事は最近なくなってきた。
「はぁ……またか、別に構わないが、剣は良いのか? 昨日、折れてしまったんだろ?」
タケルは軽く手で寝癖を整え、ため息をはきながら了承してくれた。おれは、そんなおれを受け入れてくれるタケルが大好きだ!
「うん! さっき、朝ごはん食べてる時にカタリナがくれたんだ! なんかスゲー剣何だって!」
本当はカタリナはもっと詳しく説明してくれたんだけど、なんか難しすぎて覚えきれなかった……。まぁ、ようするにスゲー剣てことだ!
その剣は今まで使ってような世界史に出てくるモロバケン? のは違って、何だか日本のカタナみたいな形をしてる。
けど、おれの説明がお気に召さないのか、タケルは眉間のシワをより深く刻み直してしまった。
う……うん、なにか、悪いこと言ったかな?
「朝飯、ね……竜登、確かお前昨日オレと一緒に食うだとか言ってなかったか?」
…………あ。
そういえば、昨日の夜の鍛錬の時にそういう約束をしたんだった。
ほんの十数時間前の事なのに寝たらあっという間に忘れてしまっていた自分がとにかく恨めしい。
「はぁ……まあ、そうシュンとするな、仔犬を捨てた気分になる」
タケルはそう言うと寝巻き姿のまま、再びベッドに腰掛けると、朝は、しかもおれにはあんまり見せない柔和な笑顔を浮かべた。
――にいちゃんが、生きてたら……こんな、感じ……なのかな?
「それと、鍛錬だが、今日はルチアも付き合いと昨日言ってたな、竜登、ルチアに一言かけてきてくれ、その間にオレは色々と準備しておく」
そう言いながら上半身の寝巻きを脱ぎ捨てるタケル、元は剣道をしていたらしく引き締まった筋肉をしている。しかも身長が高いからすげぇカッコ良く見える。
……おれも、腹筋は割れてるけどチビだからなぁ……
「ん? どうした? 速くいけ」
と、そんなくだらない事を考えていたらいつの間にかタケルは着替え終わっていた。
多分、これから朝食を取りにいくからあと……長くても10分くらいかな?
じゃあ、おれはそれまでの間にルチアを呼んで、先にいっとも鍛錬してる中庭に行っとけば良いのか!
「うん! じゃあ先に中庭で待ってるから!」
そういっておれは駆け出した。目指すはルチアの部屋!
ビュンと駆け出したおれを、苦笑しながらも優しく見守ってくれた視線に、おれはきづかなかい。
「おせーよタケル!」
ルチアを呼んで、さらに途中でばったりあったカタリナも鍛錬に同席すると言って……3人で会話しながらタケルを待っていた。
う〜ん、正直、この2人が一緒にそろっているところニガテなんだよなぁ……。なんでか知らないけど急に2人が仲悪くなってワケのわかんない事でおれが怒られるンだよな。
この前、その事をタケルに言ったら冷たい目で、ドンカンて、言われた。なんで中学の時のおれのあだ名知ってるんだ?
「悪いな、またせたか? ルチア……王女様も」
「あ……全然そんなことないです!」
「わたしも……それに、タケル様も、りゅーと様の様にカタリナと及びいただければよろしいのに……」
そういって、紫色の目を曇らせるカタリナ。そうだよな、なんでいっつもタケルは王女様て呼ぶんだろう? ルチアだって、カタリナさんて、呼んでるのに。
「いえ、自分は少し……まあ、今日はつまらない鍛錬でしょが、お付き合いください」
タケルはそう言うけど、おれには全然つまんなくなんかない。タケルは……つまんないのかな?
「いえ、今回の事もわたしが勝手についてきただけですから」
カタリナがそう笑顔を浮かべて言うと、見計らった様に暖かい風が吹いた。びゅうとふく風にカタリナの髪がさらわれる。
「それでしたら良いのですが…………あと……」
タケルも、カタリナに合わせて微笑んだと思ったら、今度は何かを迷よったようなそぶりをしたあと、カタリナに耳打ちする。
「竜登は、鍛錬中に熱くなると上半身の衣服を脱ぐ癖がありますので…………できる限り対策をお願いします」
残念ながら、なんでかはわかんないけどまた強い風が吹いて、タケルがカタリナに言った言葉はわかんなかった。
けど、なんでだか、タケルの言葉を聞いただろうカタリナが急に赤くなって、まるで期待する様な目でおれの事をチラチラと見てきた。
と、思ったら。
「ッて……⁈」
急に背中がつねられたかと思ったら、後ろに膨れっ面したルチアがいた。
「な……突然なんだよ?」
「別に……」
そういって、ぷいと横を横を向いてしまうルチア、軽くウェーブの掛かった髪の毛をそれにつられて揺れる。
……変なやつ。
小さい時はこんなふうじゃなかった気がするんだけどな……。まあ、おれも、にいちゃんのことがあってからルチアに会ったのはこの世界きてからだからな……。
「っと……! じゃあそろそろ鍛錬始めるか」
その時、ようやくカタリナとの秘密の話が終わったタケルの声が響いた。
「おう!」
「はい!」
「頑張ってくださいね、みなさん」
三者三様の受け答えで、今日の鍛錬は始まった。
鍛錬は基本的に木刀で行われる。それは女の子のルチアも例外じゃなく、最初は素振りからだ。
けど、最近は、おれもタケルも素振りだけはカタリナから貰った真剣で行う様にしている。最初は重たくて持ち上げることもままならなかった鋼鉄の剣だが、最近では軽々といえないまでも振り回すことはできる様になってきた。
なんでも、全体的な筋力の増加というよりかは、魔力で足りない筋力を補っているんだって。タケルが教えてくれた。
タケルは強い、どれだけおれがタケルに追いつこうと剣を振っても、タケルは常におれの上をいっているし頭も良い。おれには全然理解できない魔法の理論だとかがちゃんと頭に入ってる。
だから、タケルはおれにとって、ライバルで、目標で……そして、にいちゃんだった。
「よしっ、素振りは終わりだ、次は実際にっ……ッ⁈」
片手で汗を拭うタケルの言葉が途中で切れた。そして、唐突に空を見上げた。つられておれたちも上空の極めて青い空を見上げる。
……なんにも、見えない。
けど、感じた。
「ッタケル! コレって!」
おれは、今だ上空を見上げたままのタケルに声をかけた。が、タケルからの返事はあまりに予想しないものだった。
「ッ逃げろ!」
その、焦りと焦燥が混ざりこんだ声がおれたちの耳に届いた瞬間。そいつらは、やってきた。
唐突に吹き上がった土埃と、共に……夕焼けより尚紅い二つの光が、土煙の中からでも確認できた。
「なぁんだ。きづかれちゃったんだ。ニンゲンにも鋭いやつはいるんだね、まぐら」
「そうだよ、土蔵。だから油断は禁物なんだよ。銀のお爺ちゃんも言ってたでしょ?」
土埃がようやくはれる。
風に開けた視界に映ったのは、一組の可愛い男の子の双子だった。
互い違いに輝く赤の目がとても印象的で、ふんわりと柔らかい微笑みを浮かべて、手をつないだ小学3年生くらいの男の子の双子……。
「えぇと、じゃあ自己ショーカイ! おれは、どぐら! 好きなものはご主人サマ、嫌いなものは、サウルちゃんと……おまえら」
「ボクは、魔蔵。好きな物はご主人サマ。嫌いな物は、サウルちゃんと、君ラ」
……その、一組の双子は最初に現れた時とまったく変わらない、すごく柔らかくて、可愛い笑顔を浮かべたまま、いってのけた。
この子達の言葉に、ただでさえ、この子達の登場に頭を悩ませていたのに、さらに混乱させられる。
右手と左手を恋人同士のように結びつけ合い、右と左の紅蓮の目をおれ達に向けてくる2人の子――土蔵、魔蔵。
次に、口を開いたのは、紅の右目を持った方――魔蔵のほうだった。
「それにしても、おざなりな作りの結界だったね……やっぱり、所詮は本来魔力を持たない人間が無理矢理魔力を操った結果かな?」
口元を、心底楽しそうだと歪める魔蔵。結界を……打ち破ったのか⁈ じゃ、じゃあ……もしかして、この達って……。
「うーん、まぐらが言ってたとおり、ニンゲンは魔法には向かない種族みたいだね。それなら、ここの勇者共の実力もたかが知れてる」
すると今度は、紅い左目をもった方――土蔵が、どこまでも無邪気な、無邪気故に残酷な笑みを顔いっぱいに広げた。
ッ……! こ、わい?
こわい。
こいつらの正体がなにか知れた時点で、怖くて怖くてたまらなくなった。
こいつらは……魔族だ。
「……オレ達が嫌われている事は良く分かった。が……其れで、此処に何をしにきた? お前達のご主人サマってのは一体誰のことだ?」
そんな、おれが怖くて震えている時にも、タケルは冷静に状況を分析して、 少しでも情報を得ようとしていた。
ッ……! そうだ! おれだって、もう、あの時のおれじゃない!
「僕ラの目的? うん、もう君ラも気がついてると思うけど……君ラの、首かな?」
「で、おれ等のご主人サマ? ねぇ、まぐら、言っていいの?」
魔蔵は、表情を変えていなかったが、土蔵は少しだけ悩む様な仕草を魔蔵に向ける。
それだけをみればお互いに頼りあっている双子の微笑ましい図なのに、どうしても目的と、会話の内容のせいで、警戒せざる得ない。
「そう、だね……少なくとも、君ラが束に成ってかかった所で、ご主人サマには指一本として触れられない……て、事だけ言っておこうかな」
魔蔵は少しだけ悩む様な仕草をするが、再び変わらぬ笑顔を浮かべ、おれたちに向き直る。
おれたち……おれと、タケルもそれに呼応するように剣を構える。切っ先はぶれずに、双子を捉えているが、おれの呼吸は始めての敵……刃物を生き物に向ける恐怖で酷く荒く、乱れていた。
「はぁ……はぁ……クソッ!」
「落ち着け、竜登……わかってると思うが、あいつらは……強いぞ」
ふと、タケルの横顔を見上げる。陽光に照らされた顔は、真剣そのもので、鋭く冴える視線は、双子を決して離さない。というような意地がみて取れた。
ッ……! そうだ、おれも……やつらから、目を話している場合じゃない。
目の前の2人が、おれたちが構えた気配を捉えたのか、より一層……特に土蔵がその笑みを強く深い物にしていく。
瞬間、双子の、お互いつないでいない手が、同時に胸の高さまで伸ばされる。
土蔵は右手を、魔蔵は左手を……。
一触即発の空気が濃厚になる中、突然の制止の声が掛かった。
「っまって! リュートくん、タケルさん! 土蔵くんも、魔蔵くんも……!」
それは、その声は、普段とても小さな声で話すおれの幼馴染からは考えられないような大きな声だった。
鍛錬の時も小さな声で剣を振るうルチアが、今、本気の腹のそこからの声を上げた。その隣ではカタリナも僅かに目を見開いて驚きを示している。
「なぁに、水の勇者? おれ等の邪魔スンの?」
「ダメだよ、土蔵そんな事言っちゃ、話しはきこ?」
「……まぐらが、そう言うなら」
双子は短い問答をやり終え、その意識は水の勇者……ルチアへと向かう。
一気に5人の視線を浴びたおれの幼馴染は、一瞬緊張したように顔をこわばらせたが、直ぐに意を決したように再び、大きな声で祈るように言った。
「理想論である事はわかってるけど……この場は、話合いを――」
ルチアの言葉が最後まで言われないうちに、しかし、その意を汲むには十分な言葉を遮るように、おれと、タケルとの間に凄まじい風が奔った。
ッ……⁈ 今の、まさか!
おれとタケルが、その風を追って、後ろを振り向くと、そこにはルチアの腹部にその小さな右の拳をめり込ませる土蔵の姿があった。
「うん、まぐらの言うこと聞かなくてもわかる……――却下」
音も、声も無く崩れおちるルチア。その光景に一瞬頭が真っ白になる。
「ッ……テメェ!!」
おれは、ほんの今朝がたカタリナから貰った薄刃の剣を下に構えて今だ倒れて動かないルチアを見下ろす土蔵へ肉薄しようと、駆けるが……。
「まっててね、君ラの相手は僕がするから」
突如、目の前に瞬間移動したとさか思えない速度で現れた右眼に紅を宿す少年に困惑する。
「ッどけぇぇぇ!!!」
おれは、行先をふさぐ、不適な笑みを浮かべる魔族の子どもに剣の……刀で言う、峰の部分を振るった……が。
「――なっ……⁈」
「あはっ……怖いな、人間の勇者。そんな疾悪の目で見られたんじゃ……僕、ゾクゾクしちゃう」
おれの、全力をかけて振るった刃は、しかし、あっさりと視線も動かさず、魔蔵の小さな左手に収まる。
けど……!
「――ッいけ! タケル!」
そう、おれの後ろにはタケルがいた。おれの後ろからずっと、タイミングを測っていてくれた。
コイツは、おれが此処で食い止める……‼
だか、魔蔵の次に放たれた言葉は、おれたちの考えを見透かしていた事を露呈する、余裕と絶望の言葉だった。
「だから、言ってるじゃん。“君ラ”の相手は僕がするって――まぁ、もう良いみたいだけどね」
瞬間、おれの横を通り抜けようとしたタケルが、空中で海老おりになって吹き飛ばされる。
――え?
タケルが通り抜けようとした、その場所に土煙が上がり、其れが風で消え失せた時、その正体がうつった。
「ごめんね、まぐら、まった?」
「ううん、土蔵……予定よりも早いくらいだよ?」
そう言い合いながら、再びあの柔かい微笑みを浮かべ合いながら、寄り添う2人。
その時に、今まで掴まれていたおれの剣も、興味が失せたと言わんばかりに魔蔵の指の中から解放される。
倒れたまま動かないルチア、呻いて、腹部の痛みに耐えるタケル。そして、無力なおれ。
そんな、無力なおれの目の前で、再び双子は手をつなぐ、指を絡ませ合いながら、背をくっつけ、微かに首を此方に傾けて、おれに微笑む。
「うん……この中で今、一番強い仔はやっつけたね」
「まぐら、それって空の勇者のこと?」
「うん、今はまだ……ね、だから嫌な未来の芽は、ご主人サマのためにも、僕ラのためにも、早いうちに積んでおかなくちゃ」
「そうだね……そのせいで、前はおれ等壊されちゃっんだもんね」
微笑み合いながら、お互い視線を交わせる事無く、柔らかい口調で会話をしていた。
その視線は、常に、おれに向けられていた。
「うん……じゃあ、あれいく?」
「そうだね、アレだね」
そう、双子が言った瞬間。再び、双子のつないでいない手が、胸の高さまで伸ばされる。
まるで、さっきの再現だ。……さっきと違うのは、おれの隣にタケルがいない事だけだ。
「「“誦詠”『ちはやぶる 神代に散りぬ 灰燼の いと愛おしきは 夜半の月影』 “灰燼”“石弾”」」
っ⁈ やばい!
それは、紛れもない魔術の気配。しかも、おれたちが普段鍛錬なんかでやっているような魔術とは比べものにならない、圧倒的な魔導の差がそこにあった。
双子の体内の魔力が消費された事を、探知能力の低いおれでもわかった。
……おれでもわかるほど、膨大な魔力が双子の体から流れ出た。
そして、魔力が双子の体から放出されたその瞬間に、灰色の嵐がおれの視覚を覆い尽くす。
「クソッ! なんだよ! これ」
おれが、荒ぶる灰の中、ようやく僅かに目を開く事ができた、その瞬間に……!
「グ……か、ッフ!」
おれの腹部に、これまでの16年の人生で一度として感じた事の無い激痛が貫いた。
いや、激痛だなんていう生半可な表現では足りない。無数の剣に腹部を突き刺されるような想像を絶するような苦痛。
其れが、閉じた視界の中、おれに与えられた唯一の真実だった。
口内に血の味と、逆流仕掛けた胃液の味が混じり合う。
腹部……腹から太ももにかけてどろりと、生暖かい液体が滑り落ちる。
「ア……クッ……」
それでも、おれはこの暗黒の中で立ち上がっていた。それが、唯一おれに残された意地だったからだ。
「あはっは……まだ立ってられるんだね、君にお見舞いしたのはサウルちゃんにヤったやつとは込めた魔力は桁違いなのに……やっぱり、君は、君ラの中でも特に危険みたいだね」
そう、決して土蔵では無い声がおれの鼓膜に張り付いた時に、あの暴れまわる灰色の嵐が収まる気配を感じた。
恐る恐る目を開けると、そこにはおれが予想した以上に凄惨な光景が広がっていた。
視界に映る色は全て、灰色。それ以外の色が、あまりにも鮮やかに映るほど、その世界は無個性な色に支配されていた。
この中で……この、土蔵、魔蔵以外の2人で立ち上がっているのはただ、俺だけだった。
魔蔵はおれのすぐ目の前、あとほんの少し近寄れば唇が当たる程の至近距離、土蔵は石か何かの上に乗り、此方をつまらなさそうに見ていた。
唯一、おれたちの中で灰の被害を被っていないカタリナとルチアも、気を失ったままのルチアを守るように、カタリナが側にうずくまっている。
正直、おれもこの二本の脚を精一杯張って、ようやく立っていられるような状態だ、いつ膝が崩れてもおかしくない。
足元、元の世界から履いているスニーカーに液体の落ちる感触を覚えて、視線を落とす。
真っ先に目に入ったおれの腹は、夥しい程の石のつぶてが突き刺さり、おれの体を珠に染めていた。
灰と珠の混じり合ったどす黒いおれ自身の赤の色に、眩暈を……吐き気を覚える。
ほんの少し、手を伸ばせば届く所に、胸ぐらをつかむ事ができる相手が居ながら、おれにはそれができない。それどころか、指一本にさえ力がはいらなかった。
「まぐら……こいつ、どうするの?」
その時、何かを踏み台にしていた土蔵の足元へと、目がいった。石か何かかと思っていたそれは……‼
「タケル……⁈ てめぇ……たけるを、離せ……!」
タケル と、叫んだ瞬間に、おれの腹から鮮血が迸ると共に、一気に体力がもっていかれる。
遂に、おれは我慢できずに片膝をついてしまう。
「クッ……ソ……」
あまりにも圧倒的な差に、おれは涙すら流して居た。
「離すも何も、おれ等、別に空の勇者を拘束してるわけじゃないんだけど?」
不思議そうに、本当に純粋に不思議そうに首をかしげる土蔵、その脚の下には灰に埋まったタケルがいる。
「足を……どけろってんだよ……!」
再び、大きな声を出すと、耐えきれず血液が吹き出し、生命が漏れ出す錯覚を覚える。
「煩い」
だが、そんなおれへの返答として帰ってきたのは、いつの間にか魔蔵と並んだ土蔵からの回し蹴りだった。
おれの左肩をえぐるように打つ細い脚は、けれど、弱ったおれを横倒しにするには十分すぎる威力だった。
声も無く灰燼の中に横たわるおれ、顔も、髪も灰にまみれ、今のおれの体で唯一色をもっているのは腹から流れ出す生命の色だけだった。
それでも、おれはこの双子を見上げながらも睨めつける事をやめない。それでしか、おれは抵抗する事ができない。
目の前の双子の姿が霞んで見えるが、2人が再び、手をつなぎ、彼ら自身を結び合わせたのだと、わかった。
「ねぇ、まぐら、こいつで良いの?」
「うん、贅沢は言ってられないからね……幾らご主人サマから魔力供給があるからと言って、僕ラもあんまり使いすぎたらまた壊れちゃうからね」
そう、おれにはまったく理解できない言葉を喋ると同時に、魔蔵がおれに視線を合わせるように膝まづいた。
次に何かくる事が予想できても、全身の力が抜け、弛緩した状態では身構える事もできない。
ちく……しょう。ルチアも守れなくて、タケルも助けれなくて、震えているカタリナを救う事もできない……! 勇者なんて言われて、浮かれて、天狗になって……そのざまがこれかよ……!
「それにしても、君ラは魔力の使い方が下手だよね、魔道書と契約してないから、て言うのもあると思うけど、身体能力の底上げなんかだけに使ってたら、せっかく沢山ある魔力がもったいないよ、空の勇者もそう。せっかくサウルちゃん以上の魔力があるんだからね……さてと“誦詠”『粗金の 土に奉ずる 我が生命 畏みいでて 思ひそめしか』“吸引”』」
そんな、会話の中に唐突に混ざり込められた魔術の言葉が言い終わると同時に、魔蔵が、その小さな口でおれの首元に食らいついてきた。
「なっ……⁈」
しかし、それだけではなかった、おれは、吸血鬼に血を吸われるかのように、魔蔵に魔力を吸われていた。
緩慢に、緩慢に……おれを弄ぶようにゆっくりと貪られるおれの魔力。
徐々に、しかし減っていく事を明確に察することのできる恐怖が、おれの心を恐怖で埋めて行った。
そして、おれの体内の魔力が、おそらく6割を切った時、ようやく、おれの首から魔蔵の幼い牙が引き抜かれる。その、唇はおれからの血で真っ赤に濡れており、美しさを錯覚する程、片目に煜く紅と、灰色の世界との絶対的な関係であり、調和だった。
灰色の世界、摂取される赤、摂取する紅……おれは、どうしようも無く、この世界で、魔族の……双子の前で、あまりにも虫けら同然に無力だった。
「ンふ……君の魔力……美味しいよ……? 土蔵も、直接呑んだら? 勇者を摂取してるとおもうと……僕、ゾクゾクしちゃう」
ゾッとするほど淫靡な笑みを、唇に滴る血もそのままに浮かべると、今だタケルの上に蹲る土蔵へと声をかけた。
これ以上……おれは、魔力を……⁈
明確な恐怖が、ついさっきまで睨みつけて居たはずの双子に、縋るような目をさせる。
が、土蔵はそんなおれのほうなどみていないで、つまらなさそうにいった。
「べつに、良い。おれ、まぐらみたいにへんたいじゃないし、おれ等はリンクしてるから、お前が摂った魔力はコッチにくるし……それわかっててリュウトから魔力とったんだろ」
つまらなさそうに、あくびをこらえるような声で言って、タケルの上から立ち上がり、魔蔵の元に歩み寄る。
「まあ、ね……それより、最後の仕事……」
「うん……第二王女、カタリナも殺しとこう」
なっ……⁈
クソッ! 待ちやがれ!
心の中で、深い憎悪と共に心が震えるにも関わらず、おれの体は指一本さえ動かない。
視界に映る、笑顔を浮かべ、指を絡ませる双子と、彼らに見られ、涙を浮かべるカタリナ。
クソッ……! 動け、動け! 動けぇぇぇ!!!
「ち……く、しょうっ!!」
痛い、身体中をぶつけたような激痛が体内、外を駆け巡る。
おれは、今日……ほんの数時間前にカタリナから貰ったばかりの剣を杖に、そいつらに向かい合った。額から流れ落ちた液体が血か、汗かはもう区別がつかない。
灰燼を朧のように纏って微笑むそいつらの石炭のような紅蓮の瞳が、その灰色の世界でも尋常でない輝きを放っていた。
「君……まだ立ち上がるんだ?」
右手を相方と握り、右目に紅の煌めきを持つ少年――魔蔵はおれ、おれたちを嘲笑うように、見下ろした。
「本当に……なんでサウルちゃんも、あの銀翁も、君ラを野放しにするんだろう……摘み取れるうちに、摘み取っておかないと……あとあと面倒な事になるに決まってるのに……あの時も、“紫瞳の獅子王”にやられちゃったんじゃないか」
魔蔵の深い呪いにも似た呟きと共に、紅と翠の眼が細まる。その、茶色のまつ毛に縁取られた眼からはなんの感情も読み取れない。
「ハァ…… ハァ……」
首から……また、腹からも鮮血が、外へとドクドクと流れ出ている。
「そんな、立つだけでも辛い状態なのに、むしろ、立っていられる事が不思議なくらいなのに……なんで、立ち上がるの? ……なんで?」
頭の中で痛いほどに木霊する魔蔵の声は、けれど、おれにはその言葉を理解する余裕はなかった。魔蔵の言うとおり、今のおれは、立っているどころか、意識をつなぎとめておく事すら難しい状態いだからだ。
「そんな事どうでもいーじゃん、こいつがおれ等の邪魔するなら、こいつから先に片付けようよ!」
そう、不満そうに唇を尖らせて、眉を曇らせている土蔵が一歩前へ進み出る。
ッ……! やられる!
遂に、明瞭に突きつけられた濃厚な殺意の気配に、おれは、決然とした覚悟すらできて居た……が、いつまでたっても、おれの意識、生命を刈り取る凶刃は襲ってこなかった。
何故なら……。
「ま、まぐら……? なんで止めたの?」
困惑する土蔵の声が、全てを物語っていた。そして、おれ自身も、死の……解放の時間が先延ばしにされ、驚きと、恐怖が再燃する。
だが、おれの予想に反して、魔蔵の口から紡がれた言葉は、優しさと、残酷さに満ちた決定だった。
「……残しておこう」
「なんで⁈ だって、こいつらいつご主人サマの所にくるかわかんないんだよ? また、前みたいに何時でも殺せる。なんて息巻いてたら……また、おれ等壊れ――」
土蔵の唇に、そっと細い指があてがわれる。その指一本は、土蔵の言葉の勢いを削ぐには十分な効果を発揮していた。
「ご主人サマの敵は勇者タチだけじゃないよ、サウルちゃんや、銀翁だってそう。それに、彼らに至っては勇者タチに生き残って貰わないと、ご主人サマが危険にさらされる事になりそうだしね……」
「……じゃあ、なんで、勇者タチを殺そうだなんて……」
「殺そう、なんて言ってないよ……ただ、ご主人サマとの実力の差を見せつけにきただけだし、本当に殺したかった相手は、まだ消せないみたいだからね」
そう言って魔蔵の視界が何かを探るように灰色の世界を眺め回す。
そして……
「バイバイ、火の勇者。精々、魔力の操り方くらいは覚えて、また僕ラに挑んでね……行こ、土蔵」
「……リュウト、多分、いつか此処で殺せなかった事を後悔すると思うけど、殺したらもっと後悔しそうだから辞めとく……強くなってね……」
そう、言い残して双子は手をつないだ。片方は柔和な笑みを浮かべ、もう片方は複雑な表情を形作りながら……彼らは、宙へ浮かび、彼方へと飛んで行った。
おれは、ようやく訪れた静寂に感謝しながら、灰の大地の抱擁を全員に受けた。
銀のお爺ちゃんが途中から銀翁に変わったのは打つのがめんど臭かっくなっから尖らせて、書いてる途中に魔蔵くん攻め、土蔵くん受けを妄想したり、タケルくんの名前が脳内でサウル→シゲル→タケルの順番で変換されたり、ばら撒きまくった伏線を忘れていたり、魔蔵くんがSに目覚めてしまったり、何より1万文字超えてしまったり。
裏話が尽きない14話でした!次回はきよとくんに視線をお返しして、サウルちゃん邸の訪問をしたいと考えてまーす、予定ですね(重要ですね!)