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百合色革命  作者: 水月さなぎ
第二部 VS篇
92/92

約束の銀色

 事件は解決して、邑璃のワガママ発動&悊人氏の親バカ炸裂により、春日位天華は俺達の部屋に住まうことになった。


 幽閉はされないで済んだらしい。


「感謝なんてしてないからなっ!」


 と言い張る天華。


 まあ、感謝して欲しいわけでもないけれど。


 でも感謝したくない気持ちは良く分かる。


 俺と邑璃のスペースにはベッドがあるので、天華のベッドは共用スペースに置かれることとなった。


 元々が広い部屋なのでそれぐらいの余裕はある。正直なところ五人ぐらいで住めそうな広さだし。


 新しいベッドと勉強机。


 そして天華専用の本棚を運び入れていた。


「てんちゃ~ん。ちゃんと今日の分も読むんだよ~」


「………………」


 で、今回のペナルティとして邑璃はおぞましい罰を天華に科したのだった。


「いつか絶対復讐してやる……」


 ぼそりと影を背負った表情で呟く天華。


 天華に科されたのは『BLコミック&小説を読んで読書感想文を書くこと』だった。


 ……えろほんの意味すら知らなかった激ピュア少年になんて惨い仕打ちをするんだと他人事ながらも涙を流したくなったものだが、たしかにそれぐらいの罰は受けてもいい。それぐらいのことはやってしまっている。


 だから庇う義理もないのだが。


 ……しかし律儀に読んで感想文を書いている天華だった。


 腹は黒いけど根っこのあたりは以外と素直なのかもしれない。罪悪感なんてものは間違っても存在しないだろうけれど。


 ……もしくはにこにこ笑顔でグレネードランチャーが絶妙なトラウマになってたりして。


 アレは今でも思い出したくないぐらいだし。


 とにかく俺達の共同生活は意外と上手くいっていた。


 天華も渋々ながらもこの先二度と幽閉されずにすむという事実がそれなりの光明になっているらしく、子供らしい明るさを時々は取り戻している。


 ……邑璃のペナルティが台無しにしているかも知れないけれど。


 がんばれ。くじけるな。そして穢されるな。


 ……無理かも。



 そして邑璃の方は開発室でメイド&執事ホログラムAIの商品化に成功し、オタクイベントでのお披露目会を行った。


 結果は大盛況。


 もとい大成功。


 商品ラインに乗せる事が決定し、次期当主の座は揺るぎないものになった。


 この商品による塔宮グループの利益貢献はかなりの額になるからでもあるが、ホログラムAIに使われている技術そのものがグループ全体にとってとんでもない利益を生み出すことが判明したからかもしれない。この技術還元によって、電子機器部門は更なる利益を上げることだろう。


 これだけの功績を挙げた邑璃の当主確定に文句を付けられる候補は誰もいなかった。


 緋樫でさえも渋々ながら今後の開発室所属を承認したぐらいだ。


 ……もっとも、彼の場合はステア目当てというところも大きいのだろうけれど。


 二人は中々に良い関係だ。お互いの存在がいい刺激になって次々と面白いアイデアを生み出してくれる。


 先進技術開発室は邑璃の当主就任後、ステアが引き継ぐ予定になっている。


 他の面々も渋々ながらも邑璃を認め始めている。


 咲来あたりはまだ素直になれていないが、今後は目標を変更したらしい。


「いいですわ。当主は邑璃さんに譲りましょう。今後、星稜院家の目標は塔宮家からの独立です。事業を拡大させて塔宮の手綱、つまりは邑璃さんの手綱から離れて見せましょう」


「え~。いっしょに頑張ろうよ~」


「お断りですわ~」


「あう」


 気楽に言う邑璃にでこぴんする咲来。


 個人的には独立に賛成だ。


 塔宮家の利益云々よりも、友達が頑張る姿は普通に嬉しい。



 その他の面々はアーティストを目指したりその応援をしたり、何故かお仲間の秘書にアタック開始したり、そんな様子を高みの見物してにこにこしていたりと様々だ。


 ……誰が誰とは敢えて言わないでおくが。



「と、まあこれで邑璃が当主になることは確定したわけだ」


「おめでと~♪」


「ありがと~♪」


 俺と邑璃とステアで当主確定祝い寿司パーティーをしていた。


 場所はもちろん十兵衛。


 なので俺は今回女装姿だ。


 男の姿で来たら大将にぶっ殺される。


 包丁怖い。まな板怖い。


「おいし~」


「うまうまだね」


「うん。おいしい」


 美味しいけれどね。


 握った人の人柄さえ無視すれば非常に満足だけどね。


「でも僕がいていいの? 二人っきりでお祝いしたかったんじゃないの?」


 ステアが遠慮がちに聞いてくる。


「もちろん二人きりがいいに決まってるじゃない。でも馬鹿皇子を無視するのは気分が悪い」


「おやおや、何でかな?」


「なっちゃんを助けて貰ったから。これはそのお礼も兼ねてるの」


「あはは~。律儀だね。まあありがたく頂戴するけどさ」


 なるほど。これは救出劇のお礼も兼ねてるわけか。


「ん。でも二人なら大丈夫そうだね」


「何が?」


「僕がいなくても」


「へ?」


「え?」


 いきなりの台詞に俺達が固まる。


 まるでいなくなるみたいな言葉。


 どういうことだろう。


「僕がナツキと交わした契約は『ユーリちゃんが当主になる手助けをすること』。その契約はもう果たしたし、僕がいる理由はなくなっちゃったんだよね」


「……国に帰るつもりか?」


「うん。ちょっと迷ってる。技術開発は軌道に乗ったし、後進も結構育ってきてる。そろそろ国元で事業を興すのも悪くないかな~って」


「もしかして命令されてるの?」


「いや。あくまでも僕の判断だよ。僕は邑璃ちゃんの部下だけど、同時にS国の利益も考えなければならない皇族だからね。どっちがより国の、そしてアレクの利益になるのかを考えているのさ」


「つまり悩む程度には微妙なわけだ」


「まあね」


「じゃあここにいればいいじゃないか。命令されてるわけでもないんなら帰る必要もない」


「え~。でも契約は……」


「契約とか関係ない。俺は友達と離れるのは嫌だ」


「………………」


 あ、ステアが面白い表情になっている。


「……待て。俺は今までステアのことを友達だと思ってたつもりだけど、ステアは違ったのか? それって結構傷つくぞ」


「あ~……いや……そういう訳じゃないけどね……」


 何故か真っ赤になって照れている。


 どうやら友達と思われていないのではなく、立場上そういうのとは縁のない人生だったようだ。それならば話は早い。


「友達だろ?」


 自覚させればいいんだ。あやふやなまま付き合ってくれたステアに友達だって思って欲しいから。


「……僕でいいの?」


「いいに決まってる」


「仕方ないからわたしも友達になってあげるよ馬鹿皇子」


 何故か邑璃まで便乗しているけど、まあいいか。


「そんなに僕にいてほしいの?」


「よし。じゃあステア好みの台詞で引き留めてやろう」


「?」


 すーっと息を吸い込んで精神を落ち着ける。


 とりあえず羞恥心を押さえこまないと実行に移すことは難しい。


 せーのっ!


「か、勘違いするなよな! べ、別にステアにいて欲しい訳じゃないんだからなっ! ただいなくなるとちょっと張り合いが無くなるってだけで、ほんとにいて欲しいわけじゃないんだからなっ!」


 ザ・ツンデレ。


 こっちに来てオタク趣味に多少目覚めた気配のあるステアにとっては中々に効果のある台詞だと確信している。


「よし分かった! そこまで言われちゃ仕方がない! 僕はしばらくここにいるよっ!」


「あっさりだ……」


「軽いね……」


 目論見通り期待通りの結果ではあるけれど、何だか色々と微妙だった。


 まあ、いてくれるのは嬉しいけれど。



 寿司も食べ終えて、食後のお茶を飲みながらのんべんだらりとしている。


 この部屋は貸切なのでとりあえず急いで帰る必要もない。


「僕はこの辺で失礼するよ」


「もう帰るのか?」


「うん。デートの約束があるから」


「なんとっ!?」


「誰と!?」


「……食いつきいいね」


「あはは」


「で、誰なの?」


 呆れ視線を向けてくるステアに気まずくなる俺達。


 しかし興味はある。


 ステアのデート相手とは一体誰なのだ!?


 もしかして俺の知らない相手か!?


「サクラちゃんだよ」


「え……」


「まじ!?」


「まじまじ。ユーリちゃんとナツキが結構仲良くなってるのを近くで見てきたからね。地味に凹んでたんだよ彼女。で、傷心のサクラちゃんを僕が優しく慰めてあげたんだな~これが」


「うわ~。定番すぎる……」


「でもさっちゃんなら安心かな」


「つーか彼女付で国に帰るとか言ってたあたりマジ外道」


「いやいや。その時はサクラちゃんの独立を手伝ってから連れて帰るつもりだったし。S国に本部を置いて貰ったりね」


「地味に計画的だ!」


「といってもまだ本格的に付き合ってる訳じゃないよ。デートも今日が初めてだしね。お友達から始めましょう的なお試し期間って感じさ」


「なるほど……」


 しかし、あの咲来がねぇ……。まあステアとなら歓迎だけど。いいヤツだし。ちょっと性格と性癖に難があるけどいいヤツだし。


「咲来は大事な友達だ。出来ればあんまり泣かせるなよ」


「失礼な。僕は女性に対しては紳士的だよ」


「わたしのことあれだけいじめといて何を言うか!」


 さんざんからかわれた邑璃が抗議する。


「愛だよ愛~」


「これからデートに行く奴が言う台詞じゃねえな」


「あ、間違えた。親愛だよ親愛~」


「………………」


 ぷくりと頬を膨らませる邑璃。


 そろそろ送り出した方がよさそうだ。


「行ってこい」


「はいな~」


 ひらひらと手を振って部屋を出て行くステア。


 健闘を祈る。



「それにしても咲来とねぇ」


「案外いい組み合わせかもね」


「それは言えてる」


 歓迎できるカップリングなことは間違いない。


「さてと」


 邑璃は鞄のなかから何かを取り出す。


「邑璃?」


「わたしの次期当主確定祝いとしてなっちゃんにはこれを受け取って欲しいのだっ!」


 だんっと机の上に置かれたのは青い小箱だった。


「……待て。邑璃のお祝いなのにどうして俺が受け取るんだ? 普通逆じゃね?」


「精神的に受け取りたいからだよ」


「………………」


 邑璃は小箱を開けてずいっと差し出す。


「………………」


 中身は予想通りに指輪だった。


 婚約指輪、という奴だろう。


「受け取って受け取って受け取って受け取って」


「繰り返すな!」


 つーかこういうのは普通男の側が渡すもんじゃね!?


 なんで邑璃から渡されなきゃならないんだよっ!?


「う~け~と~れ~……」


「脅迫もすんなっ!」


 目の前に差し出された指輪。


 それを受け取るかどうか悩む。


「なっちゃん。わたし頑張ったよ。なっちゃんがいてくれたからここまで頑張れたよ」


「………………」


「だからこれからもなっちゃんがいてくれたらもっと頑張れる気がするんだ」


「………………」


 邑璃の言葉はいつだって直向きだ。


 誤魔化しが無く、直接心に響いてくる。


 だからこそ俺は逃げることも引き伸ばすことも許されない。


「……どうしても、俺がいいわけ?」


「どうしてもなっちゃんがいいんだよ」


「………………」


 やれやれと肩を竦める。


 これを受け取れば後戻りは出来ない。


 出来ないけれど……


「ま、いいか……」


 ひょいと二つの指輪のうち一つを手にして指に嵌める。


「っ!」


 その瞬間、邑璃はぱっと表情を輝かせた。


「なっちゃーんっ!」


「ぐはあっ!」


 邑璃が机を飛び越えて飛びついて来やがった。


「いてえっ! 重いっ!」


「大好き大好き大好き~っ!」


「分かった! 分かったから離れろ!」


「やだ~っ!」


「だあ~~っ!」


 早くも後悔してしまった。


 この後、邑璃が離れるまで十分ほど藻掻くことになる。


 俺の首が絞まったことに気付いた邑璃が慌てて離してくれたのだ。


 もっと早く気付け。死ぬから。



 ……とまあ、こんな感じで俺も腹をくくることになったわけだ。


 仕方ないよな。


 誘拐されて一人きりでいたとき、邑璃に会いたいって気持ちが一番強かったんだから。


 結局のところ、俺も邑璃がいないと駄目っぽい。


 だからこれでいい。


 世話が焼けて肝心なところで馬鹿で、どうしようもなく寂しがりで直情的なこの女の子を、これからは俺が守っていこうと思う。


 一緒に、生きていこうと思う。


 その覚悟を決めるために、俺は指輪を嵌めたのだから。


「じゃあ行くか」


 立ち上がって手を差し出す。


 俺から手を繋ごうとしたのは初めてだ。


「うんっ!」


 邑璃は嬉しそうにその手を取った。


「ずっと一緒にいようね、なっちゃん」


「……ああ」


「ちょっとその間はなんなのーーっ!?」


「……なんとなく?」


「ばかーっ!!」


 ……まだまだ素直にはなれないかもしれないけれど。


 でもきっと、俺達にはこれぐらいがちょうどいい。


 これぐらいが、きっと楽しい。


 二人の手には銀のリングが飾られている。


 約束の証。


 一緒に生きていき、それから一緒に頑張っていくという約束の銀色。


 これまでも、これからも。


 俺は塔宮邑璃と一緒に生きていく。


というわけで完結であります。

長い間お付き合いいただきありがとうございます。

いろいろはっちゃけすぎていた百合色ですが、本編はこれでお終いです。

ゆーちゃんとなっちゃんは幸せになりました。

さりげにステアっちと咲来っちも幸せ者になる予定であります。

不幸なのは天華っちだけです(酷)。

それでは今後は魔女っ娘の方で頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします。

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