女の園は拷問空間!? 01
「初めまして、えっと、邑璃さん」
意外とまともな対応をされたのでちょっと拍子抜けだった。かなり癖のある人物を想像していただけに。いや、まだ猫を被っているだけかもしれないが。
「初めまして! えっと棗生さん、でいいよね? 苗字おんなじだし」
「え、ええ」
「これから仲良くしてくれるとうれしいな!」
「え、ええ。私でよければ」
無邪気な表情で差し出された右手を握り返す。何だか底抜けに明るい娘だな。ハイテンション過ぎて若干引くけど、まあ許容範囲ではある。
「じゃあ後のことはお願いしてもいいかしら、塔宮さん」
季武さんは問題なしと判断したのだろう。そのまま退室しようとする。
「はい! まかせてください。マキちゃん!」
マキちゃんとは季武さんの愛称なのだろう。季武さんはそのまま部屋から出て行ってしまった。
そして二人っきりになる。
邑璃はじーっと俺の方を見ている。いや、凝視していると言ったほうが表現としては正しいのかもしれない。
「な、なに……?」
思わずたじろぐ俺。まさかもう正体がバレたとか?
「……荷物、ないの?」
「え? ええ。こっちで全部揃えられるって言われたから……」
どうやら手ぶらで入寮してきたのが不思議だったらしい。俺は新堂から渡されたブラックカードを提示した。すると邑璃はぱっと顔を輝かせる。
「あ、それわたしも持ってる! お揃いだね!」
邑璃は自分の机の引き出しから同じカードを取り出してきた。本当に全く同じものだ。唯一の差異は裏に記載されているシリアルナンバーくらいのものだろう。
どうやらコレは塔宮家専用カードらしい。俺が塔宮家の一員かどうかはひっじょーにビミョーなところではあるが。期間限定だし。
「あ、そうだ。棗生さんの荷物、先に届いてる分もあるんだよ。こっちこっち!」
「わっ……ちょっと……」
ぐいぐいと俺を引っ張る邑璃。やはりテンションが無駄に高い。
しかもこの部屋、かなり広いぞ。学生寮の二人部屋なのに二十畳くらいあるんじゃないか? さすがに贅沢すぎる気が……。中の家具類もさりげに高そうだし。ソファーとか革張りだぞ? いや、塔宮家の跡取り娘だから特別待遇の部屋にいるだけなのかもしれないが……
いやしかしそれにしたって一般庶民にはかなり目の毒な光景だ。簡単な区切りとしては左右に八畳くらい、中心に共用スペースとして六畳くらいになっている。窓際側が邑璃のスペースになっているので、俺のスペースは壁側の方だろう。邑璃もそっちに俺を引っ張っている。一段だけ段差を下りると、ベッドと勉強机、それと本棚があった。勉強机の方には塔宮学園でこれから使う教科書が積まれている。
そしてベッド脇には段ボールが一箱置いてあった。
「これ?」
「うん。これ」
俺が軽く段ボールを指さすと、邑璃は得意げに頷いた。
「とりあえず、開けてみたらどうかな?」
「……ええ」
差出人は村雨恭子となっている。何だか非常にイヤな予感がするのだが……。
俺はガムテープをビリビリと剥がして、中身を確認した。
「…………」
「あ、ウチの制服だね!」
中に入っていたのは塔宮学園の女子制服だった。それはいい。それはいいのだ。どのみち必要になるのだから。
「………………」
問題は制服や体操着の下に入っている下着類についてだ。
「………………」
俺は恐る恐るその一枚をつまみ上げる。黒のショーツ。
女性用!
薄くてレース地で男が穿くにはこの上なくハードルの高い小さな布!
つまり、何だ?
コレを穿けと!?
俺に穿けと!!??
「どうしたの? 顔色悪いよ?」
「……な、何でもない……何でもないの……」
キョトンとした表情で俺を覗き込んでくる邑璃に、若干引きつった笑顔と声で応える俺。
恭吾に若干の殺意を覚えながら、俺は忌々しい舌打ちをしそうになるのを何とか堪えて、そのブツを箱の奥にしまい込んだ。中にはブラジャーらしきものもがあったような気がするが、とりあえず見なかったことにしよう。現実逃避万歳!
「ちょ、ちょっと外の空気吸ってくる……買い物にも行きたいし……」
「あ、それなら一緒に行こうよ! まだ店の場所とか知らないでしょ?」
「大体の位置は地図を見れば分かるけど……」
「わたし、邪魔……?」
「う……」
うわあ……。そんな捨てられそうな子犬みたいな上目遣いで見られるとすごく返答に困る。つーか断り辛っ!