表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合色革命  作者: 水月さなぎ
第二部 VS篇
88/92

黒幕登場

 連れてこられたのは日本家屋だった。


 庭園があって、川があって、滝まであるというちょっと普通では考えられないぐらいの規模だ。


 どこの旧家だよと突っ込みたくなるのだが、誘拐された身としてはあまり身の程知らずなことも言えない。


 部屋に運ばれた時点で俺の意識は回復したのだが、逃げ出すことはとても難しい。


 部屋の外に見張りがしっかりと立っている。


 屈強なマッチョ二人組。


 とてもではないがいち高校生にどうにかできる相手ではない。


「はぁ……」


 ごろごろしてみる。


 い草の匂いが心地いい。誘拐先だというのに緊張感がほぐれそうだ。


 こういうのにほっとするってあたり、俺は生粋の日本人なんだなぁと思ってみたりもする。


 枢さんの姿は見えない。


 どうやら彼女の役割はあれでお終いのようだ。


 枢さんはこの誘拐の実行犯ではあっても首謀者ではない。


 黒幕は別にいる。


 まったく根拠はないのだが、この誘拐事件と開発室爆破事件の犯人は同じなのではないだろうか。


 根拠はないけど、勘がそう告げている。


「……なんだかなぁ」


 トラブルに巻き込まれ過ぎる自分にちょっと嫌気がさしたりする。


 しばらくすると足音が近づいてきた。


 どうやら誰かやってくるようだ。


 起き上がって身構えると、障子が開いた。


「よう、変態野郎」


「………………」


 そこにいたのは意外と言えば意外な奴だった。


「どうした? 誘拐犯が目の前にいるのになに間抜け面さらしてるんだ?」


「……お前が?」


「そうだ。枢に頼んでお前を誘拐してもらった」


「……開発室爆破は?」


「ああ、確かそんなこともしたな。忘れてた」


「………………」


 俺と邑璃が死にかけたというのに、忘れてたとのたまいやがった。


 さすがにちょっと腹が立ってきたぞ。


 いくら子供とはいえ、やっていいことの限度をとっくに超えている。


 そう、子供だ。


 目の前にいたのは、春日位天華だった。


「天華。何でそんなことをしたんだ? 俺や邑璃を殺してまで当主になりたいのか? そもそもそんな手段で本当に当主になれると思っているのか?」


 そんなことをして悊人氏に気付かれないわけがない。あの人はそこまで鈍くはないはずだ。


「当主? なれるわけないだろ、そんなもの。だいたい、そんなことをしてなれると思えるほど甘い考えは最初から持ってないよ。子供じゃあるまいし」


「……いや、子供だろ。少なくとも見た目は」


「………………」


「一つだけ教えてやるよ。僕は邑璃やお前を殺したかったわけじゃない。当主になるためにやったわけでもない。ただ、事態を引っ掻き回したかっただけだ」


「なんだって?」


「めちゃくちゃになればいいって思ったんだよ。お前も邑璃も、何もかも。あの爆発で死んだならそれでもよかった。殺せなくてもどうでもよかった。その程度の事だ」


「………………」


「僕が楽しめればそれでよかったんだ。お前を誘拐したのもそのためさ。これで邑璃がどういう対応をしてくるか、ちょっと見物だな。お前がどれだけ分かっているのかは知らないけど、邑璃が今の状態になったのは間違いなくお前が現れてからだ。お前抜きでどこまでやれるか、見せてもらおうじゃないか」


「………………」


 天華には悲壮な様子はどこにもない。


 ただ本当に、そうした方が面白そうだからという理由だけでこんなことをしている。


 意味が分からない。


 当主になりたいわけでも、俺たちが憎いわけもない。


 それなのに、どうしてそこまで平然と、こんな取り返しのつかないことばかりをやってのけるんだ?


 自分の将来を大事にしようと思ったら、出来るわけがないのに。


「分からないって顔してるな。ま、当然か」


「……ああ。分からない。ただではすまないことぐらい、理解してるだろう?」


「してるさ。だが、どうでもいい」


「………………」


「僕に未来はない。だから今を壊すのに何のためらいもないんだよ」


「………………」


 枢さんと同じことを言う。


「出来れば当主になりたかった。無理だと分かっていても、僕にはそれ以外の道なんて示されていないし、許されてもいなかったからな」


「そんなことはないだろう」


「そんなことはあるのさ。少なくとも僕にとっては」


「………………」


 天華の言葉はどこまでも軽い。


 悲壮感にも絶望感にも満ちていない。


 それなのに、とんでもない歪みだけがにじみ出ている。


 こんな子供がどうやったらここまでの歪みを抱えることができるのか。


「特に隠した覚えはないから、邑璃は遠からずここにやってくるだろう。だが、無事に帰してやるつもりは更々ないからな」


「殺すつもりか? 俺を」


「それもいいけど、どうせならボロ雑巾みたいになったお前を邑璃の前に晒してやるのも面白そうだな。死体を投げつけてやってもいいけど。ううん、どっちがより面白いかな?」


「………………」


 とんでもないことを言っているのに声の調子が全く変わらない。


 それが余計に怖い。


「そんなことをしたら間違いなく刑務所行きだぞ。名家のご子息ともあろう者がそんなことになっていいのかよ」


「構わないよ」


「え?」


「僕にとってはどちらも変わらない」


「どういう意味だ?」


「教えてやらない」


「………………」


「しばらくはこの部屋で過ごしてもらう」


「ああ」


「気が向いたら痛い目に遭ってもらう」


「お断りだ」


「飽きたら殺す」


「………………」


 軽い調子で言わないでほしい。


 飽きられないようにしなければならないのか、それともプライドにかけて意地を張るべきなのか。


 ちょっと悩みどころだ。


 相手が天華でなければ状況はもっと違っていただろう。


 天華はそれ以上は何もしゃべらず、そのまま部屋を出て行ってしまった。


「………………」


 俺は一人部屋に残されてしまう。


 今のところひどい扱いにはなっていないが、それも天華の気分次第ということはさっきの会話で理解できた。


「……まったく、ひどい冗談だ」


 頼りになる仲間は誰もいない。


 だったらまずは腹ごしらえだ。


 ちゃぶ台の上にはご丁寧に膳が置かれている。


 俺は迷わず手を付けるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ