キャラ属性だからってあんまりだっ!
「……というわけなんだけど、ちょっとだけ外出を許可してくれないか?」
枢さんに脅迫された俺は泣く泣くステアに懇願する羽目になった。
危険だから外出は許可できないと釘を刺されたばかりだというのに、いやはや申し訳ない。
「ナツキ。ほんとに状況分かってる?」
案の定、ステアは不機嫌そうに俺を睨みつける。
整った容姿なだけにそういう顔をすると恐ろしく様になる。
そして怖い。
「う。分かってる。でもな、でもでもでもな……」
俺はたじたじになりながら湯上りの出来事をステアに白状した。
事情を聞くとステアはにんまりと意地の悪い表情で俺を見た。
「へえ~。そりゃ美味しい体験をしたもんだね」
「うぅ。あんまり苛めないでくれ。好きで揉んだわけじゃねえよ」
「そうなの? ラッキーとか思わなかった?」
「……ちょっとだけ」
だって男ですから。
ここで微塵もそんなことを思わないなら俺は男失格だ。
「あはは。素直で結構。いいよ。特別に許可しよう。ただしホテル前の公園まで。そこから向こうへは移動しないこと。一応二人ほどSPをつけていくけど」
「助かる。やべ。急がないと枢さんが邑璃に暴露メール送っちまうっ!」
「急げ急げ~。ま、それはそれで面白そうだけど♪」
「面白がるなっ!」
着替えを済ませて全速力で公園へと向かうのだった。
「はぁ……はぁ……!」
緊張と気まずさも相まって大した距離を走ったわけでもないのに息切れしてしまう。
枢さんはベンチに腰かけて手を振っていた。
「なっちゃん、こっちこっち」
「お待たせしました、枢さん。……まさか暴露メール送ったりしていないでしょうね?」
「いやあねえ。わたしは約束を守るお姉さんのつもりよ? ……一分ほど遅刻したけれど、そこはまあ大目に見てあげましょう」
「……ありがとうございます」
……礼を言う自分に微妙な理不尽さを感じているのだが、まあ深く考えないでおこう。
「それで、何の用なんですか?」
「用ってほどのものじゃないんだけれどね。うふふ、ちょっとなっちゃんをいじめたくなっただけって言ったら怒るかしら?」
「……帰っていいですか?」
「まあまあ、せっかく来たんだからもうちょっとお話しましょうよ。どこかお店に入る?」
「いえ。この公園から出るなと言われてますので」
「デートって言ったじゃない」
枢さんは不満そうに俺を睨む。
しかしそこは譲れない。
「立派に公園デートでしょう」
「具体的にはホテルに連れ込みたかったのに」
「……見かけによらず大胆なことを言いますね」
ふわふわなお姉さん的外見なのに、言ってることもやってることもちょいエロだぞこの人。
「そう? 発言が大胆だからといって行動まで大胆とは限らないわよ。本当は強がって無理しているだけかもしれないとか思ってくれたりしない?」
「……そういう事をさらりと言う人は間違いなく図太い神経の持ち主です。強がりとも無理とも無縁でしょうね」
「……お姉さんちょっと傷ついたわ」
「そこまで繊細には見えませんが」
「本当に酷いわねぇ」
酷い、傷ついたと言いつつくすくすと笑っている枢さん。
間違っても繊細純情お姉さんの態度ではない。
俺は枢さんの隣に腰掛けてからため息をつく。
この人は何の目的で俺を呼び出したのだろう。
見たところ、当主争いに積極的とは思えないんだけど。
「ねえ、なっちゃん。なっちゃんはゆうちゃんの事が好き?」
「随分といきなりですね」
「うふふ。こういうのは率直に訊くのが一番いいと思って」
「そりゃあ回りくどく訊かれるよりはいいですけどね。ただ、さっき別の人間から同じことを訊かれたので」
「そうなの。で、答えは?」
「まあ好きだとは思いますよ。少なくとも当主になるまで出来るだけ助けてやりたいと思う程度には」
正直な気持ちだった。
強いて言うなら『好きか嫌いかなら好き』、みたいな感じだ。
「ふふ。つまり『俺は邑璃がいないと生きていけない! らぶげっちゅー!』ってほどではないわけね?」
「……どこのキチガイ発言ですか、それ。たとえ世界中の誰よりも愛している相手であっても、そんなことは言いませんよ」
「言わない? らぶげっちゅー!」
「言いません」
つーか言いたくねえ!
「うーん。ジェネレーションギャップかしら?」
本気で首をかしげている枢さん。
「……それ以前の問題のような気が」
ジェネレーションではなく根本的なセンスがズレているのでは?
でも言わない。
怖いから。
「今のところなっちゃんはゆうちゃんが一番好きっていう理解でいいかしら?」
「……まあ、一応はその認識で構いませんよ。そういう枢さんは誰かお相手いないんですか?」
どうにか話題をそらしたくてそんなことを訊いてみる。
「お相手、ねえ。なっちゃんとかどう?」
「お断りします」
「即答なのねぇ」
残念そうにため息をつく枢さん。
美人でスタイルもよくて頭もよさそうという、実に優良物件に見えなくもないのだが、中身に致命的な部分を見出してしまっているため、頷くことはできない。
こんな怖い人を彼女にするのは真っ平御免だ。
にこにこ笑顔でのど仏を潰されかねない。
「うふふ。まあそういうお相手はいないわね」
「そうなんですか? モテそうなのに」
中身さえ知られなければ間違いなく。
「ええ。好きな人もいないしねえ。今のところは力になりたい人がいるくらいかしらね」
「力になりたい人?」
「ええ。私に出来る範囲の事なら、何でもしてあげたいって思える人がいるわ」
「……それは恋愛感情とは言わないんですか?」
「似ているけど違うわねぇ。どちらかというと同情だわ」
「同情?」
「ええ。彼に残された時間はとても短い。彼のこれからは絶望しか待っていないの。だからせめて、今だけは、やりたいことをやらせてあげたい。どんな願いでも叶えてあげたい。そう思っているのよ」
「……その人、病気なんですか?」
「いいえ。もうすぐ死ぬとかそういうのじゃないわ。もっとも、死んだも同然になってしまうのだけれど」
「?」
どうにも話の要領がつかめない。
死ぬわけじゃないけど死んだも同然になる。
病気ではなく別の要因で。
一体どういう事だろう。
「可哀想だなって思うのは本当よ。さすがにそれを恋愛感情と置き換えるつもりはないけれどね。というか、別の意味で無理があると思うし」
「??」
「まあ私にそういう趣味があればそれでもよかったんだけど」
「えーっと……?」
そろそろついていけなくなってきたぞ。
どうしよう……
「ええと、そろそろ帰ってもいいですか?」
「駄目よ。なっちゃんは今からわたしに誘拐されるんだから」
「はい?」
「誘拐属性キャラとしては当然の展開でしょ?」
「いえいえ! 意味が分かりませんから!」
「じゃあ拉致監禁とかどう?」
「逃げます」
どこまで本気なのか分からないが、あんまり歓迎できる空気でもなさそうだ。
「残念でした♪」
「っ!?」
枢さんがそう言った瞬間、白い布が俺の口に当てられた。
「くっ!」
急激に意識が遠のいていく。
「うふふ。近くに護衛を置いてるんでしょうけど、地の利を利用したわたしの勝利よ、なっちゃん」
俺たちが座っているベンチは公園の出口付近だ。黒い車が急ブレーキで停車して、俺は手際よく車へと押し込まれていく。
「………………」
待機していたSPが慌てて駆け寄ってくるが、枢さんたちの方が早い。
車はそのまま発進してしまう。
「ごめんなさいね、なっちゃん。彼の為にちょっと誘拐されちゃってちょうだいな」
「………………」
ええと。
なんかもう色々言いたいことはあるんだけど、とりあえずこれだけは真っ先に言っておこう。
いくらなんでも誘拐され過ぎだ俺――っ!!
キャラ属性っつったって限度あるだろうが――っ!!




