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百合色革命  作者: 水月さなぎ
第二部 VS篇
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もったいないってゆーな!

 都内の高級ホテルを丸々一フロア借りきって作業を続けているスタッフ達。


 新たな本拠地は現在ピックアップ中らしい。


 建て直すのではなく、あらかじめ完成した建物を改修工事するつもりらしい。


 研究に関するバックアップデータは各自が分散して持ち歩いており、大した被害は出ていない。本社のサーバーにもデータは保管されているので万が一誰かがデータの一部を紛失したとしても保険はある。


「みんながんばるね~」


 そんな中、邑璃と俺は豪華な一室でのんびりとお茶を飲んでいた。


 スタッフを働かせておいてこの所業は感心しないが、あいつらは好き好んで仕事に没頭しているワーカーホリックなので仕方がない。俺達に手伝えることはなさそうだし、ここはのんびりとするのが正しい選択だろう。


「新しい開発室が完成するまでの間ぐらいゆっくりしていればいいのにな」


「それがそうもいかないんだよ」


 背後から声をかけてきたのはステアだった。こいつは研究に没頭しなくてもいいらしい。まあ切り替えがはっきりしているだけなのかもしれないが。


「そうもいかないって?」


 俺はステアの分も紅茶を淹れてやりながら椅子を勧める。


「ナツキメイドAIホログラムが完成間近だったからね。なんとしてでも完成までこぎ着けてミスター・トーグーに試作品を見て貰いたいんだって」


「………………」


 そんな事で張り切るなと突っ込みたくなる。


「ミスター・トーグーもナツキメイドにはかなりご執心だからね。一日も早く完成品を見たいって言ってたよ」


「あのおっさんは……」


 がっくりと肩を落とす。そんな物の完成を楽しみにするな。


「スカートめくり機能を入れて欲しいって言ってた。あと胸の揺れ具合にもこだわりがあるみたいだね。さすがトーグーグループを背負って立つ男のこだわりは一味違うね」


「激しくどうでもいいこだわりだな!」


 今度あのおっさんに会ったら一発殴っておこう。うん、決めた。


「そう言えば直純はどうしたんだ? ボディーガードなのに傍にいないじゃないか」


「デート中」


「……は?」


「可愛い彼女とデート中。まあ一度別れて今はいい友達みたいなんだけどね。ちょっとドジで被害者属性で実に揉み甲斐のありそうな胸をしていた可愛い女の子だったよ」


「………………」


 こ、この状況で彼女とデートって……一体どんなボディーガードだよ。それからその喩えはどうかと思う。少なくとも一国の皇子様が言っていい台詞じゃないぞ。


「僕が勧めたんだよ。仕事にかまけて女の子を放っておくのは感心しないからね。ここの警備は強化してある」


「まあ、ステアがいいなら俺から言うことは何もないけどさ」


 直純の言う通り、ステア自身が守り甲斐のない雇い主なのだ。ちょっとくらいデートで息抜きしたくなるのも分かる気がするし。


「しばらくはここで過ごすことになると思うよ。改修工事にしたって一か月近くはかかるだろうしね」


「なんとも豪華な仮住まいだな」


「塔宮グループ系列のホテルだから費用はあってないようなものだけどね~」


「そう言えばそうだった」


 ここは塔宮グループが経営しているホテルの一つだ。悊人氏の一声で最上階ワンフロア丸々貸切に出来るし、多少の雑音が混じっても文句を言われることはない。当面の作業場所としては申し分ないくらいだ。黙っていても食事が運ばれてくる分、以前よりも居心地がいいのかもしれない。


「調査の方はどうなってる?」


 落ち着いたところで開発室爆破についての調査進捗について質問してみた。


 ステアは紅茶を口に含みながら肩を竦めた。


「まあぼちぼちでんな~」


「……ナニ人だお前は」


「警察組織を使えない分ちょっと面倒だけどね。専門家を呼ぶまでもなかった。爆弾自体はシンプルな作りだったよ。ちょっと知識があれば誰にでも出来る仕掛けだった。その分、犯人の特定は難しいけどね」


「………………」


「警戒は強化するから同じ事は二度と起こさせない。あまりのお粗末ぶりにうちの専門家ががっかりしたぐらいだ。仮にも皇子暗殺にこのようなしょぼしょぼ爆弾を使うなど何事でありましょうか、なんて見当違いな憤慨を見せていたよ」


「……しょぼしょぼって」


 もう少し言い方はなかったんだろうか。


「まあ狙いが僕じゃなかったんだからそれも当然なんだけどね。今は彼にも警備に詰めて貰ってるから仕掛けられた爆弾を見逃すことはない。僕が狙いじゃないにしても巻き込まれるのは黙っていられないみたいでね。しかもあんなしょぼしょぼ爆弾でどうにかされるのは噴飯物らしい」


「ま、まあそうかもな」


 だからしょぼしょぼって言わないであげて~。


「とにかくユーリちゃんはしばらく外出禁止。これはミスター・トーグーからの命令だよ」


「むー。なっちゃんとデートしたいときは?」


「ホテル内デートに留めてもらう。なんならスイートルームで一晩過ごして既成事実でも作っちゃう?」


「いいかも!」


「よくねえっ! ステアもこいつに妙なことを吹き込むんじゃない! 本気にするだろうが!」


「わたしはいつでも本気だよ!」


「やかましい!」


「僕もそのうち暇を作るからデートしようね、ナツキ」


「しねえよっ!」


「させないよっ!」


 こればかりは邑璃と意見が一致した。男とデートしてたまるか。それならまだ邑璃とデートをした方がマシだ。


 ……既成事実は作らせないが。


 

 食事はそれぞれの部屋に運んで貰うことも出来たのだが、折角だからホテル内レストランを利用しようということになった。


 俺と邑璃、ステアと緋樫、他のスタッフの面々がそれぞれにテーブルを囲んで食事をしている。

その様子は明るく朗らかで、つい先日爆破事件に巻き込まれそうになったことなど微塵も感じさせないものだった。


「それで、やっぱり太ももの光加減が大事だと思う訳よ」


「いやいや。スカートのめくれ具合も無視することはできんぞ」


「今後のヴァージョンアップも考えると下着姿も考慮しなければならないよな。そうなるとデザインが問題になってくるが……やはり種類は豊富な方がいいだろうし、メモリーの拡張が課題だな」


「表情も大事だぞ。メイドといえば上目遣いでご主人様にお願いするのが萌えポイントだからな。その表情にはこだわりが必要だ」



「………………」


 食事の席で何を話しているんだか。


 しかも話題の中心モデルは俺メイド。


 色んな意味で最悪だ。


 マジでステア執事ホログラムとか作ってもらいたい。


 しかし研究スタッフがほとんど男性陣なため、それは受け入れられなかった。


『男の試作品なんかつくって何が楽しいんだこの馬鹿たれ!』


 だそうだ。


 ……俺も男なんだけどなぁ。



 食事を終えると今度は地下にあるスパ施設を利用しようということになった。


 ちょっとしたスーパー銭湯並に充実した浴場なのだそうだ。


 男湯、女湯、家族風呂の貸切と別れているのだが、当然俺達は男女に分かれることになる。


「貸切で一緒に入ろうよ~」


「却下」


 コバンザメのごとく男湯までくっついていこうとする邑璃をなんとか引き剥がしてから更衣室へと移動する。


 その際にも一悶着あった。


「ユーリちゃんは大人しく女湯でゆっくりしてくるといいよ。僕はナツキと裸の付き合いをしてくるからさ」


「っ!」


「……って、おい」


 だからこの状況でなんで邑璃を挑発するかなこいつは。折角渋々折れてくれそうだったのにまた油を注いだ炎みたいな表情になってるじゃないか。


「なっちゃーん! なっちゃんの貞操はわたしが奪うー! 馬鹿皇子なんかに奪われてたまるかあーっ!」


「奪われてたまるか! せめて守ると言え!」


「大丈夫。僕にそんな趣味はないから。あくまで女装姿のナツキで眼福気分になりたいだけ。まあ息子の大きさぐらいは測らせて貰おうかな」


「するなっ!」


「なっちゃんの息子ならわたしのほうがサイズくわしいもんねっ!」


「言うなっ!」


 鉄拳制裁。


「痛い!」


 自業自得だ!



 ……そんなやり取りを経てようやく一服。


 大浴場で腰まで浸かる。


「……はあ。極楽極楽」


「温泉だったら文句なしなのにねぇ」


 俺の横でステアが言う。


 初めて見たステアの裸は傷だらけだった。


「ん? ああこれ? 昔は今ほど鍛えてなかったからね。ヘマすることも多かったんだ。まあ二割くらいは実戦じゃなくて訓練でつけた傷だけどさ。結構ハードな訓練に進んで参加しまくったツケかな。モテなくなるから女の子にはあんまり見せたくないかも」


 ステアは気まずそうに頬を掻く。


「その程度でドン引きするような女を選ぶつもりはないだろ?」


「んー、まあね」


 苦笑するステア。苦い経験でもあるのかもしれない。


「それにしてもナツキはもったいないなぁ」


「は?」


 ステアはいきなり俺の胸板にぺたぺたと触れてきた。


「こーんなに可愛いのに脱いだらほんとに男なんだもんなぁ。はあ……もったいない」


「胸板撫でながらしみじみ言ってんじゃねえよっ!」


 俺はステアの手を引き剥がしてから思いっきりお湯を跳ねかけてやった。


「ぶはっ! ひどいなあ! いきなり何するのさ!」


「そりゃこっちの台詞だ!」


「僕はただナツキが女の子だったら本当に結婚相手として考えてたのになぁって言いたかっただけなのに!」


「なお悪いわ!」


 おぞましいこと言ってんじゃねえ!


「じゃあナツキは?」


「は?」


 今度はずいっと近寄ってくる。


 いやいやいやいや、近い近い近い近い!


 そんな胸板すり寄せられる勢いで近づくのはやめてくれ!


「ナツキはユーリちゃんと結婚したいって思ってる?」


「………………」


「ナツキはユーリちゃんのこと、どう思ってる?」


「どうって言われても……」


 俺は即答することが出来なかった。

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