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百合色革命  作者: 水月さなぎ
第二部 VS篇
83/92

犯人は誰?

 爆発した建物から十メートル以上離れて、俺達はその光景を見ている。


「大丈夫? ユーリちゃん」


「な、なんとか……あと、ありがと」


「どういたしまして。怪我がなくて何よりだ」


 腰を抜かした邑璃を抱き起こしてから、ステアは厳しい表情を建物へと向ける。


「お前も怪我はないか?」


「ああ。助かったよ、ありがとう」


「構わない」


 俺の方は直純が助け起こしてくれた。


「中には誰もいないはずだよな?」


 ステアに確認する。


「ああ。誰もいない。これは僕たち、いや、この場合はユーリちゃんかナツキにターゲットを絞っているヤツの仕業だと思う」


「……お前が狙われている可能性は?」


 専門の護衛まで雇っているのだ。可能性としてはそれが一番高い気がするのだが。


「それはない。僕を狙うんだったらもっと強力な爆弾を用意するはずだ。見てみなよ、開発室以外はほとんど損害がないだろう?」


「………………」


 爆発したのは開発室のみ。


 隣の建物には焦げあとが残っている程度だ。


 見事なまでの爆破解体。


「僕が狙いならこんな気遣いは存在しない。寸前で気付いたところで手遅れレベルなものを仕掛けてくる。多分、この辺り一帯が崩されてるんじゃないかな」


「……物騒なのに命狙われてんな」


「まあね。それにそこまで大がかりだと外部の犯行になる。それなら絶対に見逃さない。こんな事を仕掛ける前に見破られる筈だ。僕の部下もそれなりの数紛れ込んでいるからね」


「……ちょっと待てよ、じゃあこの爆弾を仕掛けたヤツって」


「内部犯、だね。確実に。少なくとも外部の人間が出来る事じゃない」


「っ!」


 内部犯。


 まさか先進技術開発室のメンバーに犯人がいるというのか?


 あんなに楽しそうにしていたのに。


 あんなに生き生きと仕事をしていたのに。


 あいつらの中に、こんな酷いことをするヤツがいるっていうのか?


「ちょっと待った。別に僕は開発室の人間を疑ってるわけじゃないよ」


 俺の嫌な予感を即座に否定するようにステアが声をかけてくれた。


「え?」


「え? じゃないだろ。酷いな。ナツキは仲間を疑うつもりかい?」


「でも、今さっき言ったじゃないか。内部犯の可能性が高いって……」


「うーん。まあ確かに仲間を疑うことが必要な場合もある。時には非情になる必要もね。だけどこれだけは僕が断言する。開発室のメンバーは犯人じゃない。これは絶対だ」


「なんで、そんな事を言いきれるんだ?」


「それを行うだけの知識がないからさ。これだけ精密な爆破解体をするなら専門家の知識が必要だ。僕はメンバー全員の経歴と習得スキルを調べている。卒業した学校や家族構成までね。その中でこんな物騒なことに関わっている人間は一人もいなかった。そうなると外部の人間を雇い入れて実行するしかない訳だけど、さっき言った通り、それは不可能だ。僕が敷いた警戒網はそこまで甘くない」


「……大変分かり易い理屈で恐縮だけどさ、それってつまり、最初はメンバーのことをそれなりに疑ってたってことだよな? 細かい身辺調査をする程度には」


「まあね。褒められた事じゃないのは分かってるけど、ちょっとした油断が死に繋がる立場にいる以上、こればっかりは仕方がない。人生常に警戒が必要なのさ」


「……まあ、責めるつもりはないけどさ。お陰でメンバーを疑わずに済むし」


「そう言ってもらえると助かる」


 ステアも色々大変なようだ。


 さすが皇子さま。


「じゃあやっぱり狙われたのは俺達で、犯人はメンバーじゃなくとも学園内にいるってことか?」


「そうなるね。僕を狙うにしてはやり方が甘すぎる」


「……お前ほど守り甲斐のない主人もいないけどな。大抵のことは一人で何とかしてしまうじゃねえか」


 この状況で直純に守られるわけではなく、きちんと邑璃を庇ったステアに呆れた台詞を返す護衛。


「そう言うなよ。いざという時はケイを頼りにしてるさ。近接戦闘なら僕もケイには敵わないからね」


「敵われてたまるか。こちとら専門家だ。お前みたいな万能屋と一緒にするな」


「いやあ、才能豊かだと色々大変なんだよねぇ」


「自慢が聞きたい訳じゃねえし」


「………………」


 どうやらそれなりに仲良しのようだ。


 護衛と主人というよりも友達感覚なのかもしれない。



「あんまり考えたくないけど、他の候補者の誰か……とか……?」


 邑璃が心底嫌そうに言う。


「……考えられるのはその辺りだが。でも目的が分からない。こんな大がかりなことをすれば絶対に足が付く。今は乗り切ることが出来ても絶対にいつかはバレる。そんなリスクを抱えたまま当主になれると本気で思っているんだろうか。外部の人間を雇えないなら尚更だ。自分で行動しなければならない分、リスクは飛躍的に増すだろ」


「そうなんだよね。わたしならもっと堅実な手段を取るよ。なっちゃんを誘拐して脅迫するとか……」


「それを堅実とかゆーな。ついでに俺の誘拐で例えるな」


 最近マジで誘拐属性なんじゃないかって痛感してるところなんだから。


「別に、当主になるのが目的とは限らないんじゃないのか?」


 違う方向から意見をくれたのは直純だった。


「どういうこと?」


 邑璃が直純の方に視線を向ける。


「俺も権力の世界はよく分からないんだけどな。この通り一匹狼だから。ただ受け継ぐべきものを候補者全員が望んでいるとは限らないだろってことだ」


「?」


「候補者の中には当主なんてどうでもいいってヤツもいるんじゃないのか。でも本人の意志とは関係なく家の都合で権力を求められることもあるだろ」


「そりゃあ、そういう人もいるけど」


「いるなぁ」


 何人か心当たりがある。


「そいつの目的は当主になる事じゃないはずだ。手段が極端すぎる」


「だったらそいつの目的は何だ?」


 今度は俺が訊いた。


 直純の言いたいことに何となく察しは付いていたが、それでも確証はなかった。確信を持ちたいのか、それとも否定して貰いたいのか、自分でもよく分からない。


 ただ、あいつらの中にそんな考えを持つ奴がいるなんて、考えたくなかった。


「攪乱。もしくは混乱。ただ単に事態を引っかき回したいだけなんだろう。どうせ手に入らないものなら、過程を楽しませて貰いたい。自分は高みの見物で、お前らが慌てたり怪我したり苦しんだりする様を楽しみたいんだろう。その過程でお前らが死んだとしても、どうでもいいんだろうよ。趣味が悪いってレベルの話じゃないけどな」


 直純は吐き捨てるように言った。


 何か嫌な経験でもあるのかもしれない。


「今回の爆発も、絶対に殺したい訳じゃなかったと思うよ。僕がいるんだから直前で悟られる危険性は考慮していたはずだ。直純の言う通りだとしたら、相手にとってはゲーム感覚なんだろうね」


 今度はステアが補足する。


「待てよ。ゲームって、人の命がかかってるんだぞ!?」


 おぞましい感覚に支配されそうになる。


 そんな人間が近くにいると考えるだけで吐きそうだ。


「別に、珍しい事じゃないよ。人間の命はね、尊くもなんともないんだよ。ゴミみたいに殺される人間を僕は何人も見てきた」


「……俺達とステアじゃ、生きる世界が違うだろうが」


 ああ、俺も今、酷いことを言ってるな。


 必要もないのにステアとの間に壁を作ろうとしている。


 俺とお前は違うんだって言いたくて。


 ただ、酷い現実を認めたくなくて。


「………………」


 そんな俺にステアは少しだけ寂しそうに苦笑した。


「別に概念の話じゃなくてもいいよ。物理的な価値で現したとしても、人間の価値はそんなに高くない。人間の肉体を構成する物質を計算してみると、一人当たりの原価は約五千円だ。内訳は、脂肪は石鹸七個分、炭素は鉛筆の芯が九千本分、鉄分が二寸釘一本分、リンがマッチの頭二千二百個分。合計五千円。……ほら、安いだろう? 近場のホテルバイキング一回分程度だ」


「………………」


「人間の命が尊いっていうのはね、自分にとって大切な人間にだけ当てはまるものなんだよ。それ以外は等しく五千円。それ以上でもそれ以下でもない。偉大な功績を残した英雄も、人間の屑と言われるような存在も、等価値だ」


「………………」


「そうだね。これはあくまでも僕の予想だけど、犯人にとって僕たちの命は一個あたり五千円の駒なんじゃないかな。盤上遊戯のちょっと豪華な駒。自分はそれを眺めながら楽しんでいる。ゲームマスター気取りなんだろうね」


「……自分だけは特別だって、そう思ってるのかな?」


 マスター気取りで、神様気取りで、俺達を弄んでいるつもりか?


「さあね。それは僕にも分からない。分かるつもりもない。特別だと考えてるのかもしれないし、自分のことすら等しく五千円の価値だと思っているのかもしれない。現状では何とも言えないよ」


「……ふざけやがって」


 俺も邑璃も、ステアも直純も死んでいたかもしれない。


 ……いや、ステアと直純は生き残ってただろうけど。


 この二人が庇ってくれなかったら俺達は確実に死んでいた。


 それを、ゲーム感覚で高みの見物だと?


 冗談じゃない。


「絶対に犯人を見つけてやる……」


 そしてぶん殴る。


 顔の形が変わるまで殴り倒す。


 二度とそんなふざけた考えが出来ないように矯正させてやる。


「それは止めておいた方がいいかな」


 ステアが激昂しかけた俺をやんわりと止める。


「なんでだ? 今後何が起こるか分からないだろ。自分たちの身を守るためにも犯人探しは必要だ」


「それは同感だけどさ。素人が首を突っ込んでもロクなことにならないよ。ナツキじゃ返り討ちに遭うのがオチだね」


「……容赦ねえな」


「ナツキの安全の為だからね」


「………………」


 一応、本気で心配してくれているのだろう。


 それは解るけど、この憤りはどこへ向かえばいいのだろう。


「少し様子を見よう。警察に連絡するかどうかはミスター・トーグーの判断に任せようか。身内の厄介事なら彼に裁量権があるわけだし」


「……警察に連絡しないかもしれないってことか?」


「被害者が出ていない事件だからね。揉み消せるなら学園内で収めたいんじゃないかな」


「………………」


「ナツキとユーリちゃんはしばらく僕たちと行動を共にしよう。僕と直純がいれば大抵の事には対応できる」


「……おいおい、護衛対象が三人って冗談じゃないぞ。せめて人数増やそうぜ」


 直純がげんなりした様子で言う。


 守りたくない訳ではなく、リスクを軽減するように訴えているようだ。


 俺達を見捨てないでくれることはありがたい。


「人数は増やさない。その代わり外部警戒を強化する。僕たちに尾行SPを付けるだけでも大分違うはずだ。それに近くに人が多くてもやりづらいだろ?」


「そりゃまあ、確かにな」


 それなりに堅実な案を考えていたステアに直純は肩を竦める。


「じゃあそういうことで決まり。二人ともそれでいい?」


「分かった。しばらくはステア達と一緒に行動する。邑璃もそれでいいか?」


「なっちゃんがいいなら異存はないよ」


 こうして、俺達はしばらく四人で行動を共にすることになった。



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