メイドホログラムAI、そのモデルは……
『お帰りなさいませご主人様』
『行ってらっしゃいませご主人様』
『ご機嫌いかがですかご主人様』
「………………」
「………………」
開発メンバーと俺達が囲むテーブルの上にはホログラムが動いている。
台座の上に置かれた小さなホログラムだが、それでも細かい動きを再現している。AIプログラムも連動させているのか、簡単な会話くらいなら出来るらしい。
それはいい。
良くできているとは思う。
非常に良くできていると思う。
思うのだが……
「何故俺の姿をしているんだっ!?」
ホログラムはメイド服を着ていた。
フリフリのエプロンドレスを身につけていた。
……そして俺の姿をしていたっ!
モデル!?
モデルにされているのか俺ってば!
俺の姿をしたメイドホログラムが邑璃に、俺に、ステアに、緋樫に、他のスタッフ達にぺこぺこ頭を下げている。
邑璃は嬉しそうだし、ステアは面白がっている。緋樫に至っては嗜虐的な笑みを浮かべているのだから相当にタチが悪い。
「なっちゃん可愛い! 本物もこれくらい可愛かったらいいのに~」
「可愛くなってたまるかっ!」
「痛い!」
とりあえず邑璃を小突いておく。
「で、なんで俺がモデルなんだよ!」
「いや、そこは副室長の提案で……」
スタッフの一人が気まずそうに言う。
「ス~テ~ア~っ!」
ギロリとステアを睨む。
「あははは。だってモデルは可愛い方が萌えるでしょ? 僕が知っている中で一番可愛い女の子と言えばナツキだからね!」
「嘘付け! 羞恥プレイの晒し者にしたかっただけだろうがっ!」
「そんなことないよ~。その内エロい動きとかぽろりな動きとかも出来るようにするから楽しみにしててね」
「やめろーっ! 俺の姿でそんな真似させたらぶっ壊してやるからなっ!」
「み、見たいかも……じゅるり」
「そこーっ! よだれ垂らしてんじゃねーっ!」
よだれを垂らした邑璃をもう一回小突いておく。
そんな感じで晒し者にされた後、ぐったりと休憩室のソファーに寝転がる。
「悪夢だ……」
その横に腰かける邑璃が、
「可愛いのに……」
「もう一回小突かれたいか」
「やだ。痛い」
せめて違うモデルにしてくれればまだマシなのに。
……斗織とか。
あいつも女装すればかなり可愛いんだぞ。
モデルにするならあいつでいいじゃん。
「なっちゃんの方がいいな」
「心を読むな」
「今後は執事ヴァージョンも作る予定なんだ。誰かいいモデルいないかな?」
ステアが会話に加わってくる。
「お前がやれ」
「僕?」
ステアが不思議そうに自分を指さす。
「そうだね。そっちのバカ皇子も外見だけならレベル高いし、執事姿とか似合ってるんじゃない?」
邑璃が棘を含ませて同意する。
「え~。でもせっかくメイドモデルがナツキなんだから僕は執事じゃなくてご主人様になりたいな~」
「「却下だ(よ)!!」」
俺と邑璃が同時に怒鳴りつけた。
モデルはともかくとして、しばらくはこのメイド&執事ホログラムの開発に力を入れるつもりらしい。
AIを充実させてから会話機能を拡張し、愛玩用ホログラムとして発売する、というのが今後の目標だ。
これにより家の中でメイド喫茶、執事喫茶気分が味わえるようになる。
しかも独占できる。
さらには好みのビジュアルも選べる、という販売戦略らしい。
……まあ、着眼点としては悪くないと思う。
ただし、モデルだけは強制的に変更させるつもりだが。
俺がモデルで発売されたら片っ端からぶっ壊してやる。
ここは無難に人気イラストレーターにでもデザインしてもらう、というやり方でいいだろう。
……頼むからそういうやり方にしてくれ。まじで。後生だから。
全国、全世界規模でホログラム晒し者にされてはたまったものではない。
考えただけでゾッとする。
「まあしばらくはあのナツキメイドで色々研究していくつもりだけどね~」
「なんだとっ!?」
ステアの爆弾発言に思わず跳ね起きる。
「ヒガシも乗り気だったよ」
「あいつはどうでもいいっ!」
「先進技術開発室の商品第一号は『メイドAIホログラム』と『執事AIホログラム』になるのはほぼ決定。そしてあのナツキメイドは大事な大事な試作品第一号だからね。そりゃもう丁寧に丁寧に改良を加えていかないと」
「もう一台作れーっ! 俺モデル以外で!」
「バカ言わないで欲しいな。あれを作るのにどれだけの費用がかかったと思ってるのさ」
「知るか!」
「家が三軒くらい購入できる金額だよ。それをもう一台だって? 必要もないのに?」
「俺の精神衛生上必要なんだ!」
「僕たちの精神衛生上は必要ないね」
「あ、それはわたしも賛成」
「数の暴力がっ!」
多数決って恐ろしい!
少数派にとっては間違いなく数の暴力だよこれ!
「ナツキのメイドホログラムにあれこれ改良を加えていくなんて、あはは。考えただけで楽しみだな~」
「お前―っ! 絶対確信犯だろう!」
「そんな事ないよ。みんなの意見も同じだし」
「ロクでもないよここのスタッフ!」
「やっぱり愛玩用である以上眼福って大事だと思うんだよね」
「二次元眼福でいいんじゃないかな! 他の人にデザインしてもらおうよっ!」
「量産態勢に入ったらそれは検討するけどね。今は試作品段階だし。モデルは手近なところでいいんじゃないかな~」
「肖像権の侵害だと訴えたい!」
「塔宮グループと裁判起こして勝てるつもりならいいけどね♪」
こっちは邑璃の暴言。
「権力なんか大嫌いだ!」
「起こされる前に圧力を加えることが大事なんだよ、この場合」
「おお。さすが皇族! たまには役立つこと言うね」
ステアと邑璃、変な具合に意気投合。
やめてくれないかなー。
「たまにはって酷くない? 僕はいつだって役立つことを言ってるつもりだけど?」
「そう? 余計なことも結構言ってない?」
「ナツキメイドAIを提案したのだって僕だよ」
「それはえらい」
「偉くない! ちっともこれっぽっちもミクロンほども偉くないぞ!」
盛り上がる二人にむなしい突っ込みを入れる。
俺ってば無力。
この程度しか出来ないのかよ(泣)。
「声もナツキに出来れば良かったんだけどね。そこはさすがに本人の協力がないと難しいし」
「なっちゃん協力して!」
「断固として断る!」
ご主人様とかいってらっしゃいませとかおかえりなさいませとか誰が言うか!
口にするだけでもおぞましいわ!
……メイド喫茶とかで聞くのは結構楽しいけど。
いやいやそうじゃなくてっ!
「声優に協力を仰いでみる? ナツキに似た声の人探してみるとか」
「うーん。妥協点としては悪くないかな?」
「やめーっ! 恐ろしい話し合いやめーっ!」
なんとかして防衛体制を築かなければならない。
しかし、この二人が結託した場合、俺に出来る事ってほとんどないんじゃ……。




