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百合色革命  作者: 水月さなぎ
第二部 VS篇
80/92

偽物だけど……

 で、学業と研究の二重生活に明け暮れる俺達だったが、実際そこまで忙しいわけでもなかった。

 先進技術開発室は邑璃の方針により、かなり好き勝手なアットホーム空間になっている。それぞれが好き勝手に研究しているのでのんべんだらりとした空気だ。

 更に研究ノルマや期限があるわけでもないので切羽詰まった様子でもない。

 学校が終わってからの溜まり場、みたいな扱いになっている。

 それもどうよって感じだけどさ。

 理事長の仕事は……酷い話だが学園長に丸投げしてきたらしい。

 元々悊人氏はそういうやり方で経営してきたのだからまったく問題はない。

 理事長就任時に邑璃の仕事があれだけ山積みだったのは悊人氏が課した修行と、いきなり理事長をすげ替えられて面白くなかった学園長の腹いせだったらしい。……学園長大人げないな。

 で、今は当初の予定通りにほとんど学園長が仕切る形になっている。理事長の最終決定権が必要な案件だけ邑璃へと回ってくる。それもほとんどないし。

 なので安心して先進技術開発室の仕事へと打ち込めるのだった。

「……それにしてもよく緋樫さんが協力してくれましたわね」

 カフェテリアで咲来とお茶をしながらだべる。

 テーブルを囲んでいるのは咲来、邑璃、そして俺だ。

「副室長に興味があるらしい。研究バカだから話が合うんだろうな。ステアも緋樫と話すのは楽しいみたいだし。結構うまくやってるぞ」

「なるほど」

「さっちゃんも良かったら遊びに来ない? 今結構楽しいことやってるんだよ~」

「……邑璃さん。仮にも自分が責任を持っている研究機密をライバル相手にバラそうとしないでくださいな」

「じゃあさっちゃんも協力してくれたら問題ないよー。一緒にやろうよー」

「お断りですわ」

「えー」

「大体、今回あなたが有利なステージに立っているのは認めますが、だからといってわたくしに諦めるつもりはないんですのよ」

「それは分かるけどさ~」

「当主の座も棗生さんのことも、簡単に諦めるつもりはありませんわ。その為にも邑璃さんと組むことだけはお断りですね。馴れ合うつもりはありませんの」

「………………」

「だからと言ってあなた達の妨害をするつもりもありませんからそこは安心してくれていいですわ。そういうのは趣味じゃないですし」

「それに関しては助かるけどな」

「でもどうしてもって言うんなら条件次第では臨時協力してあげますわよ」

 紅茶を一口呑みながらちょっと悪そうな笑みを浮かべる咲来さん。こういうときは嫌な予感しかしないから微妙だ。

「条件って?」

 分かっていない邑璃がきょとんと首を傾げる。

「棗生さんとの一日デート権」

「………………」

 そんなことだろうと思った。

「却下―!」

「棗生さんは?」

「餌にされるのは微妙だから俺も却下」

「……残念ですわ」

 本気で残念そうだ。

「一日でもチャンスがあればきっちり既成事実を作って差し上げますのに……」

「怖いな、オイ!」

 腹黒過ぎだろ!

「駄目駄目駄目―! そんなの絶対許さないんだから! なっちゃんはわたしのものなのー!」

「お前のものでもねえよ……」

「またそんな悪足掻きを」

「悪足掻き言うな!」

 事実だ!

「なっちゃん! さっちゃんもいることだし今日こそベッドインしようね! ちゃんと襲うからね!」

「しねえよ! 襲わせねえよ!」

「ふふふ。そうやって棗生さんが抵抗してくれているうちはわたくしにもチャンスはありますわね~。頑張ってください棗生さん」

「……その応援のされかたは微妙だなぁ」

 いちいち反応している邑璃にくらべたら大人なのだが、しかし大人な対応な分後が怖い。

 気が付いたら後戻りできない状況にさせられそうだ。


 気が抜けるような怖いような会話を終えてから俺達は咲来と別れた。

 向かう先は先進技術開発室。

 土曜日の放課後はすでに溜まり場状態だ。

 そこに向かう途中。

「……あれ、天華?」

 春日井天華と鉢合わせになった。

「よお、久し振りだな」

「………………」

 以前ならこの変態野郎とか突っかかってきそうな天華だが、今日はちょっと様子が違った。

 表情が暗い。落ち込んでいるというよりもどこか闇を抱えた危うい表情だ。

「……おい、大丈夫か?」

「……問題ない」

「問題ないって顔じゃないぞ」

「うるさいな。お前には関係ないだろこの変態野郎」

「………………」

 おお、物言いだけはいつもの天華だ。

「てんちゃん、元気ないよね。何かあった?」

「邑璃にも関係ないよ。うざいから心配とかしないでよね」

「……可愛くないなぁ」

「可愛くなりたいつもりはないからいいんだよ」

「そっか。良かったら開発室の方に遊びに来る? 玩具関連もいろいろやってるからてんちゃんも楽しめると思うよ」

「行かない」

「そう。残念だね」

 天華はそのまま立ち去っていく。

 小さな後ろ姿はどこか頼りなくて、色々と心配になってくる。

 だがあの強がりがあれば大丈夫だろう。

「なんだったんだ、あれ?」

「さあ。何かあったことだけは確かみたいだけどね。実家関連かな」

「春日井家か」

「うん。てんちゃんあんまり実家の話ってしたがらないんだ。何でかはわかんないんだけどね。実際春日井家ってちょっと閉鎖的で本家でもよく分かっていないみたいだし」

「そうなのか?」

「うん。経営とかはちゃんと成り立ってるみたいなんだけど、肝心の家の中とかどうなってるのか分かんないんだって。あ、物理的な意味じゃなくて精神的な意味でね。家族関係とか、どんな環境なのかとか」

「ふうん」

「分家といってもそこまで立ち入る権利はないからね。向こうが拒否している以上こっちが口出すのもどうかと思うし」

「プライベートには関わるな、の家規模か」

「そんな感じかな」

「まああいつが話したがらないのに無理に聞き出すのも無粋だしなぁ」

「それはそうだね」

 そんな会話を続けながら開発室へ向かっていると、

「ナツキー!」

 もみっ!

「っ!?」

 背後から胸を揉まれた。

 偽胸を。

 もみもみもみもみ……

「……何やってるんだ、ステア」

「偽胸揉んでるのだー。うっわー、ほんっと良くできてるね、これ」

 もみもみもみもみ……

「いい加減やめて欲しいんだが」

 偽胸とはいえ揉まれ続けるのも気分が悪い。

「こらーっ! そこのバカ皇子! わたしのなっちゃんに何をするー!」

「まだユーリちゃんのものじゃないだろ?」

「いずれわたしのものになるのーっ!」

「じゃあちょっとくらい邪魔してやろうかな。面白そうだし」

「天誅―っ!」

 怒り狂った邑璃がステアに鞄で殴りかかるが、

「甘い甘い」

 ひょいっと避けられた。

 それはそうだろう。ステアは軍事訓練を受けた戦闘のプロだ。素人の攻撃など当たるはずもない。

 だがまあ俺の胸からは離れてくれたので良しとしよう。

「それにしてもすごいねその偽胸。乳首までしっかり再現されてるじゃないか」

「何を確認してるんだこの変態皇子!」

 裏拳をくらわせようとするがそれも避けられる。

 くそう。やはり手強い。

「それよりも開発室に向かう途中だったんだろう? じゃあ一緒に行こう。ナツキに是非ともみせたいものがあったんだ」

「何だ? 新しい研究成果でも出来上がったのか?」

「そりゃもう一世一代の大発明がね!」

「ほう! そりゃすごい!」

「ちょっと! 室長はわたしなんだけど!?」

「ユーリちゃんは放っておいても付いてくるんだろう?」

「ないがしろにするなーっ!」

「………………」

 わざとなんだろうなぁ、絶対。

 ステアのヤツ絶対に楽しんでるよ。

 邑璃をからかう味をしめやがった。

 ……まあ、見ている方も面白いからいいけどさ。


 そして開発室の方へ到着。

 セキュリティロックを解除してから中に入ると、ミーティングルームでみんなが待っていた。

「お、室長到着!」

「棗生くんも一緒だね。ちょうどいいや」

「俺が一緒だと丁度いいって、なんで?」

「ふっふっふ。それは見てからのお楽しみ」

 ステアは机の上に置かれた円形の物体を手に取る。

 丸形のオルゴールみたいな形をしている。

「ここを、ぽちっとな♪」

 そして再び机の上に置いてから電源ボタンらしきものを押した。


「こ、これは――っ!!」


 そこには、恐るべきモノが存在していた。




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