破滅への一歩
薄暗い部屋で、彼はずっと考えていた。
どうすれば、状況を変えられるのか。
どうすれば、欲しい未来が掴めるのか。
「………………無理か」
結局、出た答えはそれだった。
どう足掻いても、ここまで確定してしまった未来は変えられない。
「大丈夫?」
彼女がやってきた。
一人でここにやってきた時も、ずっと傍にいてくれた彼女は、彼にとってとても大切な人間になっていた。
「大丈夫じゃない。気分は沈んでいくばかりだ。元より分の悪い賭けだったし、仕方がないって思うけどな。それでもやはり、気が重い」
塔宮家の次期当主が塔宮邑璃に決まりかけていること。
今回あの部外者が活躍したお陰で、邑璃に転がり落ちてきた権利は莫大なものになっただろう。
ステア皇子のバックアップ。
そして先進技術開発室。
実験的部署という建前だが、集められたスタッフを確認する限りでは、アレは間違いなく塔宮グループの未来を担う部署になるだろう。
その室長を邑璃に任せたと言うことは、塔宮悊人の答えはそういうことだ。
平等を主張しておいて、競争を煽っておいて、結局は自分の娘に全てを与えたいのだ。
「それだけじゃないって事も、分かっているつもりだけど」
今までやる気がなかっただけで、邑璃は優秀だってことくらい、ちゃんと分かっている。
彼女が本気になれば塔宮グループを掌握することだって難しくない。
あの悊人の娘として、それだけの能力を受け継いでいる。
邑璃が当主に就任すれば、他の候補連中はそれぞれの役割を果たすだろう。
邑璃を補佐するものもいるだろうし、自分のやりたいことに打ち込むものもいるだろう。争いは終わったのだしあとはのんびりと人生を過ごそうと考えるものだっているはずだ。
敗者は敗者らしく。
それは構わない。
そうやって生きられるのなら、彼もここまで鬱屈とした気分にはならない。
「君は、どうしたいの?」
彼女が隣に座る。
彼をそっと抱き締めながら、優しく問いかける。
「どうしようもないことは分かってる。だけど、このまま終わりたくない」
「そうだね」
このまま終われば、彼の未来も終わる。
他の候補はそれぞれの未来に進むことが出来るが、彼の未来だけはそこで閉ざされてしまう。
死ぬことはなくとも、死ぬことと何ら変わりのない未来しか残されない。
だったら、せめて抗いたい。
このまま何もかも終わってしまって、閉ざされてしまうくらいなら。
「全部、壊したいな……」
彼がぽつりと呟いた。
「壊したい?」
彼女が訊き返す。
「うん。当主になれないけど、それでもこのまま終わりたくない。このまま終わるくらいなら、何もかもをぶっ壊してその果てに終わりたい。何もかもを壊して、全てを台無しにして、そして、終わるんだ」
「……それが、君の願い?」
「それが唯一の願い、なのかもしれない」
全てを失うことを決められた彼に残された、唯一の願い。
「うん。分かった」
彼女は彼を抱き締めてから頷いた。
「私が協力してあげるよ。君の最後の願い、私が一緒に叶えてあげるよ」
「いいの……?」
彼女と共に願いを叶えるのは、同時に彼女自身の破滅をも意味している。
彼は彼女が好きだった。
身勝手な願いに巻き込みたくないと思う程度には、彼女のことが好きだった。
「いいよ。多分、それが君にしてあげられる唯一のことだと思うから」
「……ありがとう」
彼はそれ以上何も言わなかった。
一緒に巻き込まれてくれる。
一緒に壊してくれる。
最後まで付き合ってくれるというのなら、彼女の意志に感謝しよう。
こうして、彼と彼女は破滅への道へと足を踏み入れるのだった。




