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百合色革命  作者: 水月さなぎ
第二部 VS篇
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キスマーク付けられちゃったぞ!

 黒塗り高級車に周りを囲まれながら、どんどん人気のない場所へと誘導される俺たち。


 四方を倉庫に囲まれた場所で、ようやくエンジンを切る事が出来た。


 黒塗り高級車から怪しげな黒服が次々と降りてくる。


「………………」


「………………」


 更に頭の痛くなることに、その全員が俺たちに向かって拳銃を構えている。


 俺もステアも車の中で沈黙。


 次の行動を決められずにいる。


「……この車が防弾仕様だって新事実があったり、しないか?」


「防弾車って結構高いんだよねぇ。僕が専用で使う車ならまだしも部下の車にそんな金を掛けるとは思えないなぁ」


「……そうか。期待できないってことだな」


 盗聴器や発信器は仕掛けている癖に……


「で、どうする?」


「うーん。ちょっと手詰まり、かな?」


「………………」


「監視に放っていた部下からの連絡がないところを見ると、どうやら捕まったか殺されたか……」


「……殺されてないことを祈るよ」


「ありがとう」


 ステアはあらためて車の周りを見渡す。


 どこかに逃げ出す隙がないかを確かめているらしい。


 人の壁はどうにでもなる。俺たちはまだ車のだから、いざとなれば轢き逃げればいい。……かなり危ないが、この状況に甘んじているよりは遥かにマシだろう。


 しかし、問題は人の壁だけではない。


 人の壁を守るように、その後ろには車の壁がある。


 あれをこの車で飛び越えるのもぶつけて逃げるのも、重量的に不可能だろう。衝撃でこっちのエアバッグが作動してお終いだ。


「……ナツキだけでもなんとか逃がしてあげたいところだけど」


 難しい表情で唸るステア。


「やめろよ、そういうの。気分悪くなるから」


「気分の問題じゃなくて筋の問題。ナツキを安全な場所に戻すことが、巻き込んだ僕の責任だからね」


「………………」


「でも、ごめん。ちょっとこれは、どうにもならない」


「……だろうな」


 俺もこの状況からの打開策は思いつかない。


「ステア。一つ教えて欲しい。この状況で俺たちが捕まった場合、ステアはとにかく俺が生き残る可能性はどれくらいある?」


「………………」


 連中が本当に必要としているのはステアの知識だ。


 俺はあくまでオマケ。


 良くて人質か、最悪見せしめに使われる可能性もある。


「最大限、生き残るように努力する。それしか言えない……本当に……ごめん」


「………………」


 初めて見た、ステアの悔やむような表情。


 それを見て、俺の方も覚悟が決まってしまった。


「どうせなら、逃げる努力をしようぜ」


「ナツキ?」


「勝ち目がなくとも、このまま大人しく捕まるのだけは嫌だ」


「………………」


「ステア。拳銃はまだ持っているか?」


「うん……あるけど……」


 ステアは荷物から四挺の自動拳銃を取り出す。カートリッジもバラバラと出てくる。


「よし。俺とステアで二挺ずつ。車から出た瞬間に撃ちまくるぞ」


「え……?」


「……っと、セーフティはこれか? 解除して、それから引き金は、これだな。よし。なんとか俺でも扱えそうだ」


「ちょ、ちょっと待って! 素人が拳銃を扱うなんて、正気!?」


「正気だ。俺は最後まで抵抗する。武器があるのに抵抗せずに諦めるなんて、絶対嫌だ」


「殺されるかもしれないんだよ! 掴まえる目的ならまだ殺されないのに、こっちから撃ったら向こうだって撃ち返してくる!」


「同じ事だ。どのみち捕まれば俺は殺される。違うか?」


「………………」


「だったら俺は抵抗する。絶対に屈したりなんかしない。俺は、誰にも屈したりなんかしない」


「ナツキ……」


「殺すことになっても、殺されることになっても、諦めるのだけは嫌なんだ」


 諦めたら、そこで全てが終わる。


 自分から諦めたら、自分で終わらせることになる。


 それは……嫌だ。


「分かった。そこまで言うならこれはナツキに預ける。好きなだけ撃っちゃって構わないから」


「おう」


「仮に何人殺したとしても、無事に切り抜けられたら僕が揉み消してあげるから安心していいよ」


「お、おう……」


 揉み消し……


 まさか殺人罪の揉み消しをされるかもしれない事態に陥るとは……


 いやあ、人生何があるか分からないもんだなぁ……


「……準備はいい?」


 両手に拳銃を構えたステアが俺に目配せをする。


「もちろん」


 俺も両手に拳銃を構えたまま頷く。


 撃つ直前までは引き金に指をかけるなと釘を刺されたので、人さし指は真っ直ぐに伸ばしたままだ。


 三、二、一……


 ゼロ! ……のタイミングで俺とステアは車から飛び出して銃を乱射しようとしたのだが……



「………………」


「………………」


 車のドアを開けるタイミングで、俺たちを取り囲んでいた黒服達が地面に沈んでしまう。パパパパパン! という乾いた音と共に。


「ナツキ!」


 ステアが慌てて俺の襟首を引っ張って車の中へと引き戻す。


「ぐえっ!」


 当然、俺の首も締まる。


 しかし判断そのものは正しいのであまり文句も言えない。


 せめて腕を引っ張るとかにしてくれないかな……とは言いたいところだが。


「……狙撃? 一体誰が」


 ステアはもう一度周りを眺める。


 どうやら黒服達は誰かに狙撃されたらしい。


 とりあえずの危機は去ったように思うが、狙撃者の目的が分からない以上、迂闊に車の外に出るわけにもいかない。


 そう考えて様子を窺っていると、俺の携帯電話が着信音を鳴らし始めた。


「わっ!」


 慌てて電話を取ると、


『やあ、棗生くん! 無事かい?』


「無事じゃねえ! あんたの仕業か!」


 電話先の声は塔宮悊人だった。


 このタイミングからして、俺たちのピンチは既に伝わっていることは間違いない。


『はっはっは。助かったんだからいいじゃないか。もう大丈夫だから車から出ておいで。ステア皇子も一緒に』


「……すると、さっきの狙撃はあんたの差し金か」


『その通り。あんまり無茶したら駄目だよ。こういうのはプロに任せなさい』


「あんたがプロだって言いたいのかよ」


『いやいや。正確にはプロを雇ったのさ』


「プロを雇った……?」


 首を傾げていると、ステアが電話を掴んできた。


「ごめん、ちょっと代わって」


「………………」


 俺が返事をする前に、ステアは強引に電話を取り上げてしまう。


「助かりました、ミスター・トーグー。感謝します」


『ステア皇子か。気にしなくてもいい。君一人なら私もここまで手助けをしたりしなかったからね』


「ナツキがいたからですね。巻き込んですみませんでした。PMCへの費用は僕が持ちます。出来ればこのままナツキをあなたにお返ししたいのですが」


『そうしてくれると助かる。娘の癇癪がいい加減限界でね。棗生君を戻してあげないといまにもオフィスに乗り込んで来かねない』


「……パワフルな娘さんですね。ではよろしくお願いします」


『了解した』


 用件は済んだのか、ステアは電話を俺に返す。


『棗生くーん! 今パパが迎えにいくからね~! パパだいちゅき! 助けてくれてありがとう! 的な抱擁で迎えてくれたまえ!』


「パパダイチュキタスケテクレテアリガトー」


『……棒読みは頂けないなぁ』


「馬鹿なこと言ってないで早く来てくれ」


『息子が冷たい……』


 いじけそうな電話の向こう側を無視して、俺は切ボタンを押した。


 その隣ではステアがクスクスと笑っている。


「いやあ、愛されてるねえ。ちょっと羨ましい」


「愛されてるかねぇ。俺としては邑璃のためだと思うんだが」


「ちゃんとナツキも大事にされてるよ。そうでなければPMCにまで依頼して助けてくれたりしないよ」


「そういえばPMCって何だ?」


 聞き慣れない言葉に首を傾げる。


「民間軍事会社の事だよ」


「軍隊……?」


「うーん、どっちかというと傭兵の方が近いかも。どこの国にも属さずに、ビジネスライクで戦場に派遣されてくれる武装集団って感じかな」


「……軍事ビジネス?」


「そんな感じ。軍を維持するのは金が掛かりすぎるからね。各国の軍縮が進む中、必要に応じて戦力を派遣してくれるのがPMC。仕事内容はまあ色々だけど、荒事専門なことは確かだね」


「ふうん。じゃあ悊人氏もそこに依頼したってことか」


「トーグーグループも一筋縄じゃいかない厄介事を抱えてるって聞くからね。多分契約してるんだと思うよ。今回はナツキの為に動かしたわけだ」


「………………」


「費用は僕が持つ。巻き込んだのは僕だからね。ミスター・トーグーに負担させるわけにはいかない」


「その辺りは任せる。俺にはよくわからん」


「あはは。そうだね。ナツキはもうこういうことにかかわらない生活に戻れると思うよ」


 そんな話をしている内に、真っ白いベンツが俺たちの前に停まった。囲んでいた黒塗り高級車はいつの間にか押しのけられている。……いつの間にやったんだろう?


「棗生くーん。パパが迎えにきたぞぉぉぉ!」


「………………」


 緊張感ゼロ。


 さっきまで銃撃戦が繰り広げられかけていた戦場とは思えない緩みっぷりだ。


 ちなみに撃たれた黒服達は俺たちが雑談している間にPMCの人たちが淡々と片づけていた。


 その後どうなったのかは、知らない方がいいんだろうな、多分。


 最後の最後でアクセルが表に出て来なかったのも気になるが、その辺りはステアがうまくやるだろう。


 俺という足手まといが居なくなれば、ステアももっと自由に動けるはずだから。


 こうして、俺とステアは別れることになるのだった。


「じゃあな、ステア。当分会うことはないと思うが、元気でな」


「ナツキもね。後のことは僕に任せておいて。さすがに頭に来たから今回ばかりは遠慮情け容赦なくきっちりがっちり挽肉にしてやるつもりだから」


「……ほ、ほどほどにな」


 ふふふふ、と舌なめずりするステアが怖すぎる。


「あ、そうだ」


 ステアが今思い出したように手を叩く。


「?」


「ナツキ。ちょっとこっち来て」


「あ、ああ」


 言われるままに近づく。


「っ!?」


 そのまま引き寄せられて、首筋に吸い付かれた。


「!? っ!?」


 戸惑う俺にお構いなしに『ちゅぅぅぅぅっ』と吸い付くステア。


 な、何しやがるこいつわぁぁぁぁっ!!


「な、なななな!?」


「これからすぐにユーリちゃんのところに帰るんでしょ? それ、見つかったらどうなるかな~とかね。ちょっとした悪戯心だよ」


「っ!!」


 き、キスマークつけやがったのかこいつ!


 最悪だ!


 男にキスマークつけられた!


「あははは。お見合い希望とか言いながらまったく甘ったるい感じにならなかったからね。これくらいはいいかなと思って」


「思うな!」


「じゃあ僕はまだやることがあるから失礼するよ」


「とっとと行け!!」


 しんみりとした別れになるはずが、どうしてこうなるのか……


 俺の横にはにやにやした悊人氏。


「はっはっは。それ、ゆーちゃんに見つかったら間違いなく襲われるな」


「襲っ!?」


「この浮気者ぉぉぉぉ! とか言いながら棗生くんを食べちゃいそうだね」


「浮気も何も俺は邑璃と付き合った覚えはないぞ!」


「まあ親公認だから好きなだけ襲われてくれたまえ」


「公認するなそんなもん!」


「なんなら襲ってくれても構わない」


「襲うか!」


 最後はぐだぐだになりながらも、ようやく俺は寮へと戻れることになったのだった。


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