両属性を備えてる!
「……ステアってさぁ、さりげに大物だよな」
俺はおいしそうにハンバーガーを頬張るステアを横目で見ながら、そんなことを呟いた。
サービスエリアでガソリン補給をした後、どこかレストランで食事を摂るつもりだったのだが、ステアはなんとファーストフードのドライブスルーで済ませてしまう。
もちろん不満はない。
この状況でちゃんとしたレストランの高級料理じゃないと嫌だ、なんて贅沢は言わない。しかしテリヤキバーガー片手にハンドルを握りながら鼻歌混じりに高速道路を運転するステアを見ると、何だかやるせない気持ちになってしまうのだ。
「そうかなあ? でもこれが一番効率よくない?」
運転と食事が同時に出来るのだからそりゃ効率がいいに決まっている。
しかし百八十キロ超えで高速道路を走っているドライバーがハンバーガーを片手に持っているというのは、助手席に座る人間としてはどうしようもなく不安を覚えてしまうのは仕方がないだろう。
……決して俺が臆病だからではないはずだ。
「効率はいいけど、怖い。頼むから運転に集中してほしい」
「じゃあナツキが食べさせてくれる? 恋人にするみたいに『あーん』って♪」
「………………」
「……冗談。冗談だってば。手早く食べてしまうからそんな『キモチワルイイキモノ』を見るような目はやめて欲しいなぁ」
「そう思うなら少しは自重しろ」
「ごめんね~。ナツキってからかうと面白いからつい」
「それ以上言ったらそのコーラに俺のコーヒーをブレンドしてやるからな」
「うわあ! やめて! 僕コーラ大好きなのに! そんなのコーラに対する侮辱だよ!」
「知るか。俺はコーラなんてどうでもいい」
「……うぅ。コカコーラの素晴らしさが分からないなんて人間としてどっかおかしいんじゃないの?」
「そんな素晴らしさを理解したいとは思わない。俺は合成物よりも果汁百パーセントかお茶派だ」
「健康的だねぇ」
「舌が健全なんだよ。合成物は気持ち悪い」
「ふうん。ジャンクはジャンクなりの良さがあると思うんだけどねぇ」
などという、かなりどうでもいい会話を続ける俺たち。
逃亡中という自覚に欠けているような気がするが、暗い雰囲気や切羽詰まった気分になるよりはずっとマシだった。
「これからどこに向かうんだ?」
「そうだな~。ナツキの安全確保が最優先だし、トーグー学園にでも向かった方がいいかな。ユーリちゃんにも会ってみたいし」
「勘弁してくれ。ヘタすると邑璃まで巻き込むかもしれないじゃないか」
アクセルの手勢が学園にまで忍び込んできたら洒落にならない。
「ナツキを送り届けたらすぐにアクセルを掴まえに行くつもりだからその心配はないと思うけど」
「まだあの場所にいるとは限らないぞ?」
「大丈夫。部下に監視させてるから。移動したらすぐに分かる」
「……抜かりねえなぁ」
「用意周到と言って欲しいね」
「腹黒いと言ってやる」
「………………」
否定したいのだが否定するだけの要素もないので気まずそうに黙り込むステア。
ちょっとだけ気分が良かった。
「だがその前に事情の説明が先だ。俺を無事に送り届けたらそのままトンズラする気だろう」
「うわ。バレてた?」
「バレてた? じゃねえ! 今しろ! すぐしろ! 説明を断固として要求する!」
「うわ~。ナツキ怖いな~」
「うるせえ。大体、その為に店じゃなくて移動しながらの食事にしたんじゃないのかよ?」
店の中で話をすれば誰が聞いているか分からない。
だが車の中でならその心配はない。
「さてどうかな? この車の中にだって盗聴器くらいは仕掛けられているかもしれないよ?」
「んな訳あるか。こいつ元々あいつらの車だろう? 味方の車に盗聴器を仕掛けてどうする」
「味方だからこそ、っていうのもあると思うけど」
「………………」
「でもいいよ。一般人ならともかく、アクセル達に聞かれて困るようなことは話さないから」
「さっさとそう言えばいいんだ」
ようやく事情を話してくれる気になったらしいので、俺も大人しく聞き役に徹することにした。
そもそもの始まりは、やはり皇位継承権絡みだったらしい。
継承権第一位のアレク皇女は、実力、人望共に篤い、かなりのやり手らしい。
ステアも妹であるアレク皇女のことはかなり可愛がっているようで、彼女のことを話すときは少しだけ頬を緩ませている。
「いや、もうアレクの『お兄様、可愛い妹のお願い、もちろん聞いてくださいますわよね?』って超上から目線でお願いされるとぞくぞくしちゃうんだよね~♪」
「………………」
この皇子はビョーキだ。
かなりタチの悪いビョーキだ。
……というか、この病的な性癖のことは盗聴されて構わないのだろうか……などと変な心配をしたりもした。
アレク皇女はやり手だが、やはり女であると言うことが今の立場をかなり不安定にしているらしい。
昔から権力関係に男尊女卑の傾向があるのは知っているが、皇族ともなるとその空気も顕著なのかもしれない。
女王よりも王様の方が歴史上遥かに多いのがそれを証明している。
世継ぎが生まれる時も、女よりも男の方が喜ばれる。
「しかしそんな不利な状況でなんでまたアレク皇女が選ばれているんだ? 他にもっと安全な立場もあっただろうに」
「そりゃあアレクが血筋的にもっとも優れているからさ。王と正妃の正当血統。僕とセリクは所詮妾の子だからね。皇族は血筋にうるさい」
「なるほど。正妃の血筋に男子はいなかったわけか」
「うん。妹ばっかり」
「………………」
その正妃とやらは女系血族なのかもしれない。
「で、そういう立場だからもちろんごたごたもあるわけで」
「そりゃそうだろう」
そんなごたごたの中で発見されたのが例のレアメタルというわけか。
使い道に迷う有用資源。
有効活用する技術がないS国としては、高値で売りつけるくらいしか出来ないはずだったのだが。
そこでアレクが技術先進国、その中でも上場企業との契約を提案したらしい。
どういう繋がりなのか、悊人氏はS国と繋がりがあったらしく、塔宮グループに白羽の矢が立てられたわけだ。
そして表向きではない契約内容に『開発部門にS国の関係者を派遣させる』ということだった。
材料を有利な条件で手に入れる代わりに、技術共有を受け入れろということだろう。うまくすれば盗み出すことも可能なわけだが、レアメタルのうまみを考えると、そのリスクですら許容条件だったらしい。
……その辺りを提案したのがアレク皇女だというのだから、ステアの言う通り結構腹黒い女性のようだ。しかしこいつも人のことは言えないぞ。にこにこしながら内面真っ黒くろすけ状態なのだから、下手をするとアレク皇女よりもタチが悪いかもしれない。
「で、『お兄様、もちろん行ってくださいますわよね?』とか腹黒笑顔で言われちゃったわけだ。そりゃあ行くしかないでしょ」
「………………」
そりゃあ行くしかないのだろうが、そこまで嬉しそうに、もっといたぶってみたいな顔で言う事じゃないと思う。
アクセルの部下をぱんぱん撃ちまくっていたときのステアは間違いなくサドだったが、アレク皇女に対しての態度は間違いなくマゾだ。両属性保持なんてかなりタチが悪くないか?
「必死でそれ関連の勉強して、そこから偽装身分を用意して、髪と目の色をを違和感ないように変えて、潜入開始ってわけさ。もちろんトーグーグループ公認の産業スパイだけどね」
「は……はは……」
公認の産業スパイって、既にスパイじゃねえし……。
「だからトーグーグループ新規製品の開発には少なからず僕もかかわっている。幸いそっち方面の才能もあったみたいで、僕もそれなりに開発に貢献してるんだよ」
「……どんだけ万能型だ」
戦闘能力抜群で、さらには電子機器開発の才能もあるって、有り得ないくらい出来過ぎな奴だ。
「出来そうならば技術だけ吸収して国で開発部を立ち上げろ、なんてアレクには言われてたけど、ちょっと無理そうだね。日本の技術は結構すごい。たとえ技術だけ盗み出して国に帰ったとしても、すぐに追い抜かれるね。僕一人じゃとても太刀打ちできないし、僕自身が後進を育てているあいだにどんどん引き離される。だからこのまま手を組んでいた方が得だと判断したわけさ」
「開発者に潜り込んでいるのが第二皇子だって事、悊人氏は知っているのか?」
「知らなかったと思うよ。僕の偽装スキルはそこまで甘くない。まあ今回の件でバレちゃった筈だけど。さすがに顔を見たら分かるだろうしね」
「……そのリスクを考慮した上で見合い話を持ち出したのは、アクセルに対する餌か?」
「その通り。ここのところセリク達の動きが活発化していたからね。アレクの身に危険が及ぶほどに。僕はこっちの仕事で帰れないから傍で守ってあげることは出来ないし、だったら餌を用意して主力をこっちに惹きつけてから『くちゃっ』と潰すのが戦術としては正しいかなと思って」
「………………」
黒い。
腹黒いぞステア!
「本来の身分でトーグーと接触して、お互いの繋がりをより確かなものにする手段としてお見合い話を提案してみたわけだ。まあそっちは建前でお互いに別の手段での腹の探り合いがメインだけど」
「だろうなぁ」
他にも色々と思惑はありそうだが、おおよそのメインはそんなところだろう。
「利用したことは謝るけど、その代わりユーリちゃんのバックアップは約束するよ。一応無事だったんだし、今回はそれで手打ちにしてくれないな」
「……随分と調子のいい物言いだが、まあいいだろう。無事だったし」
「ありがとうナツキ」
「後のことは任せていいんだな?」
「うん。大丈夫。禍根も残さないほど完璧に根絶やしにするつもりだから」
ぺろりと舌なめずりをするステア。
……いや、舌なめずりは必要ないんじゃないかな?
腹黒皇子がだんだん本性を見せはじめているぞ?
しかし、事態はそう簡単には解決へと移行してくれないようだ。
「……ステア。どうやら向こうの方が一枚上手っぽいぞ?」
高速道路を降りてベイエリアを走り抜けようとしたところで、多数の黒塗り高級車が脇道から出てきた。
間違いなくアクセルの手勢だろう。
「うん。そうみたいだね」
一方ステアの方は変わらずに冷静だ。
「……どうするんだ?」
「うーん。降参でもする?」
「アホか――っ!!」
盗聴器どころか発信器まで仕掛けられたらしい。
部下の車にそこまでするなんて、アクセルの奴も大概疑り深い。
そのお陰で俺たちを追い詰めているのだから結果オーライなのかもしれないが、俺たちの方はたまったものではない。
とにかく、大ピンチだった。




