次男だからって人身御供かよ!? 07
所変わって塔宮学園。塔宮本家から車で三十分ほどの場所にあった。そしてその敷地面積はとんでもなかった。車から降りて俺の第一声は、
「……でかっ!」
だった。
いや、だってちょっとこれは学校の敷地としては有り得ないと思うんだよ。だって山一つ占領してるんだぜ?
都心部から僅かに離れた郊外に葛籠山というあまり大きくない山が聳えているのだが、実はこの葛籠山、塔宮家の所有らしい。そして葛籠山の面積を惜しみなく使用して作られているのがこの塔宮学園なのだ。
幼稚園・小学校・中学校・高等学校・大学・専門学校まで揃っている。しかも全寮制なので寮まで入ってるし外に出られなくても不便がないようにショッピングモールまで完備している。コンビニ・雑貨屋・書店・家電店・スーパー・レストラン・ファーストフードなど何でもござれならまだしも、ゲームセンター・漫画喫茶・カラオケまで揃っている辺り、学校としては色々間違っている気がする。
遠くに観覧車が見えているが、さすがに遊園地まではないだろう……と思いたい。学校というよりは学園都市という感じだ。
以前渡されたパンフレットは女子校だという事が分かった時点でめくる事を放棄してしまったが、まさかこんなとんでもない学校だとは思わなかった。
入口で新堂が警備員に塔宮家のIDカードを提示してから約十分。車で移動しているにもかかわらず、未だに目的地(学園寮)が見えてこないのだから、この敷地内を個人が完全に把握することは難しいだろう。
「ははは。さすがに驚いているようですね、棗生様」
車の中ではびっくりする俺を見て新堂がおかしそうに笑っている。
「ここが学校だって言うのが信じられないだけだ。学生の本分から著しく逸脱してくれと言わんばかりの環境だぞ、これは」
学園内に娯楽施設がありすぎる。はっきり言って複合施設の娯楽場だと言われた方がまだしっくり来る。
「塔宮学園の生徒は滅多に外には出ませんからね。必要な物はすべて学園都市内で揃えられるようになっています。娯楽施設に関しても、生徒達の要求に応えた形で増設したものです」
「応えるなよそんな要求!」
学校側が生徒のサボリ欲求を満たしてどうするんだ!
「まあ学園経営といっても、所詮は商売ですからね。利益に繋がることなら多少の倫理観は無視してしまうのですよ」
「確かに理には適ってるけどっ!」
しかしよくもまあこんな学校に子供を入れようという気になるよな。子供を遊ばせる為に大金払ってるようなものじゃねえか。
「いえいえ。生徒のご両親達からは結構好評なのですよ、この学園都市は。外で何をされるか分からないよりも、適度に娯楽が提供される環境でほどよく勉学に励んでもらえるのでむしろ安心だとか」
「……なるほど。そういう考え方も出来る訳か」
妥協や折り合いに絶妙な感じでつけ込んでるなぁ。塔宮グループってのは本当に商売上手だ。
そんな会話をしている内に目的地にたどり着いた。塔宮学園高等部第一女子寮。女子寮!
「……塔宮家関連の建物が無駄に豪華なのは、やっぱり貴族趣味とかそういうのなのか?」
ただの女子寮なのにやけに豪華な、趣のある洋館がそこには建っていた。全体が水路に囲まれた煉瓦造りで、窓がやけに高く配置されている。なんとなくヴェネツィアを思い起こさせるような造りだ。
「多少は悊人様の趣味もありますが、基本的には商売根性によるものです。ただのコンクリート造りよりも、歴史や趣、それに個性を感じさせる建物の方がお客(生徒)を呼び込めるのですよ。ちなみに第二女子寮は日本家屋風、第三女子寮は古城風になっています」
「…………」
確かにこれだけ凝っていれば建物が気に入ったという理由だけで入学してくる生徒も多いだろう。
「邑璃お嬢様は第一女子寮に入っておりますので、棗生様もこちらになります」
「了解」
学校っぽくなさについて考えるのはもうやめよう。商売根性という四文字で全部済ませられることが分かってしまった。
「学園と寮の方には既に話を通してありますので、このまま入寮してください。それとこれをお渡ししておきます」
「?」
新堂は黒いカードを俺に渡してきた。なんだかプラチナカードとかゴールドカードとかそういうのを連想してしまう。
「学園都市内の商業施設は全てこのカードでの利用が可能です。上限はありませんのでお好きな物を購入するなり、必要な物を揃えるなり、遊戯施設を利用するなりご自由にどうぞ」
「…………!」
なんかすげえカードもらった! つまり学園都市内では無制限に浪費出来るって事か!
「ちなみに学園都市内だけではなく、塔宮グループ関連施設でも同じように利用出来ますので、機会があればご活用下さい」
「うわあ……子供にこんなもの渡していいのかよ……」
若い内から金銭感覚が麻痺するのは将来的によろしくない気がするのだが。
「必要な物は当方で揃えますと約束しましたからね。当面の必要経費のようなものです。それと無茶な任務への前報酬という意味合いもあります」
「任務、ね。それなら遠慮無く使わせてもらうよ」
「ええ。たとえ億単位で浪費されたところで塔宮グループには大した影響はありませんから、浪費の限界に挑戦してみるのもいいかもしれませんね」
「怖い誘惑だなオイ!」
マジでその気になりそうじゃねえか! いかんいかん。とても有り難いカードではあるが、気を引き締めて利用しなければ。
「では自分はこれで失礼いたします。邑璃お嬢様のことをよろしくお願いいたします」
一礼してから新堂は車に戻る。車はそのまま走り去ってしまった。




