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百合色革命  作者: 水月さなぎ
第二部 VS篇
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未来への約束手形

 その後は二人で公園をぶらぶらしてみた。


 特に意味はないのだが、この公園は造りがかなり凝っていて、風景が見事なのだ。何かの記念に造られた公園らしく、無駄な……もとい並々ならぬこだわりがいたる所に見られる。


 見ているだけで、歩いているだけで楽しいというような場所だった。


 芝生の上で親子三人でお弁当を食べている家族もいるし、二人きりでのんびりと過ごしている恋人同士もいる。


 実にデートらしいデートなのだが、しかし隣にいるのが女の子ではなく男、しかも皇子さまとなると内心複雑だ。


「うーん。弁当は用意してないし、どこかお店でも入る?」


「そりゃ構わないけど軽食くらいしか期待できないぞ。そもそも食事どころじゃないんだから」


 広い公園なので喫茶店くらいはあるのだが、それでもちょっと小休止とうのが目的であって、本格的な食事をするような場所ではない。


食事と言ってもサンドイッチかパスタが精々だろう。


「空腹が解消できればなんでもいいよ」


「皇子様の台詞とは思えないなぁ」


「……ナツキ。君、僕のことを贅沢三昧至上主義者か何かと勘違いしてない?」


「勘違いというか、皇族ってそもそもそういうものなんじゃないのか? 本人の意志はともかく、周りがそういう風に教育するだろ。面子とか、体面とか、そういうのを重視するために」


「それを言われると色々心当たりはあるけど、少なくとも僕は違うよ。一ヶ月間は山の中で携帯食料のみで過ごしたこともあるしね。それに比べたらカップラーメンだって充分な贅沢だ」


「どんな皇子だよ……」


「僕は皇位継承権の低い皇子だからね。ある程度の無茶も色々してきたんだよ」


「第二皇子なのに?」


「第二だろうとなんだろうと、正妻の子じゃなければそんなものだよ」


「……理解できない世界だ」


「まあ、しなくても問題はないと思うよ。ナツキが関わることはない世界だろうから」


「そういうものか」


「そういうものです」


 というわけで俺たちは喫茶店に入る。


 飲み物とサンドイッチを頼んだ。


「でも、今日でお別れになるのは寂しいな。ナツキのこと、本当に気に入ったのに」


「そうは言っても別に本当に結婚したかった訳じゃないだろ?」


「あれ? バレてた?」


 ステアはタマゴサンドを頬張りながら意外そうに首を傾げた。


「そりゃあな。ステアの態度は恋した相手に対するものじゃない。それくらいは二日間も見ていれば分かるさ。こっちは時間稼ぎが目的だけど、ステアにも別の目的があるはずだ。それが何なのか見えないのがちょっと不安だけど」


「……ごめん。ナツキのことちょっとみくびってた」


 素直に謝ってきたステアに対して、俺は肩を竦めるだけで苦笑した。


「今から見直してくれればいい」


 それから改めてステアに問いかける。


「で、ステアはいったいどんなことに私を利用するつもりだったんだ?」


 俺は探るような視線をステアに向ける。


 利用しているのはお互い様だが、それでも俺個人に対しては何のメリットもないので、俺自身は利用され損なのだ。


 せめて納得できる理由だといいのだが。


「それは秘密。そのうち分かると思うし、分からないならその方がいいとも思う」


「意味が分からないぞ」


「分からないように言ってるからね」


「……帰ってもいいか?」


「今ナツキが任務を放棄したら、塔宮家に迷惑がかかるよ?」


「それはどうでもいい。もともとこの件で塔宮家に対して義理を通す筋はないからな」


「冷たいねぇ」


「そういう立場なんだ」


「じゃあ塔宮家は関係なしに、僕を助けると思ってもう少し付き合ってほしいって言ったら?」


「助ける?」


「そう。僕とナツキが二人そろっている状況がもう少し必要なんだ。駄目かな?」


「それはステア自身の理由か? 色事抜きで?」


「僕自身の理由だよ。色事抜きで」


 真面目な顔でそう言われて、俺はやれやれとため息をつく。


 そこまで正面切って誠実な態度でお願いされると、どうにも断りづらいものがある。


「報酬は?」


 だけどタダ働きをしてやるほど俺もお人よしじゃない。もらえるものはきっちりと貰っておかなければ。


「金銭、は必要ないよね? となると別の物になると思うけど、何がいい?」


 あのブラックカードが俺の手元にある以上、金銭的な報酬は確かに無意味だ。だからといって欲しいものがあるわけでもないので、いざ何を報酬にしようかと言われると言葉に詰まってしまう。


「……そうだな。じゃあこの先ちょっとした手助けをしてもらうっていうのはどうだ?」


「というと?」


「塔宮家が後継者問題で揉めてるのは知っているか?」


「まあ、敢えて揉める方向に持っていってるのは知ってるけどね」


「そこはあの当主の茶目っ気だろうな。私が言いたいのは、その際には特定の人物の後ろ盾になってほしいって意味だ」


「ナツキを後継者にするようにってことかい?」


「違う。私はもともとその資格がない。悊人氏もそのつもりはないだろう」


「じゃあ、誰を助ければいいんだい?」


「塔宮邑璃。塔宮家の嫡子だよ」


 邑璃の名前を出すとステアは少しだけ驚いた表情になった。


「そりゃあ血筋で考えれば彼女が跡継ぎになるのは必然なんだろうけど、今の当主は他にも候補を選んでいるよね?」


「ああ。だけど私は邑璃に当主になってもらいたい。そのための手助けをするって決めてるんだ」


「どうして?」


「私が彼女の人生を変えてしまったから。彼女は当主になるつもりなんてなかったし、きっとなりたくなかったはずなんだ。私がいたから当主になる意志を固めた。だから、私には彼女を手助けする義務がある。彼女を変えてしまった責任を取らなければならない」


「………………」


「本当はこういうのって褒められた手段じゃないだろうし、自分の力で成し遂げなければ意味がないっていうのが正論なんだろうけど、だけどこっちの世界はそういう綺麗事だけで渡っていけるほど甘くはないだろう? いくらこっちがまともに勝負をかけて正々堂々と勝ち上がろうとしても、いくらほかの当主候補がそれに応えてくれようとしても、周りはそうもいかない。自分たちが美味しい目を見るためにはどんな汚い方法にだって手を染める。もちろん担ぐ御輿には気づかれない方法で。そういう手段を取られた場合、まっとうではない対抗手段が必要になる。そのためのパイプを作っておきたいんだよ」


「……なるほどね。ナツキはその子に負い目があるわけだ」


「少しだけな」


「いいよ。いざという時はその子の力になると約束しよう。ナツキが助けを求めた時は必ず僕が助ける。未来への助力、その約束手形。報酬はそれでいいかい?」


「問題ない。口約束に過ぎないが、そこはステアを信用してみることにしよう」


「そう簡単に他人を信用しない方がいいと思うけどね。いや、僕が言うことでもないけどさ」


「信用っていうのは裏切りを前提にしたものだ」


「そりゃあ随分と薄情な信用だね」


「薄情かな? 人間なんて状況によっていくらでも裏切るものだろ? 悪意から裏切るものもいれば、利益の為に裏切るものもいる。それ以外でも守る者の為に裏切らなければならない状況だってある。要は優先順位の問題だ。どんな人間だって裏切らないってことはないはずだぞ。たとえば子供を人質に取られた親が友人を裏切れと言われた場合は、すまないと思いながらも裏切るものだと私は思うけどな」


「……確かに、それは真理だ。僕の考え方が甘かった。すまない」


「いいさ。要は結果で信頼を勝ち取ってくれればいいんだ。この場合裏切られたとしてもこっちに被害があるわけじゃないからな。当てにはするけど当てが外れたところで別の手段を考えればいい。そういうことだ」


「つれないなぁ。僕はただの保険かい?」


「そう思ってくれて構わない」


「現実的思考が出来る人間は僕も好きだよ。それでいこう」


 こうして、俺とステアはいざという時の契約を交わしたのだった。


 この後に起こった事件を思い出す頃には、もっと容赦のない条件を突き付けていればよかったと後悔することになるのだけれど、それはもう少し後の話になる。


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